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飢えた獣の叫び

のをああある とをああある やわあ

時折、ひどく飢える感覚が竹谷を襲う。
喉が渇いて、腹が減る。何かを欲して堪らなくなる。
ごくり。
唾を飲み込み、誤魔化そうとしてもどうにもおさまらないその飢餓感は、一体どこから来るものなのか。
暗い部屋で目を閉じる。
腹でも頭でもない、体の奥底から何かを欲する感覚に、意識を持って行かれそうになる。
(駄目だ。駄目だ。)
暴れそうになる意識を抑える。
なぜ抑える必要があるのか。そう意識の片隅が囁くのも無視する。
嫌な予感がするからだ。きっとこの欲に身を任せれば、きっと後悔することになる。そんな気がする。
竹谷はぐっと拳を握り、歯を食いしばった。
ギリ、と嫌な音がするがそれよりも口の中が苦くてしょうがない。
だから。
「…今こっち来んな。三郎。」
視界の端で、青色の装束がぴたりと止まった。
「…ハチ。」
「心配すんな。しばらくすりゃ直る。」
だから早く。早くこの部屋から出て行ってくれ。
離れていても微かに届く三郎の香りが、さらに竹谷の意識を掻きむしる。手を伸ばしたくなる。三郎が泣こうが叫ぼうが、きっと止まらない。
拳に込める力が増す。
愛しい人を傷つけたいなど、誰が思おうか。
だが、竹谷の中の飢えた獣が叫ぶ。涎を垂らして、こっちへ来いと呻く。
その肉体を食わせろと、飢えを満たせと唸り声を上げる。
三郎を視界から消すために腕に顔を埋めた。
それでも、三郎の気配はまだ消えない。
「…三郎。頼むから。」
「でも、」
「いいから、行け!!」
余裕の無い怒鳴り声に三郎の体が震える。
だが本当にすぐに出ていってくれないと、この獣が飛び跳ねて三郎を押さえつけるだろう。
それなのに。
優しい色の手が俺にそっと触れた。
ぐらり、と視界が歪む。息を吸い込んで、その中の馨しい匂いに目眩がする。
「さ…ぶろ…」
「ハチ…。」
離せ。
離せ。
逃げろ。駄目だ。このままここにいては
「ハチ。………なぁ。」
喉が、渇くんだ。
その声が届いた途端、竹谷の意識は黒く染まった。


「はっ…あ………ハチッ、ン」
竹谷の名を呼ぶ唇をガブリと噛みついて止める。吐息さえも飲み込んで、竹谷は思い切り口内に舌を伸ばした。
苦しそうに眉をひそめる三郎をじっと見つめ、ますます身の内の熱が猛るのを感じる。
力ずくでしがみ付く三郎の制服を剥いでいく。時折破けるような音もしたがそんなことには些細も気を取らずただひたすら目と意識は三郎を追い続けたまま。
「ン、んぅっ…ハァ…。あ!アアア!ん!」
唐突に自身を握られ、三郎が目を見開き声を上げる。竹谷はその口を再び塞ぎながらグチグチとすぐに固くなったそれを扱いていった。
急かすように手を動かしながら竹谷は、三郎の味に酔いしれていた。
甘露のように甘く。しかし舌に心地よい。酒精は無いはずなのにその味に酔いしれる。
もっともっとと求める獣に逆らわず、竹谷は口を離し三郎の下肢へ顔を埋めた。
執拗な口づけに頭がぼんやりしていた三郎はそれに気付かず、ただ唐突に訪れた快感に目を見開き悲鳴を上げた。
「あ、やぁああああ!ア、ヒァ!ヤ、あぁあンっ!ハッ…ハ、チィ…あぁん!」
どんどん先から零れる先走りを啜って、汗を舐めるように太ももにも舌を這わせる。柔肌を甘噛みする度に跳ねる体を腕一本で押さえつけ、そしてまた零れ出す蜜を吸い上げた。
「あ!ああぁ!ダメ、ヤ、あ、あああああああ!!!」
ビクリと三郎の体が大きく跳ねた。
はぁはぁと息を荒くして三郎は虚空を見上げる。時折ヒクリと動く体は快感の余韻からか。
…それとも愛でるように足を撫でる手のせいか。
竹谷は放たれたものを躊躇いなく全て飲み込み、再び顔を三郎の下肢に埋めた。
「ひっ、だ、だめだハチ!だめ!あ、あああ!」
達した直後の自身を嬲られる感覚に、焦点の合わなかった目はすぐに自我を取り戻し、竹谷の頭を剥がそうと手を伸ばす。
しかしいくら力を込めてもそれは叶わない。じゅる、じゅぷと再び濡れた音を出すそこに三郎の顔が赤くなる。
声も抑えられず、力も入らずか細い嬌声を上げる口に涙が浮かんだ。
「あ、ア…や、ぁ、ああっ、」
どくり、と先ほどよりは勢いの無い白濁が再び竹谷の口内に注がれる。
竹谷は今度はそれを飲み込まず、そのままヒクつく三郎の蕾に注いだ。ドロリと濡れた熱い感覚に「ひんっ」と三郎が小さく悲鳴を上げる。
それに目を細め、口には笑みを浮かべながら竹谷はそこに指をあてがう。
潤滑剤の役目を果たしたそれは、竹谷の指を助ける役目を十分に果たしていた。
ズッと濡れた音をさせて挿入させた指で、竹谷は性急にナカを広げる。
「ぃあ!あァア!ン、ふぁ!アアアン!はぁあ、あああ!」
「三郎…。」
己の指で乱れる三郎に竹谷の中の獣が悦びの声を上げている。
三郎の蕩けた目が、艶やかな声が、うねる肢体が、体中から流れる液体が、竹谷の中の獣を満たす。
ぐちゅん、とほぐれた中から指を引きぬく。
十分に解れたとは言えないかもしれない。それでも、竹谷は熱く滾る自身をもう抑えることはできなかった。
うつ伏せにさせ、ひたりとそこにあてがうと三郎がぼんやりした目で竹谷に振り向く。
目が合った途端、背筋を駆け抜けるものに竹谷は夢中で腰を押し付けた。
「ああああああああ!!ぅあ、ああ、あああ!」
跳ねる三郎の体を押しつけ、獣のようにがつがつと体を動かす。遠慮も気遣いも無い動きは竹谷に強い快感をもたらすが、心の中は己の獣を刺殺したい気持ちでいっぱいだった。
(三郎三郎気持ちいいごめん三郎好きだ三郎愛してる三郎三郎三郎ごめん三郎ごめん好きだ欲しい三郎お前が好きだ三郎ごめん好きだ愛してる。)
自分の中の獣は満たされている。御馳走をたらふく食べて喜んでいる。それがさらに憎らしい。
「三郎。」
「あ、ひ、ぁあア…、ハチ、あ!アぁああ!ンあ!はちぃ…っ」
手は床を掻き体を震わせながら竹谷の名を呼び啼く三郎が心から愛しい。
しかしこの衝動は愛しさからくるものなのか。
この飢えは。
三郎を抱いて満たされるこの心は。
愛ゆえと言えるのか。
「三郎…っ。」
「は、ああ!ハチ、ハチィ!あ、ああああアアアアア!!」
ごめん。
欲の解放と同時に呟いた言葉は、気を失った三郎に聞こえただろうか。


黒く染まった意識がふと浮き上がる。
三郎はゆっくりと目を開け、体を起こそうと力をいれた。
「…っ。」
しかし腰から響く疼痛にすぐに体は布団に戻ってしまう。
その痛みがなぜ起きるのか、すぐに三郎の脳裏に記憶が甦る。よく見れば今三郎が居るのもその相手の部屋だった。
ならば部屋の主はと首を巡らせてみれば、竹谷は三郎の横で膝を立て、腕に顔を埋めてそこにいた。
「ハチ。」
三郎の呼ぶ声にゆっくりと顔を上げる。酷い顔だ。と三郎は反射的に考えるほど、その顔は憔悴しきっている。
「酷い顔だな。」
「……ごめん。三郎。」
「何を謝る?」
三郎はそっ竹谷に手を伸ばす。だが、その手は届かず取られることも無いまま落ちてしまった。
「……俺は…、三郎が好きだ。大事にしたい。」
「うん。してくれている。」
「でも…できなかった。三郎を…こんな、俺の欲のままに抱きつぶすなんて、」
そこでまた顔を歪ませる竹谷に、三郎が目を細める。
「ハチ。」
「…………。」
「ありがとう。」
その言葉に竹谷は再び勢いよく顔を上げた。目を見開き、驚きを顔中に表して。
三郎は痛む腰をかばいながら上体を起こそうと体を持ちあげる。それに気付いた竹谷は慌ててそれを支えた。
その手を、今度はしっかりと三郎の手が掴む。
「ハチ。言っただろう?」
「さ、」
「私も、喉が渇いていると。」
「…え?」
「獣を飼っているのはお前だけじゃないさ。」
私のここにだって、と竹谷の手を自らの胸に引き寄せながら三郎は笑う。照れたような幸せそうな。
それは、いつもの情事の後の笑みで。
「お前は私を守ろうとした。…我慢できなかったのは私。」
「三郎?」
「謝るなら私の方だ。お前が、こんなに辛い思いをするなら…私は離れるべきだった。…ごめん。ハチ。」
竹谷は茫然と三郎の顔を見つめている。
その顔は相変わらず憔悴が見えていて、そのことに三郎は心を痛めた。手を伸ばし、今度こそその顔を撫ぜる。
その暖かい手に我に返り、竹谷はぎゅっとその手を握った。そしてその手を辿るように腕を伸ばし、目の前の細い体を抱きしめる。
「三郎…ごめん。三郎。」
「私こそ…悪かった。」
「好きだ。」
「私も。愛してる。」
だから獣が飢える。欲しいと、もっと欲しいと遠吠えを上げる。
二人の獣は満たされ微笑み、眠りについた。


のをああある とをああある やわあ

獣の遠吠えは、聞こえない。

あとがき
萩原朔太郎の「遺伝」の詩が好きです。微塵も雰囲気出せないけど。結構影響を受けているとは思う。
竹鉢久しぶり^^

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