きみのいのちのあか


※微グロ注意?






ぎゅううう、と身体を締め付ける音がする。

ともすればそれはギシリ、とでも音を変えそうで、でもたとえそのままボキリと折れてしまったとしても、三郎は喜んだだろう。
ここは、雷蔵の腕の中だ。
夕陽に染まって帰って来た三郎を雷蔵が手招きし、そのまま抱きしめ、そしてもう二刻ばかりこうしている。
蝋燭も付けていない部屋はやがて暗くなり、腹も減ったが二人ともじっと動かない。
トクン、トクン、と雷蔵の心臓の音を聞きながら三郎が目を閉じる。
どうしたのだろう。
何か悲しいことでもあったのだろうか。
何か嬉しいことでもあったのだろうか。
何か苦しいことでもあったのだろうか。
何か楽しいことでもあったのだろうか。
見えない雷蔵の顔を想像しながら、ただ腕の強さを体で感じる。
今の雷蔵の感情が何であれ、それを受けているのは三郎だ。
でもできれば、苦しかったり悲しいことではないといいなぁ、と内心で呟いて、ようやく三郎はされるがままの腕を動かし雷蔵の背に添えた。
指の先で触れた背は温かい。
指の先から掌に、そして腕全体で、雷蔵に触れる。
温かい。
ああ、生きている。
耳に響く心臓の音と、掌から伝わる温度が、それを知らしめる。
「雷蔵。」
囁くような小さな声で呼んで、少しだけ、回す腕に力を込める。
「雷蔵。」
引き寄せるように腕を回した三郎とは逆に、雷蔵の腕から力が抜ける。
だがその腕の温もりから離れられず、三郎もつられて一緒に体を離す。
その際に覗きこんだ雷蔵の顔は、何とも情けない笑みが浮かべられていて。思わずクスリと声を漏らした三郎がその額にかかる髪を指で掬いあげ撫でつけた。
「どうしたんだい?」
「…内緒。」
「そうかい。」
深くは聞かない。
雷蔵が隠したいというのなら無理に聞きだすことはしたくないし、何より照れくさそうなその顔はそれだけで答えのようなものだ。
「雷蔵。」
「うん?」
「抱きしめておくれよ。」
きょとんと見開いた大きな目の中に、にんまりと笑う三郎が映る。
その一瞬後に雷蔵も噴き出して、「いいよ。」と大きく手を広げてみせた。
その腕に飛び込むように体当たりする三郎を、雷蔵は軽々と支えてしまった。
「甘えんぼだなぁ。三郎は。」
「そうさ。いっぱい、甘やかしておくれ。」
悩んで笑ってそして抱きしめる温かい君を。
「いっぱい雷蔵をおくれよ。」
思い切り甘い声でそう囁く三郎を、再び雷蔵がぎゅうううと強く抱きしめる。
大事な物を無くさないようにする、幼子のように。
まるで、失うことを恐れているように。
「ねぇ雷蔵。」
「…………。」
沈黙のまま、雷蔵は三郎の項に頬をすり寄せて応えた。
「このままくっついて、溶けてしまえばいいのにね。」
ふと、腕の力が緩む。
「そしたら、君の辛いことも、悲しいことも、全部全部。私が食べてあげるのに。」
ね?
と言いながら小さく笑い声を零せば、緩んだ腕がまた強い力でもって三郎を締め付けた。
「馬鹿を言うなよ。」
怒ったような声。
三郎が目を瞬かせているのが気配で分かるのだろう、呆れたようなため息を吐かれる。
「馬鹿かい?」
「大馬鹿さ。」
「いっ!」
先ほどまで頬を擦り付けていた位置に思い切り歯が立てられる。ブツリ、と音がしたから、きっとそこから血が垂れているだろう。
じくじくした痛みを与えるそこを、べロリと滑った舌が通る。
「僕は、お前の苦しいのを全部吸いとろうと思ったのに。それじゃ本末転倒だ。」
「……そうかい。」
「そうさ。」
じゅ、と血を啜る音を聞きながら、三郎は呆けたように自分の首筋へ顔を埋める雷蔵の頭を撫でる。
ああなるほど、そこから、私の苦しいのが吸われているのか。と。
いつになく幸福な思いでぼんやりと三郎は、雷蔵に身を任せることにした。
いつしか血は出なくなり、暗かった外が白み始めるまで。
穏やかな幸福がそこにあった。



あとがき
せっかく書いたので一緒にヤンデレ雷蔵様。
三郎に依存気味な雷蔵様にものっそい萌えます。



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