太陽よりも熱く
燦々と降り注がれる太陽の光。
緑はその恩寵に喜ぶように葉を茂らせそれを浴び、下に濃い影を映しだす。
太陽でなくその木陰の恩寵を受ける人間が二人、そこでぐったりと足を伸ばしていた。
「あっっちぃぃ。」
「ほんっと………。あっついねぇ。」
うんざりした顔の二人はまとわりつく髪をうっとおしそうに払いながら手で煽ぎ、その風を受ける。
「こんなくそ暑い日に鍛練とか言いだす馬鹿の気がしれん。」
「同意……。」
その馬鹿は二人で炎天下の中組手を行っている。
休日だというのに体を鍛えることに余念のない二人は汗を流しながらいかにも楽し気に体を動かしていた。
「ううう…雷蔵は委員会だし。あっちのが涼しそうでいいなぁ。」
「あっちはあっちでおんなじこと考えてる人で溢れてると思うよ。」
三郎が図書室へ視線を向けるのを邪魔するように勘右衛門が指摘する。
その目は兵助の髪が流麗に動くのを何とはなしに見つめ、竹谷が汗を輝かせながら拳を振るうのにため息を吐いた。
「まったく…これだから前線大好きの鍛練馬鹿は………。」
「そういう勘右衛門は?」
「俺はたまに前線こなす頭脳労働派。三郎は?」
「後方援助の頭脳労働派。」
「…………なんで俺たちここに居るんだろうな?」
「鍛練馬鹿たちに拉致されたから。」
すっぱりとこの状況の説明を完結させ、しばし沈黙が二人の間に落ちる。
「……拉致ってことは逃亡の余地があるってことだよね。」
「…だな。」
そして二人は気配を消してその場を後にした。
「三郎。ほらこっち。」
「うん。」
雷蔵以外の人間の言うことを素直に聞く三郎を、普段の三郎しか知らない人物が見たらきっと驚くだろう。
勘右衛門はそれを思いながら三郎の手を握る。
二人は学園の近くの川を目指していた。森の中にひっそりと流れるそれは木陰と相まってきっと涼しくさせてくれるだろう。
とっておきの場所だ。
「着いた。」
「ここ?」
「うん。」
言うが早いか三郎はすぐに忍足袋を脱ぎ足を川に浸して座りこんだ。
「あー…きもちいーー。」
うっとりと足を浸す姿が木陰で寝る犬のようだ。言うと怒るので口にはもちろん出さないが。
小川と言っても差し支えないほどの幅だが、中ほどは結構深い。
勘右衛門は袴を残し素早く衣服を脱いでその中へ飛び込んだ。
ばっしゃん!と激しい水音がして飛沫が三郎にかかる。
「うわっ、おい勘!!」
「あはは。ごめんごめん。」
濡れて萎んだ髪を掻き上げながら軽く謝るが、機嫌を損ねた三郎はそっぽを向いてしまう。
苦笑して勘右衛門がそちらへ泳いでいけば、その顔は赤かった。
「ん?三郎?」
「…………ずるい。」
「は?」
小さく呟かれた言葉の意味が分からない。
三郎はそっぽを向いていた目を勘右衛門に合わせるともう一度「ずるい。」と言った。
「なにが?」
「勘右衛門、頭脳労働派って言ってたよな?」
「うん。」
「私だってそうなのに。なんでそんなに体がごついんだっ!」
「ごつい?」
そうかなぁと勘右衛門が自分の体を見下ろすが、別に筋肉隆々の肉体ではない。むしろバランスの取れた体だと思っているが…。
「ごついっていうのは、ハチとかのことを言うんだぞ三郎。俺は別にごつくないよ。」
「うそだ!!」
「うそって…。」
そこまできっぱりと言われてしまえばこちらもなんて返したらいいものか。
「三郎はそうじゃないの?」
「うっ。」
純粋に疑問に思ったことを言えば、いつもならさらりとかわす三郎が言葉に詰まる。
悔しそうに自身の体を見下ろす姿に、勘右衛門は無性に愛しさを感じる自分を自覚した。
「…なに?三郎変装の為に筋肉付けないって、じつは結構気にしてたの?」
「ばっ、なっ、べ、別に!!」
「いいじゃない。俺三郎の体好きだよ。」
「それに、恋人の体が嫌いな訳ないよね。」
ニコニコ笑いながら言われた言葉に、三郎は声も出ない様子でただ口をぱくぱく動かしている。
真っ赤になって固まっているのをいいことに、勘右衛門は水に濡れた手を三郎へ伸ばした。
冷やされた手が袷から忍びこまれ、その冷たさに三郎の体が粟立つ。
「やっ、かん、やめっ」
「ね。三郎の体も見せてよ。」
「いっ、つも見てるだろうが!!」
叫ぶように三郎の腕が突っぱねり、勘右衛門の体を押す。その抵抗に逆らうことなく、勘右衛門は三郎のその言葉に微笑んだ。
「そうだね。いっつも見てるよね。」
「な、なら…。」
「褥で。俺と三郎、お互いの体を、じっくり、見ているもんね?」
クスリと聞こえた微かな笑い声に、また三郎の顔が赤くなる。ようやく自分の言葉の意味が分かったようだ。
「でも足りないんだ。」
「か、かん?」
「もっともっと三郎を知りたい。三郎を見たい。」
三郎の腕を掴んで引き寄せる。呆然と勘右衛門を見上げていた三郎はそれに逆らうことなく勘右衛門の胸へ倒れ込んだ。
「ね。三郎。」
そして間近に見た笑顔に、三郎が逆らえないことを知っているに違いなかった。
「ん…は、ン」
くちゅり、と舌が絡み合い濡れた音を立てる。川のせせらぎとは違うその音に三郎は羞恥に顔を赤く染めた。
耳を塞ぎたいとばかり考えている間に、勘右衛門がするすると三郎から服を取りはらう。現れた肌に触れた空気は木陰にいるせいか涼しいくらいだ。
「ほら…。三郎。よく見せて。」
「う…………。」
恥ずかしそうに縮こまる体を、二コリと微笑みながら開いていく。
だが、その体を見た途端クラリと勘右衛門は目眩に襲われるのが分かった。
「…三郎。すげーきれい………。」
「し、忍びには褒め言葉じゃないだろ…。」
「でも…ほんとに綺麗。」
明るいところで初めて見た三郎の体は、予想以上に勘右衛門の脳を揺さぶった。
汗がにじむ白い肌に、桜色の飾りが立ち、細い体はしかし肋が浮く程でもなく。薄く筋肉がついているのが手から伝わる感触で分かる。滑らかな肌は大きな傷は見当たらない。
そして、三郎は恥ずかしそうに涙目で勘右衛門を睨むように見上げているのだ。
「三郎。ごめん。」
「?なに、」
「我慢できない。」
「へ!?んっ!!」
押し倒した拍子、ばしゃんっと三郎の足が水を蹴る。その水が勘右衛門にかかるのも気にせず、三郎の唇を無我夢中に貪った。
「んっ、んーー!!かん!ちょっぅん!!」
舌を吸い絡ませ、上顎を舌先でくすぐり歯列もなぞる。
勘右衛門の全ての動きに体を震わせ、ようやく解放された時には抵抗も忘れて、手は勘右衛門に縋るように伸ばされているだけであった。
そのまま手を下に伸ばそうとしてふと気付く。
三郎の体の下は石ばかりである。
「三郎。おいで。」
「あ…?」
勘右衛門は三郎の腕を取り起き上がらせると、自分が石だらけの川岸に座り、三郎を膝に乗せる。
「背中、痛いだろ?」
「別に…平気だ。」
「そ?」
否定するものの、勘右衛門が三郎を下ろす気配はない。
そのことに少し顔の赤みが増した三郎を、愛おし気に見つめて小さく口づけた。
「でも、俺の理性が効くのもここまでだと思っていいよ。」
「え?っひぃあ!?あっ、あ!ぅン!!」
ニヤリと笑った勘右衛門にポカンとして首を傾げた後、性急な手が三郎の下帯の中へ侵入したのだ。
グチグチとすぐに濡れた音を出し始めたそこにさらに顔を赤くした三郎を、勘右衛門が下からじっくりと見つめている。
三郎自身は気付いていないようだが、汗を光らせ、恥ずかしそうに目を伏せて喘ぎ声を堪えようと必死で手で押さえるその姿は勘右衛門の欲を煽る以外の役割を果たせていない。
先に三郎に言ったとおり、勘右衛門は理性を本能のままに手放し遠くの彼方に追いやっていた。
だから、その手が三郎の尻の間に滑りこんでもそれは勘右衛門の理性が貧弱なせいではないだろう。
色っぽ過ぎる三郎がいけないのだ。
「んひゃ!?やっ、あ!!」
「…かわいい声。誘ってる?」
「ば、かぁっ。あっ、はン、ん、んぅ…あ!あ、あっああああ!!んぁっやぁあん!!かん、やぅ!」
ぐるりと三郎の感じる部分を指でなぞって、一度イカせるがそれで終わりにするはずがない。
勘右衛門の手は再び三郎を快楽に溺れさせる。前を握る手は速さを増し、穴を抉る指も数と勢いを増していく。
ぐちゅぐちゅと濡れた音をさせているのはもうどちらからか分からない。
もう声を抑えることも忘れてただ勘右衛門にしがみつく三郎に、勘右衛門も荒い息を吐いた。
「あ…。」
「三郎、」
勘右衛門の手が止まり、下肢に当たる熱に三郎が勘右衛門を見つめる。
勘右衛門はその視線をまっすぐに見返し、名前を呼んで三郎に口づけた。意図を察した三郎が、砕けた腰になけなしの力を込めて体を持ち上げる。
勘右衛門もそれを支えながら、素早く自身を取りだした。
くち、と川のせせらぎに消えそうな濡れた音が触れたそこから聞こえる。
「三郎…。」
「は、あっあ、あああああああ!!」
先をゆっくりと沈め、一番太い部分をやり過ごした後一気に三郎の中へ自身を押し進める。
途端に締め付けたそこに息を吐いて射精を堪え、勘右衛門は再び己の上の三郎を見やった。
「あ、あンっ、はぁ、はっ…。あ…。」
暗い中でさえ、この声に欲情していたとうのに。
明るい場所で見る三郎は、勘右衛門の想像を超えて網膜に焼きつく。
恥ずかしそうに顔を伏せて、でも目は快楽に蕩けて半分理性を手放して。口は薄く開いたまま、赤い舌が勘右衛門を誘うようにちらりと覗くのが見えた。
「はっ、三郎…。」
「あ…ん、ふぅン…。」
三郎の後頭部を支えて、先ほどから誘う舌を絡め取る。素直に口を開く三郎に目を細めて、勘右衛門は体を動かした。
「ンッ、ンン!ン―――ッ!ふはっ、ああ!かん、や、りゃぁ!あああああん!だめ、はげしっ、あぅン!!」
「はっ、さぶろ、だって、腰揺れてんじゃんっ!」
「やぁああ!ひゃぁあんっ…あっア、あああァ!!」
勘右衛門が下から突き上げるだけでは足りないのか、三郎も懸命に腰を揺らして快楽を拾おうとしている。
イヤラシイ動きに勘右衛門も動きを早めるが、目の前で乱れる体に釘付けになってしまう。
「さぶろー、やっぱ、綺麗だな。」
「やぁ!?」
「もっと、俺の手でいやらしいところ見せてみてよ。」
「あっ、んぁ!あ!だ、めぇっ!!あっあ、イっちゃ、あ!!あああああああああ!!!」
感じるところを一度に責められて、目を見開きながら三郎が達する。
強い快楽に締まったそこへ勘右衛門も欲を放つ。
達した三郎はぐったりと勘右衛門へ凭れかかった。
まだ時折ヒクリと震える体は、相当快楽が強かったようでまだ治まる様子を見せない。
「さーぶろ?大丈夫?」
「…なわけあるかばかえもん……。」
「あ。それはハチの称号だろ?ほら他に言うことは?」
「…………………。」
むくり、と顔を上げた三郎は、いやに嬉しそうな勘右衛門の笑顔を見つめる。「ん?」と勘右衛門が促すと、呆れたようなため息のあと、もう一度勘右衛門に抱きつき囁いた。
「勘右衛門、好き。」
「俺も、三郎が好きだよ。」
抱きしめた体は華奢ではないが、しっとりと抱きしめると確かな感触を持って勘右衛門にそれを伝えてくる。
すこし、体が熱いのは快楽の熱が冷めないのと照れているのだろう。
かわいいなぁ、と勘右衛門はひっそりと微笑み、三郎が落ち着くまでずっとそうして抱きしめていた。
抱きしめる感触があまりに心地よくて、帰るのがすっかり遅くなったのは置いてけぼりにされて怒った友人たちにも内緒である。
あとがき
一万打フリリク「勘鉢で甘甘いちゃいちゃの裏。」でした。…いい加減待たせ過ぎだと言う話。
遅くなって申し訳ありませんでした!!!!!
匿名の方からのリクでしたのでフリーにします!!どうぞお持ち帰りください!
かっこいい勘ちゃんは本当に私好みだ。