風の噂と真実
風の噂によると、最近体育委員の活動は学園内のものが多いらしい。
人の噂に耳をそば立てると、委員長の最近のもっぱらのお気に入りの活動は試合をするたぐいのものだとか。
そして、一番新しく耳に入った噂は、学級委員会がその審判にかり出されているということだ。
ちなみに、その噂は少し違う。
学級委員は審判としてではない。立派な戦力として、参加を要請されているのだ。
「ほら鉢屋そっち行ったぞーー!!」
「だから少しは自分で動いてくださいってぇぇぇぇ!!!!」
どしゃぁぁぁあっと大きく体をスライディングさせて三郎はアウトラインぎりぎりのボールを掬い上げる。
ぽーん、と高くあがったボールに向かい、足音も荒く小平太が駆け寄る。
「ナイスレシーブだ鉢屋!!!!」
「ああもういいからさっさと終わらせる!!!」
言うまでもなく、ベストポジションで小平太はボールをたたき落とした。
ダァンッとおよそ屋外で聞くことの少ない音を出し、ボールが地面にのめり込む。
「……勝者七松・鉢屋チーム。」
「ちぃっ今のは取れまいと思ったのにっ!!」
「鉢屋先輩あんたどんな体してんですか。」
「ああ…私も相当疲れたよ…。」
「鉢屋先輩すごいですっ!」
「さすが鉢屋先輩!!」
「ありがとうお前等元気だなぁ。」
他体育委員の面々がネットの向こうから悲喜こもごもの感想を返してくる。
その中心には未だボールがのめり込んでいるわけだがそれには誰も目を向けていない。
「…なぁ庄左ヱ門。」
「何でしょう尾浜先輩。」
「これも委員会活動なわけ?」
「まぁ…そうですね。手の足りない委員会の手伝いも仕事のうちなので。」
「…そう。」
足りない。確かに足りてはいないのだろう。この体力化け物の委員長につり会う人間は数少なく、そして皆多忙だ。
いや学級委員会が暇だとは言って…ないわけでもないが。
「でも鉢屋もよくつきあうな。」
「なんだ尾浜!!混ざるか!?」
「遠慮します。」
太陽のようなまぶしい笑顔を一蹴し、勘右衛門は小さくため息を吐いた。
毎週何かしらこうして体育委員の「委員会活動」につきあっているのだ。適当にあしらう勘右衛門はともかく、ちゃんと付き合う三郎には頭が下がる。もちろん一年生にはまだ無理だ。
庄左ヱ門は冷静に審判を続けているが、彦四朗など目が点になって顔がひきつっている。
「ただいま…。」
「おつかれー。」
帰ってくるなりぐったりと座り込んでしまう三郎を見下ろし、勘右衛門は苦笑する。
「いいかげん断れば?」
「あー……。」
その言葉に三郎がゆっくりした動作で顔を上げた。
「…できれば、そうしたいけどな…。」
言外に無理だと言うのに、勘右衛門は首を傾げる。
この男の実力をもってすれば、争わずとも逃げきることくらいはできそうだが。
「なに?なんか弱みでも握られてんの?」
まさか三郎に限ってそんなことは無いだろうと考えての発言だったが、意外にも三郎は一瞬目を泳がせた。
「そうでは、ないけど…。」
だがその態度は明らかに肯定を意味している。
「…なに?なんか言われた?」
「いや。だから違うって。」
そういう三郎の態度は明らかに挙動不審だ。
さらに追求しようした勘右衛門が口を開く前に、「おーい!!休憩終わりだぞーー!!」と大きな声がそれを遮る。
眩しいくらいの笑顔がこちらへ手を振っていた。
「はいはい。今行きます!!」
「鉢屋。」
立ち上がってそちらへ向かおうとする三郎の腕を掴む。
きょとん、と振り返った三郎を、勘右衛門はまっすぐに見つめた。
「嫌だったら行かなくていいんだぞ。」
その言葉に三郎はぱしぱしと瞬きをして、それからそっと微笑んだ。
いつもの皮肉ったような笑みではなく、優しい目をしたその笑みに勘右衛門の三郎を掴む手がゆるむ。
「嫌じゃないよ。本当に。」
「鉢屋…?」
「嫌じゃないんだ。」
するり、とその手が離れる。
「遅いぞ鉢屋!」
「はいはいすみません。」
「今度こそ負けませんよ。」
「ぜってぇ負かす。」
体育委員の面々とにこやかに話す三郎が見える。
そして七松と並んだ瞬間、一瞬三郎の目が勘右衛門を向いた。
そっと細められた目に、勘右衛門は理解してしまった。
「なぁんだ。そうかぁ。」
「尾浜先輩?」
「彦ちゃん庄ちゃん。俺死んじゃうかも。」
「ええ!?」
「どうしました?」
「うん。馬には近づかないようにしよう。」
「は?馬?」
「??」
古今東西の言い伝えには警戒をしておいた方が良さそうだ。同室の友人には悪いが豆腐の角にも気を付けておきたいところである。
「なるほどねぇ。」
一人頷く勘右衛門に一年生が疑問符をとばしているが事情を説明する気はなかった。
とりあえず、あの楽しそうに体育委員長に付き合っている先輩を見ていればそのうち理解することだろう。
後は言わぬが花というものだ。
あとがき
芹さんに捧ぐ!!!
オフ会ではお世話になりましたお待たせしましたスケブありがとうございましたーーー!!!!
分かりづらい七鉢で申し訳ないです;;デキてます!!!デキてますよこの二人!!!ちゃんと!!(笑)
よろしければお受け取りください////素敵な竹鉢ありがとうございました!!