狐と狸の化かし会い。の被害者。







オリエンテーションで騒ぐ学園内を、三郎は足早に移動していた。

きょろきょろと周囲を見渡す姿は誰かを探しているようである。
その視線が一点で止まり、まっすぐにそこへ向かう。
「兵助。」
「三郎。どうした?」
誰かと話していたらしいが、三郎はその一方にかまう様子もなく切り出した。
「尾浜勘右衛門ってのはどいつだ?」
「勘右衛門?」
意外な名前に首を傾げた。
「三郎が勘右衛門になんの用だ?」
「虎若と組むことになったんだろう。見ておきたい。」
真顔で言う三郎に兵助は呆れたように隣を指さす。
それに会わせるように三郎が横を向くと、先ほど兵助と話していた男が楽しそうに二人のやりとりと見つめていた。
「尾浜?」
「そう。あんたは鉢屋?」
「ああ。」
「噂は聞いてるよ。ろ組の化け狐だろう。」
にこやかに言う勘右衛門に、兵助は釘を飲み込んだような顔になり、三郎は片眉を上げるという器用な反応を示した。
「私が狐ならお前は狸だな。」
「あはは!うまいこと言うね。」
「さ、三郎。そういえば木下先生が探してたぞ。明日のことでなにか準備があるんじゃないのか?」
「えー。面倒だな。」
「手伝ってやるよ。」
その背を押すように兵助は三郎と共に室内へ戻り、勘右衛門は笑って「またな。」と手を振った。
その姿が見えなくなって、兵助は大きくため息をはく。
「悪い。勘右衛門は少し天然入ってて…。」
「天然?あれが?」
くっ、と三郎は喉の奥で笑いをこぼし、背を押す兵助を振り返る。
「あいつ、私を観察していたぞ。」
「…は?」
「おもしろいやつだな、尾浜、勘右衛門か。」
楽しそうに笑う三郎に兵助は首を傾げる。
「…ご機嫌だな?」
「不機嫌になる理由があるか?」
逆に問い返され、兵助はぐっと声を詰まらせた。
その様子に三郎は一瞬きょとん、と目を見開いたあとにっこりと、それこそ雷蔵そっくりな笑顔で兵助に笑った。
「兵助、心配してくれたのか。」
「いや…。」
「いや私も、未だに面と向かってああ言われるのは久々だけどな。」
低学年のときはそれこそさんざんそうやってい組の連中に指さされたものだ。
「あいつ、私の反応待ってただろう。」
もちろん、今までそうやってきた奴には身を持って報復してきた三郎である。
だが、今回はそれをしなかった。
「からかう目的でもなくそう言ったのは、私を人間として観察したかったんだろうよ。」
そう言って笑う三郎はやはりご機嫌な様子だ。
兵助は肩をすくめて「天才の考えることはわからん。」と背を向けて去って行った。




そして部屋に帰れば、当然同室の相手がいるもので。
「おかえり。」
「………。」
にこやかに兵助を迎える勘右衛門に返事は返さず、その正面にドカリと腰を下ろした。
「鉢屋どうだった?」
「…ご機嫌だったよ。」
「そっか。おもしろいやつだなぁ鉢屋。俺気に入っちゃったよ。」
「それはよかったな。」
にこにこと笑っている勘右衛門は本心からそう思っているのだろう。何事にも正直(正直すぎる)性質なのは兵助がよく知っている。
「お前、雷蔵の前じゃなくてよかったな。もしあの場に雷蔵かはっちゃんがいたらボコボコにされてるぞ。」
「狐さんの飼い主と飼育係さんか。」
その表現に再び兵助が微妙な顔をする。
勘右衛門はそれにも笑って「大丈夫だよ。」と答えた。
「あの二人が怒るのは、鉢屋が傷ついたときだろう?」
「………。」
たしかにそうなのだが。
「俺は鉢屋と仲良くしたいと思ってるんだ。」
「……そうは見えないけどな。」
憮然と答えた兵助に「兵助は素直だからなぁ。」とまた笑う。
「お前がひねくれてるんだ。三郎も。」
「鉢屋は俺よりよっぽど素直な性質だろ。」
カカカと笑う勘右衛門にため息を吐いて、兵助は背を向けた。
「俺が空回りしてるだけってのは、よーくわかった。頑張って三郎と仲良くしろよ。」
「もちろん。」
頷く勘右衛門の姿は兵助には見えなかったが、「明日はどうやって鉢屋と遊ぼうかなぁ。」という呟きは聞こえてしまった。
いつになく楽しそうな友人たちに、兵助はただため息を吐いたのであった。


あとがき
仕事中唐突に思いついた勘鉢出会い編。
お互い本心を見せずにのらりくらりしながらでもお互いの考えが分かってる。
そんな感じ?←


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