構われたがり
久々知ver.
そろり、と戸を開くと同時。
ヒュッと鋭い音をさせて苦無が飛来する。慌てて避けるも、第二、第三と次々に投擲される凶器を今度は己の懐から出した武器で弾く。ギィンっと金属同志が弾きあう耳触りな音の後、三郎はじっとりと凶器を投擲してきた部屋の主を睨んだ。
「…兵助。」
「なんだ。」
「なんで部屋に入っただけで攻撃されなきゃならん?」
「碌でもないことしようとしている気配がしたからな。」
「碌でもないことなんてしようとしてない。」
「じゃあ何しに来た?」
「兵助と遊びに。」
「帰れ。」
そう吐き捨て兵助は元のように机に向かう。
もう攻撃してくる様子はなかったので三郎も武器を仕舞い、とことこと兵助の背後に近寄った。
「なんだ。い組もテストなのか?」
「ああ。だから邪魔するなよ。」
筆を手に取り紙になにやら書き写す。すこし考えるような仕草をし、また何事かを紙に写すといった動作を繰り返している。
三郎はというと、その様子を兵助の隣に移動し机の隅で頬杖をついてじっと見つめたまま動かずいた。
「……………何?」
「見てるだけ。」
「…………あっそ。」
黒い目がちらり、と三郎を一瞥し、また紙へ視線を戻す。本当に見ているだけなので、気にしないことにしたようだ。
無言の許可をもらった三郎は存分に兵助の観察を行う。
部屋では、兵助の筆を動かす音と、紙をめくる音だけが時折かすかに静寂を乱していた。
(綺麗な字……。)
字は人格を表すという。まっすぐに、ひたすら乱れることなく美しく書面を埋める字はまさに飾る、といった言葉がふさわしい。
その字を、綴る手もまた好きだ。
仮にも男の手であるから、白魚のような、と言うわけではない。しかし竹谷のように武骨なものでもなく、雷蔵のように節出張っているわけでもない。
綺麗な、人の形の手だ。
その、二つの美しいものが机の上で踊るのを、三郎はどこかうっとりした気持ちで見つめ続けた。
どれほどの時が経っただろうか。
カタン、と小さな音をさせて筆が立てられる。
その音に、手ばかり見つめ続けた三郎もようやく現実に戻って、兵助の顔を見つめた。
白い肌が、こころなしか赤くなっている気がするのは自惚れだろうか?
「…終わったのか?」
「………………。」
兵助は黙ったまま、ハァ、とため息を吐いた。
「…集中できる訳ないだろう。」
「?なんだよ。私が珍しく大人しくしていてやったのに。」
憮然と言い返す三郎に、兵助が向き直る。対して三郎は動かないままそれをじっと見ていた。
「ほら。」
「うわっ!?」
机に乗せていた腕を引っ張られる。バランスを崩した身体は、細身の身体からは想像できない力強さに支えられた。
兵助は飛び込んできた三郎の身体をさっさと反転させ、小さな子にするように膝の上に抱きあげる。
先ほど三郎が見惚れていた手は前に回され、ぽんぽんと一定の調子で小さく叩かれる。まるで子供を寝かしつける動作だ。
「おい兵助。」
「構って欲しかったんだろうが。甘いなぁ俺も。」
「だからって…。」
これは何かが違う。
しかし最初は不満げに顰められていた顔も、暖かい身体と動きから時間が経つうちに穏やかなものになり、ついには寝息に変わっていった。
それを確認し、じっと、兵助が穏やかな三郎の寝顔を覗きこむ。
たとえ素気無くしようと。
意識しないようにしたとしても。
結局はこうなるんだ。
内心自分に呆れながら、しかし三郎を見つめる顔は微笑んでいた。
あとがき
甘!本当にうちの三郎は兵助が大好きだなぁ。
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