不運小僧
ああ、今日もいい天気だ。
三郎はのんびりと中庭を散歩していた。
雷蔵も竹谷も兵助も委員会に行ってしまって、暇なのは三郎一人だ。では自分も委員会を招集するかと思ったが題材が思い浮かばない。
ふむと考え立ち止まると、ふとどこからか弱々しい声が聞こえた。
「ん?」
「…………〜。」
きょろきょろとあたりを見渡しても誰もいない。しかし再び声は聞こえ、三郎は耳を傍立て気配を探した。
「だれか…たすけてくださ〜い。」
「この声は…。」
眉をひそめ数歩進んだ先、ぽっかりと巨大な穴が開いていた。
「…大丈夫か保健委員。たち?か。」
「そうで〜す。」
「不破先輩ですか?」
「鉢屋先輩?」
「助けてください〜。」
三郎はやれやれとため息を吐くと、手を伸ばして一人ずつ引き上げてやった。
「助かりました。え〜と。」
「鉢屋の方だ。しかし保健委員全員か。ん?伊作先輩が居ないな。」
「善法寺先輩は」
「僕たちより先に穴に落ちて」
「怪我をしてしまったので」
「食満先輩が先に抱えていかれました。」
「そうか…。」
3年以下全員が穴に落ちるとはさすがに食満先輩も予想していなかったのだろう。相変わらず保健委員の不運っぷりはミラクルだ。
「怪我は無いのか?」
「あ。それは大丈夫です。僕たち、慣れてますから。」
そう言って遠い目で微笑んだのは、三年の三反田数馬。
「慣れたくないですがね。」
舌打ちせんばかりに吐き捨てたのは二年の川西左近。
「綾部先輩が卒業しない限りは無理だと思います。」
「僕もそう思います。」
うんうんとすでに達観した様子の1年は組猪名寺乱太郎とろ組の鶴巻伏木蔵。
ほぼ全員。泥まみれになりながらもお互いを支え合っている。健気だ。
「…はぁ。しょうがないな。」
「鉢屋先輩?」
「送ってやるよ。私は綾部の罠はすぐわかるから、その後に続けよ。」
「!!ありがとうございます!!」
「今日はもう穴に落ちないで済むんですね!」
「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」
「いいから。しっかり私の後をついてくるんだぞ。」
「「「「はい!」」」」
しかし、穴以外に次々襲いかかる不運に三郎は自身の能力をフル活用し、保健委員たちから尊敬の眼差しを一身に受けることになる。