迷子日和


木々の葉の隙間からこぼれる日差しは穏やかに。
時折そよぐ風は涼やかに。
夏の暑苦しさなど忘れそうになるほど爽やかな場所だ。
(…ここが何処かは分からないが。)
三之助は空を見つめたまま内心呟いた。
今日も今日とていけドンな体育委員長の先導による裏々山のマラソン10往復が開催されていたのだが、いつの間にか三之助一人がこの場所に来ていた。
「気持ちいー…。」
熱い日差しの中走っていた体にこの場所は居心地が良すぎた。いつもなら早く他の委員たちと合流するために移動するのだが、すでに5往復終えて疲れた体は自然と寝心地の良さそうな木陰に寝転ぶ。
(あ、やば…。)
頭が霞かかってきた。この空気に押された眠気が三之助を襲う。
頭を振って抵抗しようとするも、一度頭を鷲掴みにした眠気は取れそうにない。三之助は早々に眠気を払うことを諦め、ゆっくりと瞼を閉じた。
(ま…いっか…。)
子供じゃないのだ。多少はぐれたからと言って学園に帰れない訳でもない。
だから、少し…。


バコッと思い切り頭を殴られる衝撃で三之助は目を覚ます。
「いってぇぇぇ〜〜。」
「次屋…。お前この暑い中人に捜索させておいて昼寝とはいい度胸だな。」
「あ。鉢屋先輩。」三之助を殴った拳そのままに、5年の三郎が三之助の傍らに立っていた。
その額には汗が滲んでいて、三之助は(変装の上からでも汗って掻くんだなぁ)などとまったく関係の無いことを考えながら三郎を見上げる。
相変わらず読めない表情に三郎は眉をひそめ、三之助の目線を合わせるようにしゃがんだ。
「しかし今回はあまり道を外れなかったな。前に私が言っておいたことを守ってたのか。偉いぞ。」
そう言って頭を撫でようとする手を避けて、三之助は首を傾げる。
「子供扱いしないでください。…なんでしたっけ?」
「…………そうだよな。お前が覚えてるはずはないよな。」
「なんですか?」
「迷子になったらその場を動くなって言ったんだよ!!」
「俺、迷子じゃないですけど。」
「だぁああああこの野郎!」
「なんすか鉢屋先輩。いきなり叫んで。」
「誰のせいだ!」
「さあ。」
その言葉に再び三郎が拳を作るが、ため息とともにそれを解放する。
「滝夜叉丸と富松の苦労が分かるな…。」
「なんでそこで滝先輩と作兵衛が出てくるんですか?」
「言っても分からんだろうお前は。」
「そうですか。」
脱力するように俯く三郎を三之助はじっと見つめる。
この先輩が体育委員でもないのにこうして三之助を探しにくるようになったのは、委員長の七松がこの人を気に入って、バレーボールだのに付き合わせるようになってからだ。
委員長の強引な性格もあるだろうが、この先輩もなんだかんだ言いながらそれに付き合っているのだから満更嫌な訳でもないのだろう。
そして、こうして三之助を見つけるのも、三郎が一番早くなった。
「…先輩、そう言えば最近俺が一人でいるときよく会いますね。」
「そうだなこのところお前の迷子捜索に駆り出されているからな。滝夜叉丸からも頼まれてるし。私はお前みたいなのを探すのが得意だから。」
「ふぅん。」
その場に富松がいたらぜひとも伝授してほしいと懇願したところであろう。
しかし三之助はその重要性に何か思うところもなく。再びごろりとその場に寝転んだ。
「おい。」

「鉢屋先輩も昼寝、しませんか。」
なにしろこの空気。此処に着いたときから変わらず爽やかな風の吹くこの場所で昼寝するのはとても気持ちがいい。
言わずとも三郎がそれが分かっていたが、苦笑して首を横に振った。
「お誘いはありがたいがな次屋。私は人のいるところじゃ寝られないんだ。」
「そうですか。」
言葉と表情は先ほどと変わらないが、心なしか俯き気味の頭に三郎の手がぽんと乗る。
「悪いな。」
「…子供扱いしないでくださいと言ったはずですが。」
「ん?そうだったな。」
そう言いながらまるで犬にでもするように頭を撫でる手は委員長のそれとは違い、優しくて気持ちが良い。
「…犬扱いも止めてください。」
「あ。ばれたか。」
そう笑って三郎も木に寄りかかり足を伸ばす。
「先輩…?」
「一緒には寝てやれんが。膝なら貸してやろう。」
ほれ、大サービスだと自らの太腿をポンポン叩く三郎に、三之助は一瞬茫然とする。
その表情を見て、悪戯が成功したときのように三郎が笑う。
「男の固い足で寝るのが嫌なら…」
「じゃ、失礼します。」
さっさと学園に戻ろうと促そうとした三郎の言葉を遮り、三之助は遠慮なく三郎の足に頭を乗せた。
三郎の顔を見上げると、今度は三郎が茫然として三之助を見下ろしている。
そして今度は三之助が悪戯の成功したときのような笑みを浮かべて、
「じゃあ。お休みなさい先輩。」
と眼を閉じた。
そのまますぐに寝入ってしまった三之助は、顔から耳まで赤くするという貴重な三郎の姿を見逃すことになった。


あとがき
三/ろ/でメ/ル/トを聞きながら。
三之助大好きです。次鉢も大好きなんです。
でもこれって次鉢ってより次+鉢ですね。


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