ニャンニャン!!
兵助がいつものようにろ組の長屋に向かった先、目的の部屋から笑い声が漏れていた。
それに兵助もふと微笑み、明るい部屋に足を進める。
今日は委員会や宿題に追われて三郎を構うこともできなかった。たしか他の面々もそうであったから、今みんなで三郎を構っているに違いない。
すらりと戸を開けると、八つの目が兵助を迎える。
しかし、兵助はただ一点にのみ視線を集中していた。
「おー。兵助。遅かったな。」
一番に声を掛けてきたのは竹谷で。しかしいつもはそれに何らかの反応を返す兵助も今はそれどころではなかった。
「…………………。」
「…………………。」
じっと、見下ろした先、三郎が雷蔵の膝に懐いている。それはいい。
見降ろした先の三郎もじっと兵助を見上げている。それもいい。
「…………なにこれ。」
「猫耳。」
間髪入れず返した勘右衛門の声は笑いを堪えるように震えている。
「それと尻尾ね。」
雷蔵もご機嫌な様子で繋げる。
「伊作先輩から貰ったんだってさ。」
竹谷が状況を説明して、納得した。
納得はしたが、だが、三郎は明らかにいつもと様子が違う。
兵助は三郎から目を逸らさないまま部屋に入り腰を下ろした。
三郎もまた兵助を見つめたまま動かない。
しかし黒い三角の耳はピンと立ちときどき震え、黒い尻尾もゆらゆらと三郎の背後で揺れていた。
(……………可愛い。)
その様子に思わず兵助が和んで目元を緩めると、三郎はピクリと耳を震わせて、懐いていた雷蔵の膝から立ち上がった。
「三郎?」
突然の三郎の行動に雷蔵が戸惑いの声を上げるが、三郎はまっすぐ兵助の処へ向かったあと、胡坐をかいたその膝の上に乗りあげてくる。
「さ、三郎…?」
「……………兵助。」
「は、はい?」
「膝貸せ。」
「は、」
固まる兵助が答える前に、三郎はさっさと兵助の膝に頭を乗せて寝転がってしまった。
体を丸めて、本当に猫のように小さくなっている。
「〜〜〜〜〜〜〜。」
「おお、兵助が悶えてる。」
「あははは、気持ちは分かるよ兵助。」
「三郎…、さっきまで僕のところに居たのに。」
「雷蔵。気にすんな。猫は気まぐれなもんだろ。」
悔しそうに呟く雷蔵の肩を竹谷が叩いて慰める。だが兵助はその二人には目もくれず、じっと自分の膝の上の三郎を見つめていた。
(……………可愛い。)
思わずその頭を撫でても起きる様子はなく、その上尻から伸びた尻尾がくるりと兵助の腕に絡まった。
そのことにさらに愛おしさを感じて、兵助は三郎を撫で続ける。
嫉妬に駆られた保護者に頭をどつかれるまで、その手が止まることは無かった。
あとがき
にゃんこ三郎は雷蔵とどっちに絡ませるか迷った…。でも猫っぽく睨みあう久々鉢が書きたかったので^^
三郎に猫尻尾は萌えだっ…。