勝ち負けの問題ではなく






学級委員会は今のところ四人構成でなされている。

一年い組の今福彦四朗。
一年は組の黒木庄左ヱ門。
五年ろ組の鉢屋三郎。
そして、新たに加わった尾浜勘右衛門である。
それぞれ癖のある組をまとえめているだけあって、人格もそうとう、出来が良い。
「あ。庄。彦。その棚に新しいお菓子を買ってきたんだ。食べてしまおう。」
「先輩また買って来たんですか?いくら予算があるからと言ってあまりそればかり買っていると会計委員に追いかけられますよ。」
「これですか。おいしそうですね。」
「だろう。さすが庄ちゃん。彦。隠れてやるから意味あるんだ。私がばれるようなへまをしないよ。」
「あ。この間のお使いのおみやげだ。おいしかったよそれ。」
「勘にはもうあげたんだよな。」
「うん。雷蔵たちと一緒に。」
三時のお茶の会話である。のんきなのは仕方がない。
色とりどりの菓子が並べられ、その周りを囲うように四人が配置につく。
「あ。お茶が無い。」
「俺が入れるよ。」
さて手を伸ばそうかという時に声を上げた三郎に勘右衛門が立ち上がった。
だが茶筒を手に取り、中身を見て首を傾げる。
「あれ?もう無いや。」
「え?もう?」
「この間入れたばかりなのに。」
一年生二人が顔を見合わせるが、勘右衛門は苦笑しながら中身の無くなった茶筒を見せてみた。
まじまじとそれを見つめる一年生に、三郎が「悪いが二人とも、食堂でもらってきてくれないか?」と促した。
「はい!」
「行ってきます!!」
笑顔で頷いて小さな足音が食堂向かって消えるのを、中に残った二人が静かに聞き届けた。
「……捨ててないだろうな。」
下級生への笑顔はどこへやら。剣呑な眼差しで見上げる三郎に勘右衛門は茶葉の入った別の茶筒を見せた。
「下手な演技だな勘右衛門。あれが三年だったら騙せ無いぞ。」
「一年だからああしたんだよ。」
その言葉に三郎が片眉を上げる。
勘右衛門も、下級生へ向ける表情を一変させ、やけにゆっくりした動作で三郎の横へ座る。
「見せて。」
「……………。」
「イヤなら無理矢理脱がすよ。」
それはさすがに拒否したいのか、三郎は勘右衛門を一睨みしたあと、右足の忍足袋を脱いで袴をめくり、そこを勘右衛門へ差し出した。
「………保健室には?」
「…………・・。」
行っていないらしい。
勘右衛門はため息を吐いて、真っ赤に腫れているその患部を見下ろした。
本当は使いは明日までだと聞いている。
そして今日委員会があるのはみんな知っている通りで。
「…おまえがあんまり一年をかわいがり過ぎて、」
突然、低くなった声にずっと目をそらしていた三郎が顔を上げた。
勘右衛門は暗い笑みで、それでも目には愛しさを浮かべていて。
三郎は、息を飲んでそれを見つめた。
「ときどき、あの子たちの目の前でおまえを拘束して浚ってしまいたくなる。」
この優しい人間はおまえたちのものではないと。
大声で怒鳴って、威嚇してしまいたくなる。
「…お前は私の子供か?」
何度も口を開閉させながらようやく出た三郎の言葉に、勘右衛門が吹き出した。
確かに、今の自分の言い分は子供の癇癪そのものだ。
「一応、恋人のつもりだよ。」
「なら、」
勘右衛門の笑顔に、ようやく肩の力が抜けたのか三郎もいつもの悪戯めいた笑みを浮かべた。
しかし、その中に艶を含めたものは、勘右衛門にしか見せないそれで。
「恋人のわがままにつきあうのが男の甲斐性ってもんだろう?」
つい、と今は腫れた足を勘右衛門に差し出す。
「…光栄ですよ。」
「うん。」
三郎の言葉に半ばあきれながらも自分の頭巾を取り、裂いて簡易な包帯を作る。
その時、ちらりと見た三郎の笑顔があまりにも幼くて、可愛らしく。
勘右衛門は大きく脱力しながらもその口にはやはり笑みが浮かべられていた。
「かなわないなぁ。」
「勝てると思ったのか?」
悪戯っぽい声が聞こえる。
「しない。」
勘右衛門も笑みを含んだ声で答え、即席の包帯を巻いていった。
一年生が帰ってくるまでに終わらせないといけない。
三郎が不機嫌になる前にすべてを元通りにしなければ。


「でも三郎。俺が負けるのは、お前だけだから。」


「ただいま戻りました!!!」
「すみません遅くなって!!」
「おかえり。」
「おかえり〜。」
菓子にまだ手を付けずに待ってくれていた先輩たちに二人が笑顔になる。
新しい茶葉で茶を入れようと動き回る最中、三郎はずっと外を眺めていた。
やけに身を乗り出してのその姿に、二人は首を傾げているが勘右衛門が静かに首を振ったのでそのまま黙っている。
「冷めたらこっちに来るよ。」
「ああ。お茶、熱いですから。」
頷いた彦四朗に勘右衛門が黙ってその頭を撫でた。
そして、三郎がその中に戻ってきたのはもうしばらく後のことであったのだった。


あとがき
米ちゃんに捧ぐ!!!
いつもありがとうスケブと本もありがとう!!!!!大好き!!!!!!
即効で作った尾鉢だけど、良ければ貰ってください//////


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