からくり小僧1号2号
「「鉢屋先輩!!」」
穴掘り小僧との疲れる会話から長屋に戻ることにした三郎を、明るい声が呼びとめた。
振りかえると、1年生二人が妙に輝いた眼差しで三郎を見上げていた。
「えーと、私になにか用かな?」
「はい!」
「僕たち1年は組の夢前三治朗と、」
「笹山兵太夫でっす!」
「ああ。知っているよ。からくりを作るのが好きなんだってね。庄左エ門から聞いたことがある。」
「そうなんです。それで…」
「鉢屋先輩。」
「…なんだい?」
ふと真面目な顔になった二人に三郎も真剣になってみる。そして二人はぱんっと両手を祈るように組んで、
「「僕たちの師匠になってください!!」」
と頭を下げた。
「…は?」
まさか弟子入りを希望されるとは思わなかった三郎は、珍しく間の抜けた顔で二人を見下ろした。
二人はそれに気付いているのかいないのか。目を輝かせて三郎に迫った。
「僕、立花先輩に聞いたんです!!鉢屋先輩の考える罠の素晴らしさ!あの見事な手際で潮江先輩を貶める罠の数々!」
「僕も!竹谷先輩に聞いたんです!いかに鉢屋先輩が罠を張るために努力をしているか!学園長を池に落とすために自分で一晩池に潜むなんて僕たちには無い発想でした!!」
「「僕たち!先輩を尊敬しています!!だから弟子にしてください!!」」
「…そうは言ってもな。私の悪戯とお前たちのからくりでは種類が違うだろう。」
「いえ!僕たちのからくりには鉢屋先輩のような自由な発想が必要なんです!」
「この設計図を見てください!」
兵太夫が抱えていた図面をバッと床に広げた。そこに書かれていたのは、精巧なからくり図面。
じっくりとそれを眺め、三郎は勢いよく顔を上げた。
「これは…!」
「会計委員(主に会計委員長)を嵌めるからくり図ですっ。」
「でもこれではまだ何かが足りないんです!」
「なるほど…。」
たしかに、からくりは精巧だ。だがしかし、そこに足りないものがなにか、三郎にはすぐに知れた。
「兵太夫。三治朗。残念だが、私は君たちを弟子にすることはできない。そんなことをすればいろんな人から叱られてしまうからね。(雷蔵とか竹谷とか土井先生とか)」
「「ええ!?」」
「だが、私も一緒に遊ぶ分には構わないだろう?仲間に入れてくれるかい?」
「!!はい!」
「鉢屋先輩!僕たちと一緒に遊びましょう!!」
「よしきた!」
三人は年相応の笑顔で笑いあって、そのまま座り込んでからくりの図面を覗き込んだ。
「まず此処だが、槍が降って石つぶてが襲いかかるだけじゃあまだ甘くないか?これじゃあギンギン先輩に軽く避けられてしまうよ。」
「でもあまり厳しすぎると団蔵たち1年生の命が危うくなりますよ。」
「そうだな…。ああ。君たちは確かからくり部屋を持っていたね。」
「はい。」
「そこを、上級者コースと中級者コースと初心者コースに分けて罠をしかけるのはどうだ?」
「難易度を上げていくんですね!」
「楽しそうだね兵ちゃん!」
「そうだね三ちゃん!でも鉢屋先輩。そこに上手く上級生を放り込むにはどうしたらよいのでしょうか?」
「体重差トラップをかければいい。下級生と上級生では明らかに体重差があるからな。」
「なるほど!!」
「しかしそのためにも上級者向けをもっと厳しくしないとな。いくつかヒントをあげよう。」
サラサラと紙にいくつかの事項を書いて兵太夫に渡す。
「これを思い出しながら罠を張ってごらん。けっこう引っかかるはずだよ。」
「はい!ありがとうございます!」
「たしか、図書室にそんな本があったはずだから見繕ってこよう。君たちは戻ってさっそく作っていてくれるか?」
「わかりました!!」
「鉢屋先輩!本当にありがとうございます!」
「礼はいらないよ。私は一緒に遊んでるだけなんだから。」
じゃあまたあとで。と三人は別れた。