気まぐれ猫の休日





ごろり、と三郎はだらしなく床に横たえた体を自ら転がした。
今まで仰向けに転がって本を読んでいたのだが、その体勢も首が痛くなってきたからだ。
右肩を下に向ける形で転がると、視界は藍一色になる。
一定の間隔で、その目の前の色が動く。
三郎はちらりと上を見上げて、自分に膝を貸している男を見た。
勘右衛門は、ぱらり、と丁度紙をめくった音をさせて真っ直ぐに机上の本へ視線を注いでいた。
膝の上で三郎が動いた感覚は分かっただろうに。こちらを見る気配もない。
三郎は、それに腹を立てるでもなく逆に愉快になって頭の下にある太ももへ、その頭をすり寄せた。
確かな体温と弾力に満足して目を閉じるが、耳を擽る感覚に再びぱちりと目を開いた。
視線を再び上に上げるが、その視線が合うことは無かった。
勘右衛門は、空いた手で三郎の耳の辺りを擽りながら目はあくまで真剣に本へ向けられている。
下ろされた手は三郎の耳を擽りその額に掛けられた髪を除け、それから優しく三郎の頬をなぞる。
偽物の肌の感触はそう心地よいものでもないだろうに。勘右衛門の手は三郎の耳や髪や顔に触れることを止めない。
三郎は、藍に染まった視界をゆっくりと閉じる。
こしょこしょと耳元の髪を弄られるのがくすぐったい。それから頭をするりと撫でて、まるで子供を寝かしつけるように等間隔のリズムで肩を叩かれた。
ただ目を閉じて勘右衛門に寄り添っているつもりだった三郎は、それに逆らうことなど不可能だと一瞬で悟る。
「んんぅ………、」
拒否でも肯定でもないうめき声が自分の喉から零れるのを聞いて、ああもう大分意識が朦朧としているなと心のどこかが呟く。
だが勘右衛門は手を止める様子もなく、三郎を己の膝から下ろす様子もない。
吐く息が、だんだん長くなる。眠りの呼吸に変わっていく。
せめてもの反抗にと、三郎は顔を勘右衛門の腹の辺りまでぴたりと寄せ擦り付ける。
鍛えられた腹が息する度に動き、そして三郎が触れた瞬間はぴくりと震えた。
またすぐにゆるやかなリズムに変わると、三郎は目を閉じ今度こそゆっくりと意識を落とした。
その口に笑みが浮かべられているのを勘右衛門はちらりと見降ろし、本のページを捲る。
確かに、その口にも笑みが浮かべられていた。


あとがき
勘鉢会に参加の前日モチベーション上げるために書いた^^
勘鉢も頑張ってサイトに増やしたいですね。勘ちゃんの白さは私にはこれが限界です。


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