穴掘り小僧


なんとか無事に保健委員たちを送り届けたあと、三郎が来た道を戻っていると見慣れた紫の制服が円匙片手に佇んでいる。
保健委員会の不運の大きな一端である綾部喜八郎その人がいつも通りの無表情でそこにいた。
無表情ながら、しかしその顔はどこか不満気だ。
「………………おや。鉢屋先輩?」
視線に気が付いた綾部がこちらを向く。三郎はそこかしこに掘られた落とし穴をよけながら綾部の元へと近づいた。
「何やってるんだ?」
「結果を見ています。」
三郎はその言葉を聞いて、考え、展開して、
「…落とし穴のか?」
と再び尋ねた。
「それ以外なにが?」
「…まぁ。そうだよな。で?どういう結果だ?」
「…無念です。」
「そうか。」
「今日は保健委員がここを通ると情報があったのに。」
「…………そうか。」
誰だその情報を流したのは。こんな危険人物にそんな情報渡すんじゃない。
「保健委員相手に…まさか二つしかかからないなんて…。穴掘り師として屈辱です。」
「別にそんなプライドはいらんだろ。狙うなら上級生狙えよ。」
「狙っても善法寺先輩しかかからないんです。」
「ああ…なるほど。」
「立花先輩や七松先輩や潮江先輩や食満先輩や立花先輩を狙っても、なぜかことごとく。」
「なんで立花先輩を二度言った?」
「なぜかことごとく。」
「そうか…。」
作法委員で確執があるのだろうか。しかし狙われてもいない穴に落ちるとはさすが不運委員長。
「それならばどれくらい穴を掘れば保健委員が嵌まるか統計をとろうと…」
「いや待て!おかしいだろその展開は!」
「…だって鉢屋先輩。たとえ他に穴を掘ったとしても結局保健委員が嵌まるんですよ?もしくは一年は組かタカ丸さん。」
「穴を掘らないという選択肢は…。」
「私に息をするなと?」
「…だよな。」
「仕方ありませんから、もう少しグレードアップした落とし穴をつくります。」
保健委員に死亡フラグが。
「だから、次は鉢屋先輩も保健委員を助ける間もなく落として差し上げますよ。」
いや、私か。
「…楽しみです。」
艶やかに微笑んで、綾部は去っていった。
三郎はそれを苦々し顔で見送りながら、「四年ってやつは…」と呟いた。


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