かわいいあのこ
滑らかな白い肌。
黒い大きな瞳。それを飾る、やはり黒い長い睫。
唇は桜色で少し薄い。
鼻は異人のように高くはないが、周囲の人間に比べれば高い部類に入るだろう。
その顔を長い、烏の濡れ羽色と例えるのがしっくりくるような黒い髪が流れている。
こうして一つ一つ特徴を上げていけば、間違いなく女性と間違われるというのに。
「なんでお前は男なんだ?」
三郎の唐突な言葉に久々知は課題をしていた手を止め真顔で振り返り、
「…酔ってるのか?」
と返した。
三郎はそれに憮然とした顔で首を振る。
「まだ夕餉前だぞ。そんな訳あるか。何故そうなるんだ。」
「いや。いつもにも増して訳分からんから。俺が男でなにか文句でもあるのか?」
「いやお前鏡見ろよ。どう見たって女顔だろうが。」
「ん?そうか?女に間違われたことはないが…。」
顎に手を当て思い出すように考え込む姿は、やはり男の仕草だ。どこにも女らしさなど感じない。
何故だ。と思う。
何故こいつはこんなに女顔なのに男らしいんだ。
三郎は久々知の顔は好きだ。綺麗だし変装しやすい。
しかし、問題は三郎が町で久々知の変装をすると十中八九女に間違われるのだ。同じ顔なのに。体格だって大した違いは無いのに。納得がいかない。
いっそ本当に女だったら納得出来るのに。
そして冒頭の台詞に移る。
理由を聞いた久々知は呆れた表情で歎息した。
「なんでわざわざ俺の顔で町にいるとかその間違えた奴はどうしたとか色々と聞きたいことはあるが。お前が女の人に間違われるのは当たり前だろう。そんなの、三郎が可愛いからに決まってる。」
きっぱりと言い切った久々知に今度は三郎がきょとんとなり、やがて顔を赤くしながら噛みつくように詰め寄る。
「なんでだよ!?顔は完璧に同じだし仕草だって変わらないようにしている自信はあるぞ!!」
「だから、そういう問題じゃないんだって。」
「じゃあどういう問題だ!!」
「つまり…」
久々知は自分のすぐ近くまでやってきた三郎の腕を掴み引き寄せれる。
自然、三郎の体は久々知の膝の上に投げ出され、慌てて顔を上げればそれを待っていたかのように顎に手がかかり、口付けられる。
「んん!!」
三郎が反射的に目を瞑ると、触れている薄い唇が笑った。
カァッと顔が熱くなるのが分かる。それが怒りからなのか羞恥からなのかまでは混乱する頭では判断が付かないが、とにかく文句を言うために無理矢理顔を引き離す。
「兵助!何考え、ンムッ」
何考えてる!!と怒鳴ろうとしたのに、開いた口は再び久々知の唇に塞がれてしまう。
開いた口が閉じる前にスルリと久々知の舌が入り込み、口内を思うさま蹂躙する。上顎を舌先でなぞり、綺麗に並んだ歯を確かめるように一つ一つ撫で上げ、奥で縮こまっている三郎の舌を強く吸い上げる。
突き離そうと伸ばした腕はいつしか縋りつくものに変わり、ようやく解放されたときにはすでに体に力は入っていなかった。
目尻を赤く染める三郎を、久々知は嬉しそうに眺める。
「ほら。可愛い。」
「なに、言って…。」
「好奇心いっぱいにきょろきょろしたり。上目使いに人を見上げたり。満面の笑みで笑いかけたり…。そういう可愛いことを無防備にするからいけないんだ。」
久々知は笑顔のまま三郎を膝の上に抱きあげる。三郎はされるままに久々知の、妙に迫力の籠もった笑顔を見つめた。
「…兵助。」
「ん?」
「お前、怒ってんの?」
「今頃気づいたか。しかも惚れてる相手に「なんでお前は女じゃないんだ」と言われて傷つかないとでも?」
にっこりと笑う額に青筋が浮いている。
三郎は神妙にして「ごめん…。」と小さな声で呟いた。
「いや。思ったより下らない理由だったからいいさ。それより…。お前を女だと思ったやつに、なんかされなかっただろうな。三郎。」
「そりゃ口説いてきた奴からは適当に逃げてきたけど…。あいつらが見てたのはお前の顔だぞ?その辺分かってるか?兵助。」
「だから、お前が可愛いから俺の顔だろうが雷蔵の顔だろうが声をかけられるんだ。自覚しろよ。」
「いや納得いかん。なんで私が可愛いという話になるんだ。それを言うなら雷蔵の方が可愛いしお前の方が綺麗だろうが。なんで兵助は男に声をかけられないんだ。」
「だから。俺は三郎ほど無防備じゃない。雷蔵も。お前が可愛いのはその中身だからな。」
「だから、私だって仕草やら癖やらはお前とそっくりにしているはずなんだが。」
「そういう問題じゃない。」
「じゃあなんだよ。」
「…よし。まだ自覚が足りないっていうなら実戦してやる。…夕餉なんか食う暇やらないからな。覚悟しろよ。」
「へっ!?」
その晩。三郎は部屋に帰らず。
それから数日の間、5年有志による三郎への変装指導の姿が見られ、教師と他学年の生徒たちは首を傾げていたという。
おまけ
(兵)「三郎はかわいいよな。」
(雷)「うんかわいい。」
(竹)「かわいい。」
(雷)「いまさら何言ってるの兵助?」
(三)「雷蔵まで!!私は別に可愛くないだろ!?雷蔵の方がかわいい!!」
(雷)「そう?僕は三郎の方がかわいいと思うけど。」
(三)「違う!!私より雷蔵の方が可愛くて兵助の方が綺麗だ!!」
(兵)「な。ずっとこの調子なんだ。危なっかしくてしょうがない。」
(雷)「わかるよ。確かにこのままじゃ問題だ。」
(竹)「世の中危ない奴も多いからなぁ。」
(兵)「ああ。というわけで協力してくれ。」
(雷)「もちろん。」
(竹)「当然だな。」
(三)「?何を?」
(雷)「ふふふ…。さあ三郎。僕が叩きこんであげよう。まずは笑い方の練習だね。」
(三)「え?」
(雷)「まずは相手の男を威圧することから教えないと。」
(三)「え?あの、らいぞ…」
(兵)「そうだ。有無を言わさず、主導権をこっちに握らせるんだ。」
(三)「へいすけ?」
(竹)「俺が実験台になってやるよ!!」
(三)「ハチまで!!いったいなに…」
(雷)「三郎?(ニッコリ)」
(三)「う…。」
(雷)「ね?わかっただろう?笑顔で相手を威圧する!!それが女王様への道だよ!!」
(三)「え、ちが」
(兵)「頑張れ三郎!!俺がついてる!!」
(三)「なんだってんだよーーーー!!」
あとがき
おそまつでした(^p^)
かっこいい兵助を目指したんですが…微妙ですね。
黒雷蔵が大好きです。
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