待ってるよ



※ 雷蔵(30)三郎(17)現パロ注意!!






むかむかする。

三郎は乱暴に鉄の扉を閉め、几帳面な彼にしては珍しく靴も放り投げて足音荒く部屋に足を踏み入れる。
片づけてもすぐに散らかる部屋にドサッと乱暴に鞄を放る。
衝撃で開いた鞄から、紺色の携帯が滑り落ちた。
ガツッと嫌な音をさせて床を滑る携帯を、少し冷えた頭でぼんやりと見やる。
ちかちかと橙に光るランプにまたもやもやと胸が沸くのを感じた。
ふい、と無理やりそこから視線を逸らし、台所へ向かう。
手荒い仕草で冷蔵庫を開くと三郎の用意したままの中身と、見覚えの無い酒が数本入っている。
ざっと見て今日の献立を脳裏に浮かべ、あとはもう無心に手を動かした。
いや。
無心に、というのは嘘だ。
その中身のまだたっぷりと入っている日本酒をしっかりと料理へと使わせていただいた。
ふわりと香る酒に酔いそうになりながら、三郎はじわりと目尻が濡れる感触にぐっと歯を食いしばる。
「…先生のあほ。」
国語教諭の準備室は今は彼の城と化していて、扉を開けてもすぐに姿は見えない。
その奥から、聞こえた女子生徒の笑い声。
合わさって聞こえた彼の笑い声も。
溢れそうになった涙をぐい、と袖で拭いて、三郎はひたすらに手を動かした。
知っている。分かっている。
教師である彼が自分だけに構う訳にはいかないことも。
彼が、自分に手を出さない理由も。
分量を量る際に使ったコップに、少し日本酒が残っている。
それを舐めると、苦い味が舌を刺激して、三郎は顔を顰めた。
これを美味しいと思える日が来るまで、彼は三郎を相手にしない。
ため息を吐いて、また手を動かし始めた。



やがて、「ただいま。」の声と共に扉の開く音がする。
笑顔の雷蔵が靴を脱ぎ玄関から上がってくるのを三郎は無表情で迎えた。
すでに作り終え、料理の並べられた食卓に雷蔵が破顔するがそれにさえ三郎が表情を変えることはなかった。
「ご飯作ってくれたんだね。美味しそうだ。」
ネクタイを外しスーツの上着を脱ぐ。
いつもと変わらないその動きに、三郎がようやく顔を逸らした。
その頭に、ぽんと軽い感触。
「…メールも電話も出ないから心配した。」
一緒に帰る約束だっただろ?と苦笑を交えた声に、三郎は治まりかけていた胸の靄が再び沸き上がるのを感じて乱暴に首を振り頭からその手を外す。
「女の子と、仲良くしてればよかったのに…!私には、何もしないんだから!」
そしてくるりと背を向けて俯いてしまって、すぐに後悔に襲われた。
子供のような仕草はまさしく自分の首を絞めているとしか思えず。
雷蔵の前では、大人でいようと思っていたのにこれでは何もかも台無しだ。
「………帰る。」
もう何も見たくなくて顔を上げることも出来ないまま三郎は雷蔵の脇を通り過ぎようと一歩踏み出す。
雷蔵が伸ばした腕に気付かず、掴まれた腕に踏鞴を踏んで「うわっ」と悲鳴を上げた。
「やきもち?」
「なっ、!!!」
かああああとすぐに赤くなりながらも思わず上げてしまった顔に、雷蔵が口角を上げる。
「馬鹿だなぁ。三郎。若い男と見て飛びつくような雌犬に僕が喜ぶと思った?」
常に無い乱暴な口調に三郎の目が見開かれ、それに愉快そうに笑う雷蔵がその腕を引き寄せた。
「やきもち焼いたんだ。かわいいね三郎。」
「や、いてない!!」
また子供扱いされたと身を捩る三郎を、大人の体は難なく捕まえて離さない。くすくすと漏れ聞こえる声は嬉しそうで、三郎はますます顔を赤くして俯いてしまった。
「三郎は、いっつも背伸びするから。」
「背伸びなんかしてない!」
「してる。」
虚勢を張っても強く断定されてしまっては二の句も告げられずに三郎が押し黙る。
「大人になろうって気張って、背伸びし続けるのは辛いだろう?」
「だ、って…。」
「うん?」
「早く大人にならなきゃ、雷蔵の傍にいられない。」
女でもない。大人でもない。ただの子供の男である三郎には、自由に雷蔵の傍にいることも出来ない。
女というだけで彼の傍にいられる奴らが憎い。それは、三郎がどうしたって手に入れることのできないものだから。
だから、三郎が出来るのは、精いっぱい大人のふりをすることだけだ。
「馬鹿だねぇ三郎。」
ぽんぽん、と抱きしめた背中を優しく撫でられる感触。
呆れと共に愛おしさを含んだ声は、俯く三郎の中にゆっくりと染み込んだ。
「君が成長するのは楽しみだよ。でも、焦る必要はないんだ。」
そんなことしなくたって、傍にいるから。
やがて三郎の頭の置かれた肩口がじわりと濡れた感触になっていく。
しかし今まで抵抗していた手は雷蔵の背に回され、しがみつくように握られた。


あとがき
親父雷蔵企画「酒と煙草と無精髭」様に投稿、しようとして諦めたブツ(笑)
いやお題が「酒と貴方」なのに酒描写すくねええ。
でも三郎が雷蔵の日本酒使ってるところが書きたくて…。こっちで救済(笑)