迷子保護
忍術学園では喧騒が絶えない。
どこかの六年は喧嘩して爆発させて穴に落ち。
どこかの五年は毒虫を逃がし悪戯し。
どこかの四年は穴を掘り髪を切りやはり喧嘩し。
どこかの三年は先輩にいじられ蛇に逃げられ迷子になり。
どこかの二年は出番が無いと叫び。
どこかの一年はどこからか騒動を持ってくるか自らおこす。
毎日何かが起こるこの学園で、何も騒動に会わないことの方が少ないと言える。
それは学園のトリックスター、鉢屋三郎も例外ではなく。
「こっちかーーー!!」
「うおっ。」
「あ!えーと…図書の…。」
「違う。五年の学級委員の鉢屋だ。」
「む。鉢屋先輩のほうだったか。」
「お前ここ五年長屋だぞ。何してるんだこんなとこで。」
どうもこのところ迷子によく会うと思いながら、三郎は着替えの手を止めて左門に向き合った。
アンダーと袴のみの三郎を気にすることなく左門は顔をむうと尖らせた。
「どうやら迷ってしまったようだ。こっちだと思ったんだが。」
「何を根拠にこっちだと思ったんだお前。」
「それは勘だが。」
「迷子の自覚があるならせめて勘は放棄しような。」
「むう。それではどっちに行ったらいいか分からなくなる。」
「…ところで何処に行くつもりだったんだ?」
「自分の部屋だ。」
「……………。」
ちなみに、反対方向であることは言うまでもない。
三郎はため息を一つ吐き、わしわしと左門の頭を撫でた。
「しょうがない。私が送っていってやるよ。」
「なに!!いいのか鉢屋先輩!」
「実習が終わったばかりだからな。暇貰って退屈しそうだったところだ。気にするな。」
「でも疲れているのでは?」
「私を誰だと思ってる。疲れる前に終わらせたさ。」
「そうなのか!すごいな鉢屋先輩!」
「……………。」
傲慢ともとれる三郎の言葉に、こうも無邪気に返せるの四年のタカ丸か1年は組かこの神崎左門くらいなものに違いない。
少し、照れくさい三郎だった。
「ほら。行くぞ。」
「鉢屋先輩。制服は着なくていいのか?」
「めんどい。もう放課後だし、そんなに五月蠅くは言われないだろ。」
「そうか。…ん?」
「なんだ?」
「…鉢屋先輩。この手はどういうことだ?」
「どういうって…お前ら富松に連れて行ってもらうときはいっつもこうしてるんだろ?次屋が言ってたぞ。」
「ああ先輩は三之助と仲良しだったのか。確かにこうしていたが、最近はずっと縄だったから、なんだか久しぶりでな。」
そう言って、嬉しそうに三郎の手を握る左門を見ながら、三郎は全く違うことを考えていた。
(あのヤロウ…っ。いつもやってもらってるからこうじゃなきゃ嫌だとか言っておきながら…っ。)
三之助を保護したとき、三郎も最初は縄を預かっていたのだが、三之助が駄々をこねたために今の左門のように手を繋いでいくことになったのだ。
三郎が体育委員の面々の前でどれだけ恥ずかしかったかは言うに及ばない。
(今度会ったら縄で縛りつけてやるっ。)
「神崎。次屋は部屋にいるのか?」
「さあ?多分いると思うが、今日は作兵衛が委員会の日だからな。部屋でじっとしてるかはわからん。」
「…そうか。」
富松の苦労を思って三郎は遠い目をする。あんなに苦労しているというのに報われないあたり、また修行に付き合ってもいいとさえ思ってしまう。三郎にしては珍しいことだ。
ちらりと左門を見下ろせば、左門は何やら嬉しそうにおとなしく三郎について来ていた。
「神崎。随分嬉しそうだな。」
「ん?そうか!?」
「にやけてるぞ。部屋に帰れるのがそんなに嬉しいのか?」
「ああいや。そうではなくて。」
少し照れくさそうな顔して、それでも嬉しそうに笑って左門は三郎を見上げた。
「なんだか、故郷の兄ちゃんといるみたいだと思って。」
えへへと照れ隠しに握っている手をぶんぶんと振る姿に、ガンと三郎は頭に衝撃を覚えた。
(か、かわいいじゃないかこいつ…!)
三郎に兄弟はいない。小さいころ仲良くしていた子もいない。下級生は1年しかいない。だから、兄ちゃんなどと言われたことが、とても衝撃的だった。
「私も、左門がなんだか弟みたいだよ。」
「ほんとか!?」
「ああ。私に兄弟はいないけどね。でも、左門みたいな弟だったらほしいなぁと思うよ。」
元来子供好きな三郎のことだ。左門の言動は頬を緩ませる位に可愛かった。
三郎の言葉に左門はますます嬉しそうな顔をして腕に甘えるように縋りついてきた。
三郎も左門の好きにさせながら頭を撫でてやる。
そうするとまた嬉しそうな顔するので、三郎もまた思いっきりかまってやる。
そうして二人でじゃれあいながら歩いて、あっという間に三年長屋の三人部屋についてしまった。
「ん。着いたな。」
「おお!鉢屋先輩!ありがとう!」
「いや。礼には及ばんよ。『弟』のためだからな。」
「ははは!じゃあありがとう『兄ちゃん』!」
満面の笑みで言った左門に、三郎はクラリと目眩を起こしそうになる。
(かわいいなこいつほんと!!部屋に持って帰りてぇ!!)
全力で癒されている自分を感じる。
「ん?あれ?」
「どうした?」
「三之助が居ない。」
「あー…。」
「今日は委員会も無かったはずなんだがな…。しょうがない。」
「は?」
「探しに行こう。」
「ちょ、待て待て待て!お前また迷うだろ!?」
「私は自覚しているがあいつは無自覚なんだ。」
「だからどうした。」
「放っておくといつまでも帰ってこない。」
「…………。」
ハタ迷惑な奴だ。
「わかった…。じゃあ私が探してきてやるから。頼むからお前はここでじっとしていてくれ。」
「だが…。」
「な?」
「…分かった。じゃあ頼んだぞ『兄ちゃん』。」
「!!まかしとけ!」
先ほどの満面の笑みではないものの、心配そうに目尻を下げながらの言葉にも浮かれてしまう自分を自覚して、三郎は身を翻しながら苦笑した。
あとがき
思いの他楽しかった!!そして思ったより三郎さんが左門にメロメロだった…。
この二人って一緒にいたら可愛いと思う。いちゃいちゃきゃっきゃしてればいい(笑)
と、いうか左門みたいな弟がほしいのは私だ←
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下にスクロールで残念な感じのおまけ次→鉢。
(次)「あ、鉢屋先輩。何してんすかこんなとこで。そんな色っぽいカッコで。」
(鉢)「黙れ。今日こそは縄で縛って連行するかな。」
(次)「縄で縛って強姦する?先輩積極的っすね。でも俺はどっちかっていうと襲う方が…。」
(鉢)「黙れこのアンチ癒し系が。左門を見習え少しは。」
(次)「ははあ。先輩左門が気に入ったんですか。いいでしょあいつ。俺と同室ですよ。」
(鉢)「止めろ。お前と同じ空気を吸うだけで左門が汚れる。」
(次)「うわ。ひでー言いようっすね。」
(鉢)「こうしている間にも左門が待ってる。さっさと行くぞ。ほら手を出せ。」
(次)「あ。はいはい。…………先輩。この縄は?」
(鉢)「左門に聞いたぞ。なにが手を繋がなければ帰れないだ。最近は縄ばかりらしいじゃないか。」
(次)「あ。それもバレたんすね。じゃあ左門にも縄付けたんすか?大変でしょーあいつ暴れて…。」
(鉢)「左門にそんなことするか。あいつとは仲良く手を繋いだよ。」
(次)「!!!差別だ!!!」
(鉢)「今まで見せたことないような必死な顔で何を言うか!ほら行くぞ!!」
(次)「差別だ〜差別だ〜!!」
(鉢)「やかましい!!」
おそまつでした。(^p^)
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