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わかるかい?鉢屋。
そう、少し陰のある顔でその人は言った。
「つまり人間には雄として優位に立とうという傾向がみられるんだよ。人間に限らず雄全般に。だけれども。
自分の種を守る為ならたとえ同族であろうとも攻撃するのはこの本能から来ているよね。
人間だって理性があるから人というのだ、なんて言ったって所詮本能からは逃れられない訳だよ。そのために争いがあり戦が起こり、僕らのような人種が出来るわけだ。
だけど本能を捨ててしまえばそれはすでに生き物ではない。だから自分の種を残すための争いが無駄だとは言わないよ。本能に生きるというのも確かに大切なんだから。」
「つまり要約すると。」
三郎は地面に座り込んで遙か下方にいる上級生を見下ろした。
「先輩には先輩の男としてのプライドがあるから助けほしくはないと。そういうことですね?いままで気づかず失礼しました。それでは、」
「すみませんごめんなさい助けてください。」
要約し立ち去ろうとした三郎をせっぱ詰まった声が引き留める。
三郎は嘆息しながら持つのがくせになってしまった縄を薄暗い穴へ落とした。
「だいたいですよ。授業中に助ける食満先輩に次いで、委員会活動中に落とし穴に落ちた先輩を助けているのは、学級委員として見回りをしているこの私だという事実は変えようがないんですよ?わかっていますか?」
「うん・・・。鉢屋はちゃんと委員会してて偉いね・・・。」
「そうですね。さぼると伊作先輩が穴に落ちているかもしれないと思うとおちおちさぼりも出来ませんね。」
「ははは・・・。」
よいしょ、と伊作が穴からはいでる。それを手伝いながら、三郎は縄を回収した。
「ありがとう。鉢屋。助かったよ。」
「どういたしまして。」
泥だらけのまま伊作は困ったように微笑む。それは、三郎には一番見慣れた顔だ。
まぁ、穴に落ちたのだから他の表情のしようもないだろう。
ふと見上げた頭についている泥の固まりを摘んでとってやる。
それに、さらに伊作が変な顔をするものだから三郎はきょと、とその顔を見つめた。
「・・・なんです?」
「いや。僕かっこわるいなぁ、と思って。」
「・・・・・・今更?」
三郎の言葉に脱力する伊作を、三郎は呆れながら見つめる。
「だってもう何回目ですか?かっこわるいもなにもないですよ。」
本心からの言葉なのだが、伊作はますます情けない顔をして三郎を見つめ返す。
「だって、好きな子に助けてもらうのかっこ悪いじゃないか。」
その言葉に、三郎が再びきょとんとし、そして今度はニヤリと笑った。
「私は、そうでもないですけどね。」
だって、落とし穴と叫び声が聞こえれば、あなたに会う口実が出来るでしょう?
そう、いたずらっぽく笑う三郎を、しばし呆然と見とれたあと思い切り抱きしめた。
あとがき
拍手の、アミダのメンバーに伊作を入れるのをすっかり忘れていまして。
本当に、素で忘れていまして。友人にも怒られまして。
伊作ファンの方に申し訳ないので救済SS。短いですが。