もちろんお触りは禁止です。




にこにこと、目の前の男は笑顔を絶やさないでそこに立っている。

私はといえば、冷や汗を全身に流しながら顔を上げられずにいた。
(やばいやばいやばいっ!!)
勘右衛門に誘われたバイトに、「怪しい店ではないから」という言葉に頷いた過去の自分を責める。
怪しい店では無い。確かに。
店長はいい人だし他の店員の女の子もみんな親切で優しい。
知る人ぞ知る店らしく、ここに来れる人はみんな礼儀正しい人たちばかりだ。
だからこそ、知り合いに会うことも無いだろうと思ったのに。
「いらっしゃいませご主人様!」
隣で満面の笑みを浮かべ接客する勘右衛門が憎らしい。
そうここはメイド喫茶。
モノトーンでフリフリのミニスカメイド服に、ガーターベルトで止めたレース付きのニーハイソックス。頭にはヘッドドレスまで付けている。
「勘右衛門、どういうこと?」
「言ったでしょ。可愛いのが見れるって。」
可愛いでしょ、三郎。と隣の笑う気配に殺意を覚える。
私はといえば、聞き覚えのありまくる声にひたすら怯えていた。
なんと言ってもその気配が今は恐ろし過ぎる。
なんで、雷蔵が、ここに。
「臨時に入ってもらったの。今日だけね。ね?三郎。」
「…………ふぅん。そうなの?」
雷蔵の問いかける言葉にこくこくと素早く頷いた。
今日一日の約束なのは確かだ。
「……指名は?」
「分かってるって。大丈夫。雷蔵で予約入れといた。その変わり、ちゃんとお金落として行ってね。」
ウィンクまでしてそんなことを言う勘右衛門に私はそっと顔を上げる。
だがその拍子にばっちり私を見つめる雷蔵と目が合ってしまい、再び顔を下へ向けた。
(うううう………雷蔵こわい………。)
「……店員さん。案内してくれないの?」
「は……はい。」
低い声にビクリと体が震えるが、仕事は仕事だ。私は雷蔵に背を向け空いている席へ案内した。
そして逃げるように厨房の方へ向かうが、その途中で腕を掴まれる。
「っ勘!!どういうこと!?」
「だって黙ってるほうが後で怖いでしょ?」
私、雷蔵は敵に回したくないんだ。
にっこりと元凶が笑う。
「大丈夫。私も一緒に行ってあげる。ほらほら席に戻るよ。」
私の前でひらりとスカートを翻す勘右衛門は、文句なくこの制服が似合っている。
胸も大きくて、でも全体的にほっそりしているし、なによりとてもかわいい。
私は自分の貧相な体と勘右衛門のそれを見比べてこっそりため息を吐いた。
…雷蔵に見られたくなかったな。


一方雷蔵は、気を抜けば崩れそうになる顔を必死に引き締めていた。
(…かわいすぎるんだけど。)
それはもう心配な程に。
勘右衛門に帰りがけに出会い、「一時間後、絶対ここに来て。来ないと三郎に雷蔵が三郎の隠し撮り写真買ってるって言いつける。」と脅されて来て見れば。
そこに居たのはかわいい彼女で。
真剣に見つめる雷蔵を怒っていると思ったのか、ずっと俯いたまま視線に耐えている姿はだれが見ても文句なしに可愛かった。
こっそり勘右衛門にGJの合図を送り、それを苦笑で受け止められる。
一瞬だけ上げられた顔は真っ赤で、すぐに俯いていなければ即連れて帰っていたに違いない。
雷蔵を案内したあとすぐに厨房へ逃げてしまったが、勘右衛門に連れられて戻ってきた。
やはり。文句無しにかわいい。
「お待たせして申し訳ありませんでしたご主人様っ。…ほら三郎。」
勘右衛門の完璧な接客スマイルを向け、その背に隠れるようにしていた三郎が前に押し出される。
「も、申し訳ありませんでした。ご主人様。」
そんな。


気がつけば、私は雷蔵の家の中にいた。
雷蔵の腕に抱きしめられて。
「ら、雷蔵…?」
戸惑った声で名前を呼んでもますます強い力で抱きしめられるだけで。
しかも私はまだ制服のままで。
正直帰り道もちょっと恥ずかしかった。
だけど。
「…三郎。もうあそこでバイトしちゃ駄目だよ。」
ようやく聞こえたそこ言葉は妙に熱がこもっているように聞こえて。
私はただ首を傾げながら頷いたのだった。


正直、あれから記憶無い。
涙目で、上目使いで、しかもあのかわいいメイド服で、少し顔も赤くなっていて。
最愛の恋人がそんな姿でいて、理性を無くさない男がいたら見てみたい。
だが雷蔵は三郎のそんな姿をそれ以上外で見せる訳にはいかないと、その一心で。
そして今、その可愛い恋人は雷蔵の腕の中に閉じ込められている。
(かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい…。)
もう馬鹿みたいにそれしか考えられない。
「もうあそこでバイトしちゃ駄目だよ。」
その制服を見られなくなるのは残念だけど。
雷蔵の言葉に頷く三郎をまた強く抱きしめた。


それから後で勘右衛門から送られたメールに『バイトは兵助に来てもらったよ。あとその制服はあげるってさ〜よかったね!』と書かれていて。
それを三郎から聞いた雷蔵は今度勘右衛門に食事を驕ることを心に決めた。


あとがき
一周年コスプレリク「雷鉢にょたでメイド服」でした。
すみません三郎のメイドかわいいっていう事実だけで書き上げました。三郎かわいいまじかわいい。
雷蔵さんもいっぱいいっぱいになるよたまんないよむしろ私が堪らない。
ハク様のみお持ち帰りOKになります!

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