おたがいさま
月の位置が真上になり。人の気配が眠りに包まれたころ。
僕らは脱衣所で互いに向き合って口づけを交わす。
ちゅ、と小さく啄ばみ、時折舌を伸ばして絡め合わせ快感を求め。
口を離す度にくすくすと小さな笑いが零れた。
「雷蔵…ん。」
「ふっ…三郎。…いいかい?」
「ん。」
頷く三郎の装束に手を掛ける。三郎も、僕の装束に手を伸ばし互いのそれを脱がせていった。
しゅる、ストン、と音をさせながら、それでも口づけは止めず笑みも途絶えることは無い。
「はぁ、ふ…らいぞ…おふろ、はいろ?」
「そうだね。」
全て生まれたままの姿になって、それでも離れがたくて互いの体に腕を回しながら風呂場に向かった。
中の桶を手に取って、湯を掬う。だがやはりそれも自身に掛けずに互いの体にそれを浴びさせた。
体についた泥がみるみる落ちて、僕の目に三郎の綺麗な体が映る。
三郎もうっとりとため息を吐くと、僕たちは自然と口づけを交わした。
「んん…っ、あ、らいぞ、ここ、青あざ出来てる。」
「…三郎も、ここ、痛くない?」
三郎が僕の腕を手に取り、痣が出来ているだろう箇所に舌を伸ばす。僕も体をかがめた三郎の肩に見つけた切り傷に舌を這わせた。
僕らの、大事な儀式。
どちらか、もしくは二人が任務から戻った日はこうして互いの傷を目で確認すること。
打ち傷、切り傷、擦り傷、火傷。どんな傷も決して見逃さないように。
どうせ服を脱ぐからとこの場所で始めた行為は、同級生に気味悪がられてからはこうして夜中にすることにした。
風呂焚き当番も帰して、ここには僕たちしかいない。
「んっ、あ、らいぞ、そこ…っ」
「ん?痛い?」
「…こそばいっ!」
「でもちゃんと消毒しないとね。」
「はっ…雷蔵、だって…。」
「うん。僕の体も見て。」
「…もちろん。」
また小さく口づけして、三郎がぺたり、と僕の体に触れる。
首、肩から胸に降りて、腕。指の先。左右両方見てから今度は腹。そこが終わったら今度は背中。
すっかり覚えた順番そのままに三郎は僕の体を観察する。
もちろん僕だってその間ぼーっと立っていた訳じゃない。
三郎は僕と違っていつも傷は少ないけれど。だからこそどんな些細なものでも見逃さないようにじっと三郎の体に視線を這わせていた。
「…あ、」
「あっ!?」
つう、と指を這わせた先、僕の足を観察していた三郎は跪くように僕の前に四つん這いで背中を見せていた。その綺麗な背中に、小さな、本当に爪ほどの大きさの打痕。
「らい、ぞっ、そこ、ちょっと痛いっ…。」
ぐっとそこを押すと、赤く色づいて。まるで。
「三郎。こっち来て。」
「え…でもまだ足…。」
「ああそうか。」
たしかもうふくらはぎのあたりは見終わっていたはずだ。
僕は足を伸ばして座って、その上に三郎をまたがせることにした。
まるで奉仕するときのような体制に三郎が少し顔を赤くしたけど、その可愛い顔に口づけを落として僕も三郎の体の観察を続ける。
痣は、よく見れば背中だけじゃなくて腕や足にもあった。
「三郎…この痣は?どうしたの?」
「んっ、痛いって!押すなよ!」
「ねえ?どうしたの?」
「…攻撃避けるのに背中から倒れたとき、下に小石がたくさんあったんだ。その時だと思うけど…。」
「ふぅん…。」
敵の人間から付けられた訳ではなかったらしい。
それでも、あまり面白くないけど。
「んっ!?」
「雷蔵…、足の親指…爪割れてるぞ。帰ったら切らなきゃな。」
べろり、とそこにも舌が這い、ぞわりとした感覚が背筋を走った。
「…そうだね。…なぁ、三郎。もういいだろう?」
「ん?ふふ…。雷蔵、欲情したかい?」
「…………当たり前だ。」
「ふふふ…。そうか。」
三郎が嬉しそうに笑いながら体を起こす。太ももに当たる三郎の尻に目を細めて、僕は目の前に来た三郎の唇を貪った。
「んっ、ん。はっふ、あ、らい、ぞぉ…んぅ!」
「さぶろ…は、っふ。」
じゅる、じゅぷ、と先ほどより卑猥な音が浴場に響く。
舌を絡め、吸い、互いの呼吸を奪うように、字の通りに貪る。脳がジンと痺れる感覚に薄く目を開くと三郎も小さく目を開けていて、ふとその瞳が微笑んだのが分かった。
水に濡れた手が、僕の髪を撫でる。
その手が気持ちよくてうっとりと目を閉じると、額にちゅ、と口づけが落とされた。
「雷蔵…。今日も君が生きていてよかった…。」
「三郎も、君が僕の傍にいてくれて嬉しい。」
「愛してる。」
「愛してる。」
そしてまた口づけを交わす。
互いに触れ合う肌の温度を心から愛しく思いながら撫でていく。
「は、ぁっ、らいぞ…っ!」
「うん。」
掌が三郎の胸の飾りに触れて、その下の体が震える。
恥ずかしそうに目を伏せる三郎の顔をじっと見つめながらそこを摘むと、「あっ、や!」と啼いて体を捩った。
「三郎、かわいい…。」
「やぁ!らいぞ、んん!」
片方の飾りを指で弄りながら、もう片方に惹かれるように口を寄せると、ますます三郎は恥ずかしそうに目を潤めて。僕は堪らない気持ちでそこに舌を伸ばした。
「ひぁん!ん、ぁあ!やぁ、らいぞ、」
「ん?こっちは嫌?」
「あ!ちが、ンぁあああ!」
とぼけて弄る手と舌を交換してみれば、僕の唾液でぬるりと滑る指と、弄られて真っ赤になった乳首に触れる舌に三郎が両腕でしがみついてくる。
「あぁ!あ、はぁ、あっ…んぅ!」
ぴちゃ、と音をさせて弾力のあるそこに舌を絡ませれば、いやいやと首を振りながらますます涙声を上げて僕を強く抱きしめた。
「らい、ぞ…ぁ、や、も…そこ、んン!」
僕の頭に手を乗せて、三郎が訴えてくる。だけど僕はそれを無視して思い切りそこに吸いついた。
「ぁ、ああああ!や、らいぞ、やだってばぁ!!」
「どうして?」
「ど…してって……。」
「三郎、気持ちよくない?」
「う……。」
にこりと笑って三郎を見上げると、三郎は真っ赤になって口を閉ざしてしまった。いつもはあんなに口が回るのに、こういうとき三郎は途端に口下手になる。
僕はくすくす笑いを零して、その唇に小さく口づけを落とした。
「冗談だよ。ごめんね、意地悪言って。」
「…ほんとだぞ。」
「ごめん。」
「らいぞうの、いじわる。」
目を伏せて赤い顔で、少し唇を尖らせて、そんな可愛い顔をするものだから。
僕はゆらりと自分の欲が湧きたつのを感じた。
「んっ!?あ、やぁああああ!らいぞ、らいぞぉ!!ひぁア、あああああ!!」
三郎の蕾は、触れられてもいない三郎自身の先走りで濡れていて。
僕は濡れてヒクつくそこに思い切り指を突き入れた。
目を見開いて背を仰け反らせて、三郎は突然の感覚に体を震わせて嬌声を上げる。
「あ!ン、あ、アあぁ!!っふぁん!!あぁああ!や、ぁ!アアああ!!」
「さぶろ…ごめ、辛いかい?」
「ん!…ぁん!へ…き、らいぞぉ、ああ!!ん、んぅっ」
過ぎた快楽に涙を流す三郎の唇に食らいつく。呼吸さえも奪うように舌を絡ませ吸いつくと、三郎の体がヒクリと震えた。
その背を抱きしめて支え、中を増やした指で広げながら僕はただ苦しそうに目を閉じる三郎の顔を見つめる。
ぴちゃりと音をさせて離れる。銀色の糸が、僕らの唇を数瞬繋いですぐに切れてしまった。はぁ、と息を吐く三郎の背を撫ぜて、その温かい体を抱きしめた。
「三郎…好き。好きだよ。」
「ふ、ああっ、あ…、らい、ぞっ!わたしも、すきぃ!」
耳元での言葉に、熱くなった体が煽られる。
ぐちゅ、ん。と指を引きぬき、三郎の顔を見上げた。
三郎も意味が分かったのだろう。荒い息を吐きながら、目尻を下げて、それでも優しく笑って僕の額に口づける。
「らいぞ…きて。」
艶のある声が、僕の熱をさらに高める。
僕はもう限界に近い自身を、三郎の濡れた蕾に押し当てた。
「ん…入れるよ。」
「は、ぁ、ああああああああン!!あ、ああ!!らい、ぞぉ!!」
「はっ、さぶろ…いっちゃった?」
「あ!ああン!や、だ…めぇ、ああ!!んぁああ、あああ!!」
びゅく、と僕らの間で三郎自身が弾ける。しかし構わず中を突き上げてさらに追いあげていけば三郎は喉を震わせて、僕の背に爪を立てた。
がり、と背中に走った痛みに息を吐く僕を見て、三郎は目尻を下げてその手を離してしまった。
その手を掴んで背中に回そうとしても、いやいやと首を振って手を下ろそうとする。
「三郎…?」
「や、ごめ、らいぞ…わたし…、」
意識が朦朧としているせいか、三郎の言葉は要領を得ない。だが、僕の背に傷を残したことになにか罪の意識を感じているらしい。
僕は腰の動きを止めて、ふと思いついた。
「三郎、ちょっと我慢してね。」
「え?ああああぁああぁ!!!」
ナカに僕自身を入れたまま、三郎の体を反転させる。
思い切りナカが擦られる感覚に三郎が嬌声を上げるが、僕は目の前に来た背にじっと視線を注いだ。
三郎の背中に色づく、赤い痕。
「んっ?らい、ぞ?はぁ、んっ!」
「…………。」
僕は黙って、その痕に吸いついてさらに紅い痕を残す。
背に散りばめられた色を全て塗り替えて、さらに僕自身の印も刻みつけて。
「あっ。んぁあ!や、あ、らいぞっ…、あぁン!」
「ふふ…三郎の背中、真っ赤だ。」
「あ…?あああああああ!!!」
「おたがいさまだよ、三郎。」
そしてまた元のように三郎の体を反転させる。再び三郎の顔を仰ぎ見て、にこりと微笑んだ。
「だから、三郎も僕にたくさん、痕を残して?」
「あ…。」
目を見開いて、それでも僕の言葉を聞いて三郎はぎゅ、と僕の背に腕を回ししがみついて来た。
それに目を細めて、ちゅ、と口づける。
「三郎、愛してる。」
「ひぁあン!ああ!っんああああ!やぁ、あっ!ら、いぞぉ、ぁあ!!」
「三郎っ、はっ、きもち、いいかいっ?」
「あああ!イイっ!!きもち、いい!!ああああ!らいぞっ、ひぁあああん!!」
「あっ、っく!」
「あ、あああああああああ!!!」
どくり、と三郎の中へ自身を解放する。
僕らの間で三郎自身も震え、白濁をまき散らした。
三郎はぐったりと脱力して僕に体を預けてきて、耳にかかる荒い息が少しくすぐったい。
「はぁ、あ…、三郎…大丈夫?」
「ん…、あ…らいぞ…、ごめ、背中…。」
「ん?ああこれか。」
首を後ろに回しても、その箇所は見えない。でも、ピリピリと痛む感覚から結構な数の爪痕を立てられたらしい。
でも、僕にはそれが堪らなく嬉しかった。
「ふふふ…。男の勲章だよ。」
「…ばぁか。」
口とは逆に、三郎の腕が甘えるように僕の体をぎゅうと抱きしめ、僕は可愛い恋人を思う存分甘やかした。
じつはその後入ったお湯が結構沁みたのだけれど、そんなことはおくびにも出さずに。
あとがき
甘いの!甘いの!!と呟きながら書きました(笑)いやうっかりすると黒雷蔵が出てきそうで(笑)
リクエスト「雷鉢の甘甘エロで場所は風呂か廊下か図書室」でした^^
今回は風呂にさせていただきましたが、他のも楽しそうなので思いついたらmainの方で上げるかもしれません。
匿名の方からのリクエストでしたのでフリーにします。お好きにお持ち帰りください。