月の下


※大したことないですがちょいグロ注意。モブがぐっちょんぐっちょんです。



空中に染みた水が空の王を滲ませる。
ベールを被ったようにぼんやりとしたその顔は、しかし常と変わらない表情であるにちがいない。

雷蔵はくるくると顔を変える友を脳裏に描き、頭上の月を冷めた視線で一瞥する。

なんとつまらんやつだ、と。嘲りの笑みさえ浮かべず。
あの友ならば、僕を笑わせることなどお手のものなのに。
ただそこにある美しさになんの意味がある。

視線を外し一歩足を踏み出せばぬるりと嫌な感触が雷蔵の足先から伝わる。

むせかえるほどの鉄の匂いに鼻が麻痺していたらしい。いけない、これでは火薬の匂いにも気付かないかもしれないな。
ぐい、と覆面を頬まで持ち上げぐるりと周囲を見渡し警戒する。

だが月が冷たく照らす下は物言わぬ死体ばかりだ。
その中心で、雷蔵だけが、佇んでいる。

物言わぬ、とは言うが意識があったとして何か言うのは困難だろう。
ある者は顎から下が消え、ある者は頭の天辺が陥没し、他にも手足の千切れる者、腹に穴の開いている者、もはや人の形が残っていない者までいた。
ぐじゅり、と足の下で何かを踏む音がする。
さてどいつ腑のだろうな、などと考えながら汚れた足をぐり、とそこらの体にこすりつけた。


殺し方が汚いと、友にも先生にも言われる。
彼らの呆れたような視線に雷蔵は(だって、)と覆面の下で頬を膨らませた。
人の体は柔すぎて、ちょっと力を加えただけで壊れてしまう。
こちらは精一杯抑えているのに、それでも人は柔すぎる。

げしっ、と今まで足を拭っていたそれを蹴飛ばすと、またぐしゃりと水袋の潰れる音が周囲に響いた。
散った赤は暗闇ではただの黒と変わらない。足に跳んだ血に不愉快そうに舌打ちして今度は地面に生えた草に足をこすりつける。
だがそことて血の海にまみれた赤。
汚れの広がった自分の足を見、それから赤の飛び散った自分の体を見、大きくため息を吐いた。
まだ脱ぐには寒い季節だというのに、べっとりと汚れた忍服はひどく不快だ。
じくじくと足に感じる濡れた感触は、きっと足袋の内まで浸食した服と同様の赤色だろう。
この赤の意味とか、麻痺した鼻の意味ではなく、ただその濡れた感触が不快であった。

彼がこの赤に染まれば、ひどく綺麗だろうに。
自分と同じ顔だというのに、彼はひどく綺麗に赤を纏う。だが、彼が赤に染まることなどついぞ見たことがない。

ああ、そうだ。
ぐじゅ、ぐちゃ、と肉片を踏みつぶしながら雷蔵はそっとほほ笑む。
帰ったら、彼の白い夜着に飛びついてやろう。
彼はきっと受け止める。そして、この赤に濡れる。
ひどくびっくりした顔をするのだろうな。赤に濡れる彼は綺麗だろうな。

ほくそ笑む雷蔵は暖かい塒へ帰る足を速める。
この赤が乾かないうちに。はやく帰らねば。



あとがき
作風を変えようとして見事に失敗した感じ。
頭いい文章が書けるようになりたいなぁと日々精進でございます…。


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