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悪戯小僧


悪夢のような豆腐風呂はさっさと忘れて、三郎は一度長屋へ戻った。日の落ちたこの時間になれば同室の彼が戻っているはずだ。そしたら一緒に夕食を食べに行こう。
自室の前まで行くと、すでに明かりが灯っている。
三郎はぱっと明るい表情になり、部屋の戸を開けた。
「雷蔵。ただいま!ご飯食べに…。」
行こうという声は尻すぼみになって消えてしまう。
目の前の、すぅすぅと穏やかな顔をして眠っている雷蔵を見てしまえば。
本を読んでいたのだろう。文机にうつ伏せになって眠っている姿を見て、三郎は苦笑した。
このまま寝かせてあげたいが、このままではご飯を食べそこなってしまう。
しかし…。
三郎は目前の雷蔵を見下ろし、にやりと笑う。
もしそれを誰かが見ていれば、その誰もが嫌な予感を覚える笑みである。
しかし、ここは二人部屋で三郎を止めることができる唯一の人物は彼岸に行ったままだ。
ごそごそと手を動かす彼を止めるものは誰もいない……。


「雷蔵、らーいーぞー。起きろ。」
「ん~~~。ふぁ?あれ?さぶろう?いつ帰ったの?」
「さっきだよ。ほら。ご飯食べそこなってしまうよ。ハチたちも待ってる。一緒に行こう?」
「うん…。」
まだ少し寝ぼけた顔で起きる雷蔵を、三郎はこの上なく愛しく思いながら見つめる。
「?なに?」
「ううん。なんでも。ほら行こう。」
三郎はいつもの笑顔で雷蔵を促す。二人が仲良く食堂まで歩いていると、すれ違う生徒や先生たちが呆れたような顔や楽しそうな笑顔を浮かべていたが、雷蔵は三郎しか見ていないために気付きもしない。
ちょうど入れ替わりの時間帯であったらしく、食事を終えた大多数の生徒たちとすれ違いながら食堂に入ると、やはり竹谷と兵助はまだ食事を始めずに待ってくれていた。
「ごめん。お待たせ。」
「おーらいぞ…。」
「…お前。」
「え?なに?」
「あー…。うん。いや。なんでも無い。悪いな。」
「そう?」
微妙な顔をする竹谷と兵助に首を傾げながらおばちゃんの元へ向かう。背後で三郎となにやらひそひそと話をしているようだが、後で何を話していたか聞こうと思って、とりあえずお腹を満たすことを優先させた。
「おばちゃん。あと何が残ってますか?」
「あら不破君。あら。あらあらあら。」
「え?なんですか?」
奥から顔を出したおばちゃんが目を丸くして、次いでにっこりと笑う。
「その頭かわいいわねぇ。どうしたの?」
「頭?………!!!!!!」
首を傾げながら自分の頭に手をやると、明らかにいつもと違う結び目。
「……さぁぶろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「あはははははは!!!!かわいいーー!!!雷蔵かわいいって!!上手く出来てるだろそれーー!!!」
「そぉいう問題じゃなーーーーい!!!」
ふわりふわりと揺れる髪。それは雷蔵の頭の両側面で結ばれ、ツインテールとなっていた。
バタバタバタと派手に足音を立てながら満面の笑顔で逃げ去る三郎を顔を真っ赤にして怒った雷蔵が追いかける。
しだいに遠のいていく足音を聞きながら、竹谷と兵助は黙って手を合わせた。
三郎の冥福を祈るためではなく、「いただきます。」と食事を始めるために。

「こんのーーーーー!!!!」
「あははははは!!!!雷蔵おこっちゃいやぁん!!!!」

笑い声を響かせながらの彼らの逃走劇は、きっと真夜中を過ぎても終わらないだろうから。

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