これも友情






和やかなはずである昼休みの教室。その一角で、緊迫した空気が流れていた。
男が五人頭を突き合わせている図はうすら寒いものがあるが、本人たちはそんなことを気にしていない。いや。その内の二人は、と言うべきか。
「で。どっち?」
「正直に言えよ。手心なんか加えたら今後二度と口聞いてやらないからな。」
真剣な表情の二人は、三郎と勘右衛門。他の三人である兵助、竹谷、雷蔵はその言葉に苦笑を洩らしつつ「せーの。」で指を指す。


指されたのは、勘右衛門の弁当であった。


「ぃやったーーー!!!!」
「えええええ!!!!!!」
「これで勘右衛門の七勝五敗かー。昨日まで三連敗だったからなー。」
「でも三郎のもおいしいよ。」
「だろう!?さすが雷蔵!!」
「でもチーズフォンデュは重いって。胃に来る胃に。やっぱ弁当はオーソドックスなので俺の勝ちだね。」
「うるっさい勘!!そう言ってこないだ素麺なんか持ってきた奴はどこのどいつだ!!」
「俺は過去を振り返らない男なの。あ。兵助ー。俺にも一個頂戴。」
「はいよ。揚げ豆腐とパンとソーセージどれがいい?」
「結局食うんじゃねーか!!」
並べられた弁当箱(勘右衛門作の重箱三段。三郎作のチーズフォンデュセット。)を囲んで緊迫した空気が和やかなものになる。


「しっかし毎日毎日良くやるぜ。」
竹谷が勘右衛門の握り飯に手を伸ばしながらカカカと笑った。
「こっちは毎日美味いもの食えて助かるけどな。」
兵助が揚げ豆腐(三郎が兵助用に用意した。)にチーズを潜らせながら頷く。
「三郎なんか毎日朝早くから準備してるものね。勘もだろう?」
雷蔵も三郎から手渡されたパンをチーズに潜らせる。
「ま、ね。でも料理するの好きだから俺。」
勘右衛門は自作の煮物に箸を付けながら「もう少し煮た方が…。」と呟く。
「バリエーションも増えるってもんだよな。あ。勘これ美味い。」
勘右衛門の弁当をつついた三郎の言葉に勘右衛門が破顔した。
「あ。いいだろそれ。牛肉のそぼろ。自信作。」
「ふーん。後で教えて。」
「いいよ。じゃあこの間のエビ団子の隠し味教えて。」
「はいよ。」
交渉がまとまり、また食欲旺盛な男子高校生達の箸が進む。
周囲の男子たちが羨ましそうな顔でこちらを見ているのは気付かないふりだ。
豪華な手造り弁当など、ここの他では立花家の御曹司の弁当ぐらいしか拝めまい。
今日もすっかり空になった弁当箱を片付け談笑モードに入る。
「あーおいしかった。」
「お粗末さまでした。」
「でもさ。よく三郎はチーズフォンデュなんて持って来れたよな。重かっただろ?」
「大丈夫。雷蔵が持ってくれた。」
「まさか中身があれだとは知らなかったけどね…。」
何しろ五人前の荷物だ。
はは…。と苦笑いを浮かべてはいるものの、この中では一番力のある雷蔵だから苦では無かったのだろう。
それは予想の付くことだが、兵助は机の上に残ったものをじっと見つめ、「ところで、」と口を割る。
「これ、どっから持って来たんだ?」
机の上にあるのは、チーズを溶かすために使用されたランプ。それも学生ならば一度は見たことのある、アルコールランプ。
見たことはあるが、普通私物では持っていないもののはずだ。その上この為に買って用意したにしては蓋や瓶の汚れに年季が入り過ぎている。
「あ。実験室からパクってきた。」
「おい!!」
予想通りとは言えばその通りだが、あまりにもあっさりした物言いに竹谷が思わず突っ込んだ。
だが三郎はいつものようにニヤニヤと笑って反省する様子がない。
「だーいじょうぶだって。私がばれるようなヘマをすると思うか?」
「でも…。」
「それに現場には伊作先輩の髪を残してきた。」
「どんな確信犯だお前!!!伊作先輩が可哀想だろうが!!!」
「大丈夫。食満先輩のも一緒だ。」
「なにが大丈夫!?」
「でもあの人髪黒くて短髪だからもんじ先輩と間違われるかもな。あっはっはっ。」
「あははじゃねぇ!!どうするんだお前!あの人たち本気で怒らせたら後が怖ぇぞ!!」
何しろ伊作はともかくとして文次郎と留三郎は学校でも有名な強者だ。最強と恐れられる仙蔵よりはましかもしれないが、後が恐ろしいことに変わりは無い。
だが顔を青ざめさせる竹谷に、三郎はポン、と軽く手を置きやたら輝く笑顔で親指をぐっと上げる。
「食ったんだからお前も同罪☆」
「てめぇぇぇ!!!」
「むしろ生贄?」
「え!?なに!?なんですか雷蔵様!?それは俺一人が被害を受けるフラグですか!?」
「ファイト☆」
「骨は拾ってやる。」
「この秀才組がぁぁぁ!!裏切り者!!それでも友達かよ!」
「大丈夫。ハチは頑丈だから。俺信じてる。」
「なにその無茶振り!?死ぬよ!?さすがの俺もあの二人相手にしたら死ぬよ!?しかも伊作先輩まで巻き込んでるんじゃ手当すら受けられない!!」
「じゃあ逃げとけ。」
「投げてんじゃねぇぞ三郎!!元凶はお前だろうが!!」
「まぁ待てハチ。絶望するのはまだ早いぞ。」
「ん?」
三郎がしたり顔でランプを竹谷に手渡す。
思わず受け取ってしまった竹谷は疑問符を顔に浮かべて三郎を見つめた。
「ようはバレなきゃいいんだ。」
「おう?」
「次の実験までに返しておけば問題はない。」
「おお!そうだな。」
「ちなみに次に使用するのは三年い組だ。五限だったかな?」
「それを早く言えぇぇぇぇ!!!!」
ちなみに昼休みの次が五限だ。
さらに予鈴まであと五分である。
「アルコール零すなよー。」
リレーのアンカーもかくやというスピードで去る竹谷の背に三郎が呑気な声を掛けるか聞こえているかは分からない。
「まぁあの様子なら間に合うかな?」
「良い奴だなぁ。ハチ。」
ニコニコとドSコンビが笑う中、良識持ちの兵助は静かにため息を吐いた。ただ一人、友人の身を慮ってのため息だが、内心で両手を合わせているあたり彼も同罪ということに気がついてはいない。


オチとして。
結局竹谷は元に戻すのは間に会ったが当然予鈴の五分前では授業に間に合うはずも無く。
連帯責任としてろ組全員に大量の宿題が出され、恨まれたろ組の面々(元凶含む)に色々散々な目に合うことに変わりはないのであった。

あとがき
すごく馬鹿な話が書きたくなった!!弁当の下りの元ネタが分かる方は笑っといてください///あの漫画大好きなんだ。
相変わらずの竹谷の扱いwww竹谷大好きww
タイトルは多分三郎が帰ってきた竹谷に言ったに違いない(笑)

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