Happy Valentine!!!!
竹鉢ver
今日は朝からがっつり飯を食った。
朝早めに出て体力も残した。
今年は特別気合が入る。
なぜなら、あいつと付き合って初めてのバレンタインだからな!!
が。
俺の脳裏には「現実は厳しい」という言葉がぐるぐる回る。
学校に入ってさっそく必要になった紙袋はまだ朝だというのに半分まで埋まってしまった。
好意を寄せてくれる子に素気なくすることは俺には出来ない。
人を好きになる気持ちが分かるからなおさら。
「受け取るだけなら」という条件で、俺は紙袋の重さを増やしていた。
しかし気疲れはするので、恋人に癒しを求めれば冷たい目で「阿呆」と突き放される始末。
「あ、あの…三郎さん?」
「自業自得。」
「え。」
「因果応報。」
「あの。」
「よって、私。今日はお前の傍にはいかないから。」
「え。」
今、なんて言った?
「えええええええええええ!!!!!」
なんてむごいバレンタインだ!!
叫んだ俺に三郎は「うっさいハチ。」と蹴りをかましてさっさと自分の席に戻ってしまった。
そういう三郎だってモテるくせに、と見れば、その周囲には一つも包装されたものがない。
「三郎は全部断ってるよ。」
「雷蔵。」
「悪いけど、僕は三郎の味方だからね。」
にこり、と笑う笑顔が怖い。
三郎と付き合うことになったとき「泣かせたら承知しないよ…?」とトラウマを刻み込まれたのはまだ記憶に新しい。
あの時の体験を思い出してぶるりと体を震わせると、また知らない女の子が声をかけてきた。
「あの…竹谷君。これ…。」
「あー………。」
ふと、三郎の姿が脳裏に浮かぶ。
しかし。
体を震わせながら、怯えた目で俺を見つめる。…弱い生き物。
「…受け取るだけでいいなら。」
「!!」
こくこくと頷くその子の手から小包を受け取った途端、ガタンっと大きな音が教室に響いた。
シンと教室が静まりかえり、音の発生源を見つめる。
「…三郎。大丈夫?」
「…………………。」
三郎は蹴り飛ばし、大きくずれた机を直しもせず、その横に掛けてあった鞄を手に取った。
「…気分悪いから帰る。…雷蔵ごめん。あとよろしく。」
「うん。気をつけてね。」
雷蔵の言葉に手を振りつつ、三郎は教室を出る。
もちろんそれを追いかけようと俺も席を立つが、シャツの襟首を思い切り掴まれ「ぐえっ」と喉がなった。
「どこ行くのハチ?」
「どこって三郎追いかけに…。」
「駄目。」
「や。でも。」
「駄目。」
「すぐもど」
「却下。………あれだけ三郎がサイン出してて、それで気付かなかったなんて言わないだろうね?」
「や。あの…。」
「ハチの馬鹿さ加減にはほとほと頭に来たよ。三郎追いかけるなんて駄目。僕が許さない。行くよ。」
「ぐっ、が…っ、え、襟を引っ張るなよ!!行くってどこに!?」
「たーっぷりお説教出来るところ。」
そして振り向いた雷蔵の笑顔の後ろに、般若の面が見えた気がした。
それから俺は寒い屋上で、昼休みまでぶっ通しで雷蔵に説教され、昼休みになって探しに来た兵助と勘右衛門が追加されさらに放課後まで説教されることとなった。
「う、お、お、お…あ、足が…死ぬ…。」
説教と言えば正座。と言われほぼ半日足を崩すことも許されず。当然の結果、今は足の痺れに悶絶していた。
ほんの数秒前までは感覚もなかったのだが、今では足の痺れはピークに達している。
情けなく足を抑えて苦しむ俺にふと影が差す。
「あの、竹谷、くん。」
見上げれば、また見知らぬ女子だった。
その手の中の袋は、やはりチョコレートだろう。
「あの…受け取るだけでいいんです…。受け取って、くれますか?」
震えるその手を見て、雷蔵の言葉が甦る。
『ハチ。きみは思いを断ることはできないっていうけどね。それでどれだけ三郎が不安がってるか分かってる?』
『不安?』
『ハチは誰にでも愛想いいし、優しい。それはいいことだよ。君の長所だ。だけどね。三郎も他と同じように接しちゃ駄目だ。その辺、ちゃんと意識してる?』
『…それって、どういう…。』
『……………はぁ。これだよ。三郎可哀想に。こんなの、捨てちゃえばいいのにさ。』
『は!?え、ちょ、雷蔵さん!?』
『ハチ、三郎の事本当に好きなの?』
『当たり前だ!』
『じゃあ僕のことは?』
『は?もちろん好きだ。』
『兵助や勘ちゃんは?』
『好きだ…っておい!三郎はお前らとは違うからな!!』
『ああちゃんとそこはわかってるんだ。じゃあさハチ。』
『はい。』
『…三郎に、愛してるって言った事ある?』
『いっ…なっ…は、あ!?え!?』
『ああはいはい無いんだね。本当に、三郎はハチのどこがいいんだか…。』
『…どういう意味だよ。』
『そういう意味だよ。まともに愛を言えないやつと付き合うなんて。三郎はなんて可哀想なんだろう。しかもその男は八方美人ときた。きっといつも不安なんだろうね。』
『不安…?』
『そうだろう?君は人にまっすぐな好意を寄せる。誰でも構わずに、平等に。それに惹かれた三郎と同じく、君に惹かれてる人はいっぱいいる。あのチョコの数を見れば分かるだろう?』
『そんな…。』
『ねぇハチ。君さ。』
『まさか、一等仲が良いから三郎の告白を受けたなんてこと、無いだろうね。』
『…っ雷蔵!!いい加減にしてくれ!そんな訳ないだろう!?』
『そう?じゃあ…そう思われるのが嫌なら、これからあんまり周囲に愛想をよくし過ぎないことだね。』
断らなければ。
そう思いながら、俺は動けずにいた。
だって彼女たちは弱い。俺が首を振るだけで、たやすく傷つく。
そう思いながら、今度は三郎の顔が脳裏に浮かんだ。
(ああそうだ…。)
(あいつだって…。)
(強い訳じゃないんだ…。)
泣いていないだろうか。
悲しんでいないだろうか。
「ごめん。…受け取れないんだ。…ごめん。」
その子の顔が見れない。傷つけている顔をみるのが怖い。情けない。
俺は痺れる足を堪えながら立ち上がり、逸る心をなだめながら足を動かす。
無性に、三郎に会いたかった。
ハァハァと肩で息をする。
走って辿りついた三郎の家は、辺りが薄暗くなってきていたのにもかかわらず灯りが付けられていなかった。
俺は不安に思いながらチャイムを押す。
重い心とは反対に軽い音が響くが、反応無し。
続いて携帯を取り出し、三郎に電話する。
何回かのコールの後、「もしもし?」と不機嫌そうな声が届く。
そのことにやけにほっとして、「俺だけど。今どこ?」と聞いた。
しかし三郎は沈黙したまま喋らない。
「三郎?」
「…………………お前んちの前。」
「は?」
「…待っててやるから早く来い。寒い。」
それだけ言うと、三郎は電話をあっさりと切ってしまう。
俺は携帯を見つめてしばし呆然とし、慌ててまた走りだした。
「遅い。」
「ハァ…これでも…ハァ…全速力………。」
体力はもう限界で、俺は道端にぐったりと座り込んだ。
酸欠でくらくらする目の前に、すっと小さな紙袋が現れた。
「………………?」
「なに黙ってんだよ。受け取れよ。」
言われるままに受け取る。中身はとても軽いようだ。
「さぶろ…?」
「女にもらってへらへらしやがって…。私の作ったやつのが美味いに決まってる!!」
「え。」
「今日帰ってから作ってやったんだからな!!ありがたく食べろよ!!」
驚いて見上げるとすでに三郎はこちらに背を向けていて。
俺は慌てて立ちあがってその体を抱きしめた。
「…重い。」
「ごめん。体に力入んなくて…。」
「…汗臭い。」
「走って来たから…。」
「…食わねぇのかよ。それ。」
「食べる。でも…。」
俺は、三郎と一緒に食べたい。
耳元で囁くと、目の前の耳が真っ赤に染まった。
それを了承の意と受け取って、俺は三郎の手を引いて自分の家へ導く。
「あ。三郎。」
「……なんだよ。」
「愛してる。」
「………えっなっ!!ああ!?」
泣いてはいなかった。
でも、悲しんでいたのかもしれない。
同情なんかでも、行き過ぎた友情でもなく。
この手の中のチョコレートと三郎の赤い顔が、とても愛おしい。
三郎は唐突な俺の言葉にうろたえている。
しかし、それでも俯きながらとても小さい声で「…私も。」と呟いた。
途端に止まることを知らない感情が胸を突いて、俺は思い切り三郎を抱きしめた。
あとがき
書いた時のテンションが半端なかったその3。
竹鉢の三郎はツンデレ!!
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