すきんしっぷ





「ほーら三郎。おいでー。」

と。目の前の笑顔に言われてしまえば体は勝手に動いてしまうもので。
気がつけば三郎は雷蔵の腕の中で気持ちよく和んでいた。
その頭に添えられた手は優しく動き、背中に回された腕もまた優しく三郎を抱きとめている。
おもわず瞼もとろんと下がってしまいそうになるが、その途端感じた気配に目を開く。
雷蔵もその三郎の様子に気が付き、戸に目をやると同時、すっと戸が開かれた。
「何?兵助。」
「いやお前らもなにやってんの?」
「見て分からない?三郎を可愛がってるの。」
放たれる声は不機嫌に来訪者へ向けられる。
来訪者である兵助はめったに表さない雷蔵の不機嫌な様子に顔を引きつらせていた。
「…その言い方はどうかと思う。」
「そう?正しいじゃない。ねぇ三郎?」
「もちろんだよ。雷蔵。」
三郎が雷蔵の言葉に否を言うはずはない。
そのことを理解している兵助はため息を吐いてその状況を流すことに決めた。
「…今度の休み、みんなで新しく出来た甘味屋に行こうって誘いに来たんだ。」
「甘味!?」
その言葉に三郎が笑みを浮かべて体を起こそうとするが、雷蔵の腕がそれを許さない。
「いいね。三郎も行きたいみたいだし、みんなで行こうか。」
「ん。それだけ。邪魔して悪かったな。」
最後の言葉に雷蔵は笑みだけ返す。
その顔に兵助も苦笑して、元の通りに戸を閉めた。
再び訪れた二人だけの空間で、三郎はそっと顔を上げる。
その途端、慈しむような笑みを浮かべた目と合って、三郎の顔が赤く染まった。
その様子にくすくすと小さな笑いを零し、雷蔵がそっと三郎の頬に手を添える。熱くなった顔を触られて恥ずかしかったが、三郎は心地よいその手にそっと目を伏せた。
「三郎かわいいなぁ…。あぁ…癒される。」
「…なにかあったのか?」
いつも三郎から甘えに行くことは多いが、こうして雷蔵が自分を進んで甘やかすのは珍しい。
それに加えて今の発言ではなにかあったと思うのが妥当だろう。
「うーん…。そうだねぇ…。」
「雷蔵。隠すなよ。」
「うぅん………。」
「雷蔵。」
「………君はもう少し自分の魅力を理解するべきだよ。」
語気を強めて追及したものの、返ってきた返答に三郎は首を傾げる。
「私が…なにかしたか?」
「ああいや。三郎は悪くないんだ。ただ、ね。君が誰のモノか知らない人が多くてね。」
ふぅ、とため息を吐く雷蔵に三郎はきょとんと目を丸くさせて身を乗り出した。
「私は雷蔵のだろう?」
「うん。でもそのことを分かっていない人が多くて。」
あれだけ雷蔵への愛を主張して常にこの姿でいるというのに、三郎が雷蔵だけしか見ていないことを理解しないなどとそんな人間がいるのだろうか?
「君が狙われていると思うと気が気じゃないから忠告して回っているのだけど、どうにも後が絶えない。」
まぁ、三郎がかわいいのはしょうがないんだけど。
触れ合うほどに近くなった顔を両手で捕まえ、その唇に口づけを落とす。
それにまた三郎が顔を赤くして自分の胸に顔を埋めるのを雷蔵は愛おし気に見つめた。
「こんなに可愛い三郎が見れるのは、僕だけなのにねぇ。」
「ら、らいぞう…。」
「ん?」
「そいつらは…えと、私じゃなくて……ほんとは、雷蔵を狙ってるんじゃないのか?」
雷蔵は優しいし、かっこいいし、私と違って人当たりいいしと言葉を連ねる三郎は本当に雷蔵をとられると思い始めたのか言っていてだんだん顔色を悪くしていた。
雷蔵は呆れたようにその様子を見ながら、しかしどうしようもなく愛しさが沸いてその体を抱きしめる。
「ら、雷蔵?」
「そういうところが可愛いんだよ君は…。僕みたいな性格悪いやつ狙うはずないだろう?」
「そんなことない!!雷蔵は素敵なんだから!」
「ふふ…。ありがとう三郎。でも、君は心配する必要は無いんだよ?」
「え?」
「僕は、君しか見ていないんだから。君が心配することは何もない。」
ね?と微笑む雷蔵は慈愛に満ちた目で三郎の目を見つめている。
その両手はしっかりと三郎の背に回されていて、離すまいとばかりに力強く支えていた。
「………雷蔵。」
「なぁに?」
「……………私、今すごくしあわせ。」
「そう。」
ぽすんっ、と再び三郎は雷蔵の体へ飛び込む。
嬉しくて胸が疼くのを顔を押し付けるようにして誤魔化して、三郎はうっとりと瞳を閉じた。
「らいぞう……。だいすき。」
「もちろん。知ってるよ。」
頭を撫でてくれる手が優しくて心地よい。背中に回された腕はしっかりと三郎の体を支えている。
目を閉じながらも感じるその体温に、三郎は今度こそ幸福のため息を吐いたのだった。

あとがき
いちゃいちゃしてる黒雷蔵と三郎の話が書きたくて…。
いや趣旨は間違ってないんだけど、やりすぎた…。甘……。


忍たまTOP