目と口と耳と手足と唇とそれから…


この感情は初めてのものじゃない。
口内に感じる血の味も。握りしめた自分の拳の固さも。
全てが何度も経験したもの。
それでも君の涙は見たくないから、僕は必死でそれを隠していたのだけれど。


………………もう、限界だ。


部屋は灯りが落とされ暗闇に支配されている。
獣のように荒い息が部屋を覆っているが、そこに殺気は感じられない。
ただ、静かな怒りが部屋に充満していた。
気配は二つ。
一つは腕を柱に括りつけられ猿轡を噛まされて、ときどき身を捻っては息を荒く吐いている。
一つは静かに佇み、ただその様子をじっと見ていた。
「……まだ逃げようとするの?」
雷蔵はただ立っていただけの足を一歩、柱に括られた三郎の下へと進める。
その言葉と近づく気配に、三郎は怯えたような目を向けた。それを真正面から受け止めつつ、雷蔵は三郎の足元へと膝を付いて手を伸ばす。
「…君はやっぱり、僕から離れようとするんだね………?」
哀しそうに微笑む雷蔵を見た三郎は反抗することも忘れその表情へ魅入ってしまった。
だが雷蔵はそんな三郎の頬へ手を伸ばし続ける。
その意図に気がついた三郎が必死に首を振りその手から逃れようと体を捻る。
雷蔵はすぐに手を離したが、やはり哀しそうな表情で「三郎。」と呼んだ。
「僕は、君が欲しい。」
「……………。」
「誰も見ず、誰にも触れられず、誰にも知られない。そんなただ一人の鉢屋三郎が、僕は欲しい。」
「……………。」
「でもお前は、」
「!?ふ、ぅう!!」

「お前は、誰にでもすぐ懐く。すぐに笑って、触れさせて、僕だけのお前が無くなってしまう。犬のように!」
雷蔵の手が三郎の装束にかかる。帯は緩められたものの、性急に動かされた手は装束を破き三郎の体からはぎ取られていく。
三郎は驚き、雷蔵を見上げた。
何故、と。目で問いかける三郎に、雷蔵は三郎の大好きな優しい笑顔で微笑みながらその体へ手を添える。
「んっ!」
「お前がそうやって誰にでも懐くなら。僕だけの三郎で居られなくなるなら。僕は僕だけの三郎を作るよ。」
こうしたら、三郎は僕だけのものだよねぇ?
優しいはずの、笑顔なのに。
三郎は今はその笑みが恐ろしくて仕方がなかった。


「ふっ、うぅ…んっ、ん!」
雷蔵の手が、破かれ引っかかるだけになっている装束をさらに剥いでいく。
その際に指が肌に触れる度、三郎は背筋になにかが這いあがってくるような感覚を覚えていた。
「んっ、んぅ!ぁ、んん!!」
指先がそっと胸の飾りに触れた途端、三郎の体が跳ねた。
戸惑い涙を浮かべる三郎の耳元に、雷蔵がそっと口を寄せる。
「…気持ちよかった?」
「んっ!」
「感じていいんだよ?それが当たり前なんだから。」
「んぅ!!んー!」
「君は、僕のものなんだもの。僕の思うように、啼いてごらん?」
こりこりと胸を撫ぜていた手が下へ下ろされ、三郎自身を直接撫で上げる。
「んふっ!!んっ、んん!!んぅん!!」
猿轡を咥える口の端から涎が零れ出る。
それを甘美な酒のように光悦とした表情で舐め取りながら、雷蔵は涙を流す三郎を見下ろした。
「……怖い?」
「ぅう…。」
こくこくと頷く三郎に、雷蔵はただ優しく問いかける。
「これからされることが?今されてることが?…それとも僕が?」
ぐちゅぐちゅと濡れた音は絶えず響いている。
襲ってくる快感に体を震わせながらも、三郎はそれら全てに首を振った。
首を横に振る度に、雷蔵を模した髪がぱさぱさと柱に当たるのに雷蔵は満足そうな笑みを浮かべて触れんばかりに三郎の顔に近づく。
「三郎。怖いなら僕を見ていて。」
「ふ、ぅ…ぅう……。」
「僕だけを見て。」
快楽に朦朧とした頭でも三郎は雷蔵の言うとおりに顔を上げた。
視界いっぱいに雷蔵の顔があり、愛おしさを浮かべた表情に息を飲む。
「三郎……。」
「う……んん!?んっ、んぅううう!!」
目の前の顔は穏やかに微笑んでいるというのに。
今三郎自身を弄る手は全てを絞り上げるように、三郎の快感を高めていく。
縛られた腕を揺すり、体が震えるのを堪え切れない。三郎は我慢の限界を悟ると、ぎゅっと目を閉じ襲ってくる波に身を任せた。
「ふーっ…、ふーっ…、」
「…三郎。」
欲が解放された余韻に荒い息を整えようと、目を閉じたまま三郎はぐったりと体を弛緩させた。
しかし、振ってきた静かな声にぱっと目を開き、声の方へ目を向ける。
静かな怒気を含んだ声で、雷蔵はもう一度「三郎。」と呼ぶ。
「…僕を見てって言ったじゃない。」
「ふ……ぅ……。」
「目を閉じて、ねぇ、誰を見ていたの?」
「うぅぉ!んん!」
首を振って否定しても、雷蔵は納得せずに白濁に濡れた足を無理やり開く。
「………まだ駄目なんだね。まだ、足りない。」
ぶつぶつと自分に言い聞かせるように俯き呟く雷蔵の姿は、まるでいつもの日向のような彼とあまりにもかけ離れていた。
三郎は初めて見る雷蔵を見つめ、ただ困惑するしかなく。
自分の後孔に濡れた感触と異物を感じるまでひたすら彼の名前を声にならず呼んでいた。
「んんぅ!!んぅっふっぅーー!」
「痛くないよね?本で読んで調合してみたけど、効き目あるかな?」
なにかぬるつく物と一緒に入った異物が三郎のナカを掻き混ぜる。
その度にそのぬるついた物が刷り込まれるように三郎の奥へと入って行った。
「ふっ、うぅ…んっ!?うぅ、ぁっ!ふぅぅっ、」
三郎は目を見開き自分の体の変化に身を捩ろうとする。しかし、力は入らずそれはただ腰を揺らすのみに終わった。
「ふ…ぅ?んぅっん!」
「…効き目はよさそうだね。」
三郎の体から力が抜けきっているのを確認して、雷蔵はようやく三郎の拘束を外した。
きつく縛られ赤くなった腕に口づけを落とし、猿轡を外した途端溢れ出てきた唾液を啜る。
その全てになすがままになりながら、三郎は襲ってくる快感に必死に耐えていた。
「ぁ…あ………。あああ!!」、
焦点の合わない目で空を見つめる三郎に、雷蔵は真顔に戻って突き入れていた指をグチュンッと乱暴に動かした。
「三郎。気持ちいいでしょう?」
「ふぁっ、やら、あ!らいぞ、らい、ああああああン!!ひゃんっんぁ!らめ、あっそれやぁあああ!!」
ナカを掻きまわす指は増やされますます強い快楽が三郎を襲う。
「ひぁ…あ…はぁあっ、あああっ、も、あアアア!」
「三郎。」
もうなにも耳には入らない気がするのに。雷蔵の声だけが三郎の意識へするりと入る。
呼ばれるままに目を上げれば、三郎の唇になにか塗りつけられた。
なんとなしに舐めてみればそれは苦く、その正体に気づいた三郎はまた目に涙を浮かべた。
「三郎。今君が何回達したか分かるかい?」
「やっ、やぁ…、しらな……。」
「ほらこんなに。」
ぬるりと三郎の腹の上を雷蔵の手が滑る。雷蔵の手を濡らすその正体は汗などでは無い事は、今の言葉でよくわかった。
白濁にまみれた自分の体を見ることが出来ず、三郎はただ許しを請うように雷蔵の顔を見つめる。
もう猿轡は外されたというのに、言葉が出てこない。
それに嬉しそうに笑う雷蔵に、絶望を感じる。
「三郎。こんなにたくさん出して、まるで淫乱のようだね。…本当に初めて?」
「そっんな…、したこと、なんて無…」
「だってほら。」
ぐちゅんとまた掻き回され、「ひゃうん!」と三郎の体が跳ねた。

「…こんなに柔らかい。…ああ、こんなことなら薬を使わなければよかったかな。」

これでは君が生来の淫乱なのか分からないね。
切りつけられるような言葉に三郎は涙を浮かべながら首を振るが、雷蔵はそれを見てはいない。
グチグチ音をたてながら雷蔵の指を飲み込む、三郎の後孔をじっと見つめている。
大量に入れられた薬は三郎のナカに染み込み、雷蔵が指先を動かすだけで体が反応を示してしまう。それどころか、身じろぎする度に背筋をぞわぞわと走るのだ。
「…ぃぞっ。」
「ん?」
荒い息で雷蔵呼べば反応が返る。笑顔を浮かべてはいるが、それはまだ三郎の知るそれではなくて。
「らぃぞぉっ、」
「どうしたの三郎?」
雷蔵は三郎の足元から動かない。
三郎は自分の着物の切れ端を握る手にさらに力を込め、雷蔵の与える快感に耐えようとする。
それに、雷蔵がすっと目を細めた。
「っ!?あ、あああああ!!?ひぃぁっ、あンっ、ア、ぁあっ、んぅ…っやあああああ!!」
「…なに?こうして欲しかったんでしょう?…足りなかったんだよね。」
「やっ、ん!!らめっ、ちが、あぁぁ!」
今までじっと埋まって指先を動かすだけだった雷蔵が、さらに本数を増やし激しくナカを抉る。
バラバラに指を動かし、奥を抉りながら前立腺を擦りあげ入口を広げるように引き抜く。
「きゃぅっ、っぁあ!アアっ、あっ、ぃぞぉやらぁああ!!!あっい、いっちゃ、らめっまたでちゃぁぁ!!」
「ほら、出せばいいだろ。」
「ひぅ!?」
グリ、と三郎の感じる部分を思い切り抉った。
引きつったような悲鳴を上げ三郎がまた白濁を腹に零すのを、雷蔵は冷めた目で見下ろしていた。
「はぁ…ぁ…ら、ぃぞ………?」
突然動かなくなった雷蔵を、三郎が問うような目で見上げる。
だが雷蔵は答えず三郎に埋め込んだ自身の指と白濁をじっと見下ろしていた。
その目は暗く。底の見えない黒に快感とは違った寒気が三郎を襲う。
「らい、」
「三郎。」
「ぇ?っあン!」
ずるりと指が引き抜かれる。
濡れた手を床へ付き、雷蔵は体を伸ばして三郎の目の前まで顔を近付けた。
「………機会をあげる。」
自嘲するように笑いながら(そんな顔だって見たこと無い)雷蔵が囁く。
「今なら。僕はお前に触れない。追わない。だから、逃げたければ逃げるがいい。」
その言葉に目を見開いた三郎を見て、雷蔵はああ、と続けた。
「ひょっとしたら動けないかもね。それなら首を横に振るといい。さっきまで散々振っていたんだ。簡単だろう。」
「…ぃぞ?」
「もし逃げなければ、三郎。お前を本当に僕のものにしてしまうよ。」
雷蔵はあの最初に見た。恐ろしい程の笑みを浮かべて三郎を見下ろしている。
「僕の傍に縛りつけて、誰かに触れるなんて許さない。笑いかけるのも、言葉を交わすのも。…僕だけの、三郎がいい。」
さあ、嫌なら逃げて。
雷蔵の体が三郎から離れる。
「あ……………。」


その時三郎が感じたのは。
恐怖でも焦燥でも歓喜でもなく。
ただ、温もりが離れた喪失感だった。


雷蔵を追うように伸ばされた手に、今度は雷蔵の目が見開かれた。
「…………三郎?」
「…やだ。雷蔵、やだ………。」
行かないで。
その時流れた涙を見て、雷蔵は離れた一時を取り戻すように力強く三郎の体を引き寄せた。
「さ…ぶろ、三郎。三郎三郎…。」
「ぃぞ…。やだ。行っちゃやだ。」
今だに一糸乱れぬ雷蔵の装束に、三郎が縋りつくようにしがみつく。薬のせいで力の入らない手はもどかしそうにその背中に爪を立てた。
何度も何度も抱え直すように縋りつく腕を背中に感じながら、雷蔵は信じられないと目を見開いて三郎の体を抱きしめる。
「さ…ぶろ……、自分が、何をしてるかわかってる?」
「しらな…、やだぁ…っく、ひっ…らいぞ…らいぞぉ…行かな、で……」
嫌々と首を振り嗚咽まで漏らし始めた三郎に、しかし雷蔵が感じるのはどうしようもない愛おしさだけで。
「馬鹿だね三郎……。」
せっかく逃げる機会をあげたのに。
縋りつく三郎の背を支えながら、そっと床へその体を倒す。
確かめるように下肢に手をやれば、くちゅり、とイヤラシイ音を出して雷蔵の手を濡らした。
「ふっ…ん、あっ!」
「三郎……。」
「あっ、あぁああ!ら、ぃぞぉ、っん、」
ぐっと、取り出した雷蔵自身を三郎の開かれた蕾へと押し当て侵入すれば、抵抗もなく受け入れられる。
「あ、あああああああ!!」
「はっ…、」
三郎の腰を支えながら一気に奥まで侵入を果たす。
心地よく締め付けるそこに目眩を感じるように、雷蔵が上体を倒した。
その目の前で、三郎が目に涙を溜めながら荒く息を零している。しかし、涙で濡れながらその瞳はまっすぐに雷蔵へと向けられていて。
締め付けられるほどの愛おしさに雷蔵は口を開き喘ぎ続ける三郎の唇へ噛みついた。
「ふ、ぁ、ぁあ…、ら、…ぞ……。ふぅっんっ、んっ、んん!」
呼吸を奪うように唇を覆い尽くし、滑り込ませた舌は三郎のそれに絡みつき離さないとばかりに吸いつく。
その間も雷蔵は苦しそうに目を伏せる三郎の目を見つめ続けていた。
「んーっ、ふはっ、ふ…っんぅ!!」
そしてそのまま奥を穿つように動かせば、縋りつく腕はもはや力が入らず背から首の後ろへと回る。
ただ離れないようにという三郎の思いを感じ取って、雷蔵は微笑んだ。
「んっ、ぷ、はぁ…あ?あっ、アアア!あンっ!!や、っあああ!ひぁあああん!!」
「三郎…ねぇ、もっと感じて。もっと乱れて。僕だけの、三郎だろう…?」
「ふっ、あっああああああ!!りゃめぇえええ!」
ビクビクと三郎の体が震える。
快感はとうに三郎の頭を支配し、それを与える雷蔵の事以外考える隙を与えない。
力に任せて三郎の体を抱え上げ、雷蔵は自分の上へと乗せた。
途端に自重から奥まで雷蔵を受け入れることになった三郎の背が大きく反る。
「ひぃあ…あ……あ………、あぁああ!!!」
ぐちゅん、と腰を揺らす度に濡れた音が結合部から響く。
三郎の顔はただ快楽だけを感じているようで、その陶酔した表情に雷蔵が満足気に笑った。
「あぁあン!ア、アアアア!!ンぅ、ぁ、あああ!!!!」
三郎の細い腰を持ち上げては落とし、そして勢いよくナカを穿つことを繰り返す。落とす度に三郎自身が雷蔵の腹で擦れ、白濁に濡れた腹をさらに汚した。
三郎が何度目かの絶頂を迎え、それに呼応するように締め付けるナカに、雷蔵も短く息を吐いて精を吐きだした。
ぐったりと雷蔵に凭れかかる三郎の背を雷蔵の手が優しく撫でる。
その手はいつもの雷蔵のものと変わらず、三郎は安心したようにふぅ、と息を吐いた。
「三郎。大丈夫?」
「ん………。」
力の入らない三郎の体をそっと、雷蔵が横たえる。
初めての行為に酷く疲れた体は眠りを欲して緩やかに瞼を閉じた。
「三郎。ねぇ。」
雷蔵が、そのままなにか話かけるが反応することが出来ない。それほど疲労困憊してしまったのだから。
「三郎、そのまま聞いていてね。」
「これで、君は僕のものだからね。」
「僕の居ないところで、僕の許可無く他の人に触れたり笑ったりしてはいけないよ。」
「ねぇ三郎…。」


「僕は、三郎が好きなんだからね。」


「それを、忘れないでね。」


半分眠りの世界に落ちていた三郎は、その言葉をするりと意識の内側に入れてそのまま闇に落ちた。


「……忘れないでね。」


そっと三郎の髪を撫で囁く雷蔵の声が、三郎の心の奥底に埋め込まれるのを感じながら。



あとがき
一万打フリリク「雷蔵の独占欲が強すぎて嫉妬がいきすぎ、三郎を無理矢理奪ってしまうお話」でした。
遅くなって申し訳ありません!!!匿名の方からのリクでしたのでフリーとします。
いっやぁこんなに長いエロは久々に書きました(笑)
雷蔵様降臨はやはりとても楽しいですねwwリクエストありがとうございました。
…もうこのサイト見ていなかったらどうしよう………(汗)。

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