観察眼

じっと、見つめる目には気がついていた。
ただ敵意がないのと、あまりのしつこさに無視をしていただけで。
しかし三郎がこんなにも周囲に気を利かせて無視をしているというのに。空気の読めない馬鹿が「三郎。なんで無視してんの?」と聞いてくる。
「…ハチ。」
「兵助さっきからうざいくらいおまえのこと見てんじゃん。」
「なにが見てるって?」
にっこりと、我ながら雷蔵そっくりな笑顔で微笑んでやれば顔を青ざめさせて竹谷がすごすごと去っていった。
それを笑顔のまま見送って、三郎はくるりとストーカーを振り返る。
「ハチがうるさいから聞いてやるが。なんなのおまえ?私になにか用か?」
「いや……用っていうか………。」
三郎の呆れた視線になにか表情を変えることなく、兵助はずっと同じ無表情で三郎を見つめていた。
その視線を真っ正面から受けて、三郎は眉をしかめるが口は開かない。
お互い黙ったまま、時間が過ぎる。
喧嘩している雰囲気でもなく、反対に甘酸っぱい雰囲気でもないその二人を、他の人間が見たらどう形容したか。
もしわからなくて本人達に聞いたらこう答える。
「いや。見てるだけ。」
…見ているだけにしては雰囲気が剣呑なのだが。
だが先に根気が折れたのはやはり三郎だった。
「……なに見てんだよ。」
「おまえは三郎で合ってるよな?」
「あ?」
「うん。そうだよな。…うん。」
兵助は今まで以上にじろじろと、上から下まで三郎を見つめた。
「……俺、三郎の見分けつくかも。」
「はぁ!?」
得意げに言うでもなく。申し訳なさそうに言う訳でもなく。
至って普通の表情で兵助は爆弾発言を投下したのだった。
「…なにお前。喧嘩売ってんの?私を怒らせるための冗談?」
「いや?ただの事実だ。」
「なお悪い。」
「そう言われても。」
「なら。私と雷蔵のどこが違う?」
「外見の違いはないだろ?」
「…………なにが言いたい。」
「三郎は三郎だろ?」
「だから。」
「三郎の方がかわいい。」
言葉が耳を素通りしたのは初めてだ。
というか今のは言葉だったのか?豆腐語とかじゃないだろうな。
「雰囲気というかなんというか…。なんか雷蔵とは違うんだよな。三郎のほうがこう……びびっとくる。」
「待て。ますます意味がわからん。」
やっぱりこれは豆腐語だ。
「私にもわかる言葉で話せ。」
「三郎見てるとどきどきする。」
「……………。」
こいつは本当に優秀な忍たまなんだろうか?
わかる言葉で話せと言ったが誰が端的に言えと言った。
「…私はお前に警戒されるようなことをした覚えはないが…?」
「普通にそれを言うのはすごいと思うが、そっちじゃない。」
「そっち?ってどっちだ。」
「三郎見てると抱きしめたくなる。」
「……………。」
やっぱり兵助は頭がオカシくなったようだ。
「…医務室行くか?」
「行かない。…信じてないな三郎。」
「信じるもなにも…。お前の目がおかしくなったって話だろう?」
「違う。俺が三郎を好きだって話だ。」
「…………は?」
「信じないなら、信じるまで言い続けるからな。」
「………え?」
「覚悟しろよ。」


言いたいことだけ言って、兵助が部屋から去る。
三郎はその背中を呆然と見送りながら、その優秀な頭脳をフル回転させて兵助の言うことを理解しようとするが、空回りするようにまとまらない。
(兵助が私をずっと見ていて。)
(兵助が私を見分けられると言って。)
(それは、………………それは、)


「…好きだからだって?」


呆然とつぶやく三郎に答える者は誰もいない。
そして今の三郎にはただ佇むことしかできないのだ。
明日から兵助の猛攻撃に耐えることになるとも知らず。


「……バカじゃねぇの?」
だが、三郎が顔を赤くして呟いているのは、残念ながら兵助も知らない事実であった。



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