無痛の檻
※現パロで女体化で兄妹ネタです!!苦手な方は注意!!!
お前はこの痛みをしらない。
「ら、い、ぞー!!!見て見て!!!」
バンっと勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた三郎を見て、僕は眉を寄せた。
ノックも無しに入ってきたからじゃない。そんなことは構わないし、今更だ。
僕のかわいいかわいい妹は、そして僕の恋人は、別に僕のどんな姿を見たところで幻滅することは無いと知っているからだ。
僕はそれも同じだけれど。しかし。
「………どうしたのその格好。」
「買った!!!どう!?どう!?」
開け放たれた扉の前でポーズをとる三郎は、確かに可愛い。
全体は黒だ。ふんわりとしたスカートも綺麗な流線を描いている。だがその上半身は大きく開かれ、胸の谷間(三郎の胸は小さいから上げ底だろう)と、綺麗な肩甲骨が露わになっている。今度学園で行われるクリスマスパーティのドレスだろう。
三郎は肌が白いから、その黒が映えてとても綺麗だ。
それでも僕は眉を顰めたまま、じっと三郎を見つめた。
それに高かったテンションも落ち着いたのか、三郎は不安そうな顔をしてそっとポーズをとっていた体を戻し恐る恐る僕へ近づく。
「らいぞ…?」
「駄目だよ三郎。」
わざと厳しい声を出す。
途端に三郎は目を見開き、だがそれも一瞬で。それからそっと目を伏せ「そう…。」と頷いた。
「雷蔵が気に入らないんじゃしょうがないな…。」
「………………。」
僕はとぼとぼと自分の部屋に戻る三郎が、その部屋の戸を閉める音を聞いてようやく詰めていた息を一気に吐き出した。
それがまるでため息のようで、一人顔を顰めるが見ている人はいない。
駄目だ。
あれは駄目だ。
今度は心から、思い切りため息を吐いた。
三郎の傷ついた顔が脳裏に浮かぶ。途端に胸が軋むが、それに文句を言う筋合いは僕にはない。
独占欲の塊である僕には。
三郎はかわいい。身内の欲目でも恋人の欲目でもなく、文句なくかわいい。
三郎に愛されている自信が無いわけでは決してないが、僕はいつも湧いて出る虫を排除することに気を回している。
それでも三郎に近寄る人間が後を絶たないというのに、あれは駄目だ。
今まで余らかった虫までも、三郎に纏わりつくようになるだろう。
三郎は一途に僕を見てくれている。それを僕は良く知っている。
僕のために着飾る三郎は、本当に綺麗だ。
だが、それを誰にも見せたくない。
そっと僕は苦笑に口を歪めた。
普通は自慢するのだろう。可愛い彼女が自分の物だと知らしめることに男は気分が良くなるのだろう。
だが、僕はそんな自尊心よりよほど強く、三郎への独占欲を自覚していた。
かわいいかわいい僕の、三郎。
僕を好きだと、全身で叫ぶあの子が可愛くて仕方がない。
色鮮やかに彩られた学園の体育館でパーティは行われた。
三郎は僕と揃いの燕尾服で盛装し、リボンタイのみ華やかに三郎の首元を飾っている。
男女の体格の差はあれども、学園で有名な双子の僕らの揃いの姿は周囲に好評で、多少の呆れと嫉妬の視線も注がれたがそんなものは蝿程にも気にならない。
三郎はニコニコと進行役を務め、終始楽しそうに華やかな会場を動き回っていた。
上級生はその姿を和やかに、下級生は憧れと共に見つめている。
それを見てとった僕の表情になにを見たのか、勘右衛門がこっそりと笑う気配がする。
「何?」
「別に。」
濃緑のドレススーツは以外にも勘右衛門には良く似合っていた。普段着飾らないこの男の姿にもいくつかの秋波が寄せられているようだが、どこ吹く風である。
そんな僕らを見つけて、三郎が可愛らしく手を振る。
それに手を振り返して、僕らはグラス(当然アルコールは無い)を合わせた。
「三郎のドレス姿楽しみだったのに。」
「あの格好もかわいいだろ。」
「三郎はいつでも可愛いよ。」
「当然。」
素気ない僕の言葉に勘右衛門は酔ったようにくっくっと喉を鳴らして「心配丸出しだな。」と僕の肩を叩く。
「あんまりがんじがらめにするなよ。逃げられるぞ。」
「誰に言ってるのさ。」
にやにやと、しかし笑っていない目をまっすぐに見返す。
にっこりとその目に笑いかけてやる。
「それに、適度に息抜きはさせてるよ。」
ご心配なく。とまた顔を動き回る三郎へ戻す僕に今度こそ勘右衛門が爆笑した。
華やかな夜も終わり、三郎と僕は家路に付く。
三郎は興奮が冷めない様子ではしゃいでいた。
「一年生たちかわいかったー!!七五三みたいだったな!!あの子たちの前じゃ言えないけどさ!」
「そのうちあの子たちも似合うようになるんだし。あんまりからかっちゃだめだよ?」
「はぁい。」
くすくすと笑う顔は興奮のためか少し赤い。
ぼくより少し低い頭の位置に目を細めた。
「三郎。」
「ん?」
「クリスマスプレゼント。家に帰ったらあるからね。」
「ほんとっ!?」
きらりと三郎の目が光った。
繋いでいた手が勢いよく引かれ、少し踏鞴を踏む。
「雷蔵早く!!早く帰ろ!!!!」
「はいはい。」
見るからに喜んでいる姿はやはり嬉しいものだ。
早く早くと急かす三郎に合わせて、ぼくも駆け足になりながらそっと微笑んだ。
今日は夕飯を食べて帰ると言ってあったから、両親もどこかに出かけたらしい。家の灯りは点いていなかった。
三郎は鍵を開け勢いよく自分の部屋へ駆けて行った。
包装されたプレゼントを見つけたのだろう。キャアッと嬉しそうな悲鳴を上げている。
僕は玄関の鍵を閉め、ゆっくりと灯りの点いた三郎の部屋へ向かった。
開けたままになったドアのその奥で、三郎はプレゼントを手に佇んでいる。
「三郎。」
「らい……ぞ。」
振り返った三郎の目は、戸惑いに濡れていた。
当然だ。僕が強く否定したドレスが、切り刻んだはずのそれが包まれていたのだから。
ただただ疑問符を浮かべる三郎に僕は微笑む。
三郎の目に映った僕は、自分でもぞっとするほどの欲にまみれた顔だ。
「なんで……?」
「三郎。それを着るために条件をつけていいかい?」
「え?」
パチパチと瞬きをする三郎はますます驚愕を顔じゅうに浮かべている。
僕は構わず、そっと三郎の手にあるドレスに手を触れた。
「僕以外の前で着ちゃいけない。もし外に着て行きたいのなら、僕の傍から片時も離れちゃいけない。いいね?」
呆然と僕を見上げる三郎は、何度かゆっくりと呼吸をした後、ゆっくりと破顔した。
「らいぞう、だいすき。」
純粋なその目が、まっすぐに僕を見つめる。
三郎の言葉以上にその目が僕を好きだと伝えている。
堪らず抱きしめれば、三郎はそっと甘えるように僕の肩に頭を乗せた。
「らいぞう、だいすきよ。」
その言葉に、僕の胸が軋むのを三郎は知らない。
しかし。
「ぼくも、三郎が大好きだよ。」
この言葉に偽りは無い。三郎ほど、純粋ではないけど。
抱きしめた細い体は、まだ僕の腕の中にある。
そのことに、深い満足感を得たまま僕たちは夜を過ごした。
あとがき
唐突に書きたくなった雷鉢。
テーマは独占欲、とか。
三郎が着飾るのを許さない雷蔵。
ほんとは自分といても外で三郎が華やかな格好するのは反吐が出そうなほど嫌な雷蔵。
そんなのが書きたかった。
雷蔵様かっこいい。大好き。そしてなぜかクリスマスネタになりましたすみません。