キミに伝える




じっと、視線を感じた。

慣れたそれに振り返れば、思った通り三郎が観察でもしているのか僕をじっと見つめている。
僕らの部屋での、いつもの光景といえばそうだ。
僕が本を読み、その後ろで寝転がった三郎がじっと僕を見つめる。
だから、いつもならそれに微笑んでまた読書に戻る僕だけれど。なんだか、三郎の視線がいつもと違った。
突き刺さるようなその視線に、首を傾げる。
「どうしたの三郎?」
険呑なものではない。だがただじっと見つめる目は真剣そのものだ。
寝転がっている三郎ににじり寄り、そっと手を伸ばした。
三郎はなにも言わず、その伸ばされた手を取る。
「三郎?」
ぎゅう、と握られた手は幼子が母親を求めるそれに似ていて、思わず笑いが零れそうになるのを誤魔化すように「どうしたの?」と続けた。
向けられる視線の強さは変わらず、微笑む僕をまねるように三郎も微笑む。
同じ顔であるのに、その表情がとても好きだと思うのは、それこそ恋は盲目というものなんだろうか。
「雷蔵。」
「なぁに?」
「雷蔵。」
「どうしたの三郎?」
問えば、なんとも嬉しそうな顔でもう一度「雷蔵。」と僕の名を呼ぶ。
そしてゆっくりと起き上がり、僕と同じ視線になって、ぎゅう、と抱きついてきた。
「雷蔵。」
その体は温かい。
僕は何故だか涙が出そうになる目を瞬かせて、それから同じようにその体を抱きしめた。
腕から、体から伝わる熱が愛おしい。
「好きだよ。」
耳に響いた言葉は、目の前の可愛い子から発せられたのか、それとも自分の本心が零れ落ちたのか。一瞬分からなかった。
しかしきょとんとする僕に三郎はふふふ、と笑って、「好きだよ。」と言った。
その声はさっき聞いた音と同じで。
ああ。この子が言ったのかと僕はまた目を瞬かせた。
「雷蔵が好き。大好き。」
微笑みながらも懸命に、三郎が僕へ何度も繰り返す。我に返った僕は、伝えられた幸せをそのまま僕の分も合わせて三郎へ返すように囁いた。
「僕も、三郎が好きだよ。」
それに三郎は照れくさそうに顔を赤くしながら笑って僕の首筋へ顔を埋める。
「…雷蔵には敵わないなぁ。」
「なにがだい?」
「んーー?」
すり、と猫が懐くように僕の肩に顔を擦り付けながら、三郎がまたふふ、と笑う。
「君に好きだと伝えたかったのさ。」
「うん?」
「言葉だけじゃなくて。」
最初は視線で、それから触れて、名前を呼んで、抱きしめて。
「雷蔵が好きだって、私の全てで伝えたかったんだよ。でも、私の幸せが少しでも伝わればいいと思ったのに、雷蔵がそれ以上の幸せを私に返してくれるんだもんな。」
三郎がくすくす笑いながらそんなことをいうものだから。
「三郎。」
名前を呼んで、上げられた顔に口づけを落とす。
額、瞼、頬、それからもちろん唇にも。
三郎からもらった幸せにはまだ程遠いけど。
「…伝わったかな?」
「………だから雷蔵はずるいんだ。」
「不意打ちでする君だってずるいよ。」
「…でも好き。」
「うん。僕も好き。」
顔がまったく締まらない。きっと誰が見てもだらしがないと評する顔だろうけれど、三郎はそんな僕の顔を見て嬉しそうに笑うのだ。


キミに伝えよう。
好きだと。愛してると。幸せだと。
僕の幸福はここにある。




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