それは春がくるたびに
山を谷を、素早く動く影が二つ。
「思ったより早く終わってよかったな。」
「そうだね。これなら帰還予定の昼より早く着きそうだ。授業にも間に合うかも。」
木々の上を飛ぶように移動しながら、三郎と雷蔵は暗闇の中で言葉を交わす。
もう追手が来ないのも確認済み。このまま学園に帰還すれば任務は終了だ。
「あ!雷蔵。止まって!」
「え!?」
ザッと音をさせて二人の足が止まる。
三郎はじっと遠くを見つめ、動かない。すわ追手か、もしくは学園への侵入者かと雷蔵も気を張り詰めた。
「…こっち。」
小さく呟く声に頷いて、雷蔵は三郎の背を追う。
そうたいして移動せずに、再び三郎の足が止まる。それに倣うように雷蔵も足を止め、それから、目を見開いた。
「う、わぁ…。」
「すごいな。」
目の前いっぱいの、薄桃色。それは微かな月の光に照らされ白にも見える桜の花。
ざ、あああ。
風に吹かれ、花びらが二人の目の前を吹雪のように通り過ぎて行った。
「……綺麗だね。」
「うん。…綺麗だ。」
どちらともなく、二人はその桜の中を歩き始める。ひらひらと落ちる花びらが雨のようだ。
雷蔵はふと、隣にいる三郎に目を移した。
三郎は視線を一心に桜に注いでうっとりと微笑んで佇んでいる。
「………っ!!」
どくり、と雷蔵の胸が脈打つ。
いつの間にか、喉が渇いていた。指先が震える。目が、三郎から、離れなくて。
気がつけば、雷蔵は三郎の体を思い切り抱きしめていた。
「雷蔵?」
きょとん、と三郎は雷蔵の心中など知らず雷蔵の顔を覗きこむ。強く抱きしめた体は抵抗する様子など微塵も無く、ただ雷蔵にされるがままで。
「三郎…しよう。」
熱の籠もった目で雷蔵は三郎をしっかりと見つめる。視線を外すことなど許さないと思いを込めて見た目は、驚きに見開かれていた。
「いきなりどうし、んっ、」
「三郎…。」
「らい、ふっ、ぅん…っ、」
降り積もる花びらより少し濃い色の唇を貪る。その中の柔らかい舌を絡め取って思い切り吸い上げた。
三郎の閉じられたまつげがふるりと震える。その様にも欲情して、雷蔵はうっとりと三郎の口内を舐った。
そうしているうちに三郎の手は縋るように雷蔵の装束を握り、足は力が抜け背後の桜の木に凭れた。
くちゅ、といやらしい音をさせてようやく唇を解放すると、二人の間を銀色の糸が繋いだ。それを見た途端恥ずかしそうに目を逸らす三郎がたまらなく可愛くて、雷蔵は噛みつくように三郎の首筋に顔を埋めた。
ねっとりと透けて見える血管の上に舌を這わせる。三郎は「ふぅ、っん」と小さな声で可愛く啼いて雷蔵にしがみつき、それに目を細めながら、雷蔵は三郎の装束を性急に剥いでいった。
まだ外の空気は何も纏わない体には冷たく、露わになった肌に鳥肌が立つのを雷蔵は己の手でやさしく擦っていく。やがて胸の飾りに辿りついたところで寒さで立ちあがったそれにそっと舌を絡めた。
「ひぃあ!あ、ん、はっあ!」
「三郎…。」
雷蔵の手が袴と下穿きも解き地面に落とす。
「三郎、そっち、手をついて。」
「ふ…え?」
「ほら。」
恥ずかしさと快感から思考の鈍ってきた三郎の手を取り、背後にあった桜の木にしがみつくように体制を変えた。
「ごめん、今日、濡らすもの持ってないから…。」
「え…?…あ!や、ヒ、ああ!!」
雷蔵は三郎の尻を左手の中指と人さし指で広げ、その奥の蕾に舌を這わせる。あらぬ場所に感じた濡れた感触に三郎の体が跳ねた。
「あぁああ!やだ、らいぞ、ん…あ!そ、れやだぁ!!」
「ごめん。だけど我慢して。傷つけたくないんだ。」
「…ふ、ぅんぁ、ああ、ヒァ、ハッ」
雷蔵はふるふると震えながらも耐えて声を漏らす三郎に、どうしようもなく熱がこもる自身を感じた。
ぐち、ぬちと音をさせて舌を蕾に差し込むたび、ヒクリと跳ねる体が愛おしい。
雷蔵は空いた手をそっと三郎の前に持っていき、すでに起ちあがっている三郎自身に添えた。その突然の快感に、三郎の体が一際大きく跳ねる。
「ああああ!んぁ、あああ!ふぁ、ア!ら、らいぞっ、あっ、あ!ヒァアああ!」
体の力が抜けたのを見計らって十分に濡らしたナカに指を突き入れた。くちゅん、と濡れた音をさせてたやすく雷蔵の指を飲み込んだ蕾は喜ぶようにそれを締め付ける。
「さぶろ…、三郎、かわいい。」
「あ!やぁ、アア!あン、アッ!」
三郎の前も後ろも、濡れた音が絶えない。雷蔵は掻き混ぜる指を増やしひたすら中を愛撫した。
――はやく。
―ハヤク。
(三郎の中に入りたい。思い切り啼かせて。刻みつけて。その目に。僕を…、)
「さぶろう…。」
「はっ、あああ!ら…あ、らいぞ、っんあ!あ、も、いい、から!」
熱の籠もった三郎を呼ぶ声に、三郎は振り向き背後の雷蔵を見つめながら頷いた。
その目もたしかに、雷蔵と同じ色に染められていて。
ぐちゅ、んと卑猥な音をさせて指を抜く。三郎は出て行く感触に体を震わせながら、その後にくる衝撃に備えて木にしっかりとしがみついた。
雷蔵はすでに固くなった自身を取りだすと、くち、と三郎の蕾に濡れた音をさせて押し当てる。
「三郎、」
「はっ、あ、らい、ぞ、んっ。」
雷蔵は三郎の顔に手を添えて濡れた唇に口づけを落とした。触れるだけのそれに、三郎の体から力が抜ける。
それを見計らって、雷蔵が思い切り蕾を押し開いた。
「あ、あああああアアアアアア!!あ…、あぅ…あああ!」
「はっ、あ…三郎っ。」
「あ!やぁああ!ヒァ、あ!あん!ああああ!」
細い腰を掴んで、思う存分揺さぶる。
白い背中が跳ねる。しがみついた手が震えて、今にも崩れ落ちそうだ。
「ああ!ぅん、あ!ひ、ぅああ!アん!あああ!」
その時。
ざ、あああ、と再び強い風が吹く。
ひらりひらりと落ちた花びらが、三郎の背に、一つ、二つ舞い落ちる。
「…………っ!!!」
「あ!?あ!ら、いぞ、や、ああああああ!」
雷蔵は薄桃色のそれをべロリと舌ですくい取り、その跡を思い切り吸い上げた。三郎の背中に残る花びらの分だけ、赤い跡も散っていく。
最後に項に残った花びらを吸い上げると、三郎の体が一際大きく震える。
「あ!ああ、あ!だめ、らいぞ、あ!あああああん!」
「んっ、」
ぎゅうと強く締め付けるそこに雷蔵は眉根を寄せて、欲を解放した。
「は、はぁ…らいぞ。」
「…三郎、大丈夫?」
「ん………。」
ずるり、と自身を抜き出したとたん、三郎が振り向いて雷蔵の首に腕を回す。
「三郎?」
「んっ、」
戸惑いの声を上げる雷蔵に三郎が口づける。閉じる余裕も無かった口内に舌を入れられ、先ほど三郎から残らず舐め取った花びらを持って行かれた。
驚いて三郎の目を見つめると、三郎はにやりと笑ってそれをごくりと飲み込んでしまった。
ちゅ、と音をさせて唇を離れても、雷蔵は三郎の目から視線を剥がせずにいた。
「三郎…?」
再び名を呼ぶ雷蔵に、三郎は照れたように笑うとするりと腕を解いて離れる。
「だって、桜の花びらなどに雷蔵の中を侵されてたまるか。」
雷蔵が目を見開く。
それは、自分の想いだ。
三郎に見つめられる花に。触れる花に。どうしようもなく嫉妬した自分の。
雷蔵はかあああと顔を赤くすると、再び三郎の体を抱きしめた。三郎はやはり抵抗せずただそれを受け入れる。
「雷蔵。帰ろうか。」
「……うん。」
その背を叩く三郎は、気づいていたのかもしれない。花にさえ嫉妬する雷蔵の醜い心を。
身支度を整えた二人は、美しい花を振り返らずに帰路につく。
あまりの美しさに、嫉妬してしまう心に蓋をして。
しかし。
あの舞い散る花に飾られた姿を忘れることは、きっと無い。
それは春が来る度に。きっと。
あとがき
春だ桜だ青○だ。(こら)
唐突に書きたくなった雷鉢エロ。突貫なので雰囲気で楽しんでいただければ!幸いかと!