心底嫌いと書いて天敵と読む。

「げ。」
「ん。」
五年と六年は接点がすくない。
そして。接点があるとすれば、それは図書室や医務室と言った公共の場しかなく。
数少ないそこで、人数の多いこの学園で、偶然出会うのはなかなか低い確率である。
しかしそれを全く喜べない相手もいるものだ。
「立花先輩コンニチワ。」
「なぜおまえがここにいる?」
挨拶くらい返せよこのヤロウ。
三郎は内心で盛大に罵声を浴びせながら、苦々しい顔を隠すことなく「怪我をしたので。」と端的に答えた。
「怪我?」
「はい。」
仙蔵も嫌そうな顔を隠しもせず言葉少なに問う。
三郎も答える義務はないと思いながらも短く返せば、さらに嫌そうな顔をした仙蔵が「………そこに座れ。」と医務室の床を指さした。
「なんで立花先輩に言われなきゃいけないんです。伊作先輩は?」
「留守だ。私はその代わりだ。」
おまえがくるとわかっていれば引き受けなかったものを。
「…ふつー、そういうことをはっきりいいますか。」
「言うさ。なぜおまえが怪我などするんだ面倒くさい。」
「俺だって雷蔵に言われなきゃ来ませんでしたよ。あんたがいると思えばなおさら。」
「先輩と呼べ。そしてそこへ座れ。」
「嫌ですよ。手当くらい自分でできます。」
戸の前で立つ仙蔵の脇をよけながら三郎が中へ入る。
そのまま整頓された薬を少し拝借させてもらおうと物色するその肩に。
「いっ……。」
「い・い・か・ら・す・わ・れ。」
ぎりぎりとその細い指に似合わない強い力で両肩が捕まれる。
その痛みから逃げるように体をひねれば、ねらったように座布団の上に膝をつくことになり。
「…………。」
「怪我した奴を逃がすと伊作がうるさいんだ。」
「…自分で手当するんだからいいじゃないですか。」
「適当にやるだろうがお前。」
かちゃかちゃと薬棚を漁る仙蔵が、ゆっくりと振り返った。
その満面の笑みには嫌な予感しかしない。
「…え。なにその笑顔きもいんですけど。」
「ほら治療するぞ。怪我したところを出せ。」
「…………嫌だ。」
「おまえに拒否権があるか。」
そっぽむいて拒否するが、怪我した足が無理矢理体の下から引き抜かれる。
その勢いで後ろに倒れる三郎には目もくれずにその部分を露わにさせた仙蔵が、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「さあ、治療しようか。」
「……!!!!!あんた待てそれ伊作先輩特製の超しみる奴…………っ!!!!」
「ほう。悲鳴をあげないか。」
「このドS…。」
「おまえの同級生と違うからな。そんな涙目でにらまれてもなんとも思わん。ほら。治療が終わったらさっさと行け。」
その言葉に怪我した部分に目をやれば、すでに白い包帯がしっかりとそこに巻かれていた。
痛みに悶絶している間に処置が終わったようだ。
「………手ぇ早いな。」
「人聞きの悪いことを言うな。それから礼がまだだが?」
「失礼しまーす!」
「もう私のいるときにくるなよ。」
「だれが!!」
スパンッと戸を閉め忍にあるまじき、そして鉢屋三郎ではめったにないことに足音荒くその場を去った。


その心では次に医務室で代わりをするのは自分だと決めてる。


「絶対しみる薬使ってやるからな……。」


首を洗って待ってろ立花仙蔵。

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