お祭り―番外編―
祭囃子が鳴り響けば神も浮かれる。今日は祭。無礼講。
さあさみんなで飲め歌え!
村の祭から離れた森の奥。鬼火がちらちら青く光り、風は踊るようにざわめいて周囲はなにか落ち着かない雰囲気となっていた。
常人が見れば慌てて引き返すその光景に、一人の小さな少年は臆することなく踏み込んだ。
「姫様。」
「おお孫!来たか!よしよしこっちへおいで。饅頭をやろう。」
少年、初島孫次郎が姿を現したとたん、妙齢の女性が空から現れた。やはりそれに動ずることなく、孫次郎はまっすぐに女の元へ進んで行く。
「魂由良神様。」
「…なんだ。」
「…鉢屋先輩と何をしていたんですか?」
「誰のことだ?」
「とぼけないでください。姫様が惑わそうとした人のことですよ。」
「ふむ。知り合いか?」
「知っててやったんでしょう?」
「いや。適当に選んだ。あの学園の者をな。誰でも良かったんだが、なに、面白いやつだった。ちゃんと返したろう?」
その言葉に孫次郎は大きくため息を吐いた。
「…面白い人じゃなかったらどうするつもりだったんですか?」
「さてな。そのときの気分で変わっただろうの。」
「………姫様。学園の人間を試そうとするのは止めてください。」
「なぜだ?孫が通っている学園のことを私が気にしてはいけないとでも?」
「気にしてくださるのは嬉しいですが、いつ神隠しにあう人間が出るかと思うと僕の気が休まりません。」
「ふむ。それはいかんのぅ。孫の気を乱すつもりはなかったのだ。許しておくれ?」
「はぁ…。」
孫次郎はため息ともつかない返事を返してうなだれた。
この神様は、どうやら自分を気に入ってくれているらしいのだが、どうも人間とは感覚がずれているせいか時折こういう無茶をやらかす。
その度に孫次郎がひやひやしているのは言うまでもないことだ。
「孫。少し遊んでいかんか?ほれ。菓子も用意してあるぞ。」
「いえ…もう消灯時間だから戻らなきゃ。姫様。お気持ちだけ頂いておきます。ありがとうございます。」
「そうか…残念だ。ならば学園まで送ってやろう。」
その言葉には孫次郎も遠慮せずに頷く。
「はい。お願いします。」
「うむ。お願いされた。」
基本的に、悪い人(?)ではないのだと、やはり孫次郎は心の中でため息を吐いた。
とたんに、トンと額に触れる感触。
「お休み、孫。我らのかわいい子。」
「お休みなさい姫様。」
慈愛に満ちた声に返事をして目を開けると、もうそこは自分の部屋であった。
同室の怪士丸はまだ帰っていないらしく、部屋には誰もいない。
「小松田さんになんて言い訳しよう…。」
呟きながら、孫次郎はまあいいか、とあらかじめ敷いておいた布団にもぐる。
今日はお祭りだから、変なことがあっても不思議じゃない。
そういうことにしておこう。
あとがき
楽しかった!!マイ設定で申し訳ない。孫次郎は人間じゃない存在と仲良しだといいなぁという妄想から。
忍たまTOP