カイロ
温かいモノに触れたくて、手を伸ばした。
でも君は冷たくて。僕はそれに眉を顰める。
それに、君は泣きそうに笑って。
僕は…………。
「…三郎。体、冷たい。」
「そうか?」
「うん。」
伸ばした手は頬をそっと撫でて、それから三郎の腕を掴んだ。
やはり冷え切ったそれは、大した抵抗もなく僕のなすがままに動かされる。
そうやってたやすく腕の中に入った体はとても冷たくて。僕は自分の持て余す熱が伝わるように強く強く抱きしめる。
いつの間にか僕の背に回された腕も、同じように僕を抱きしめる。
同じ姿をした僕らが同じ形で交わる。
「……雷蔵。」
「……三郎。」
「ねぇ、雷蔵。まだ、私は冷たいかい?」
問われて、僕は彼の背に回した手で彼の背中を撫でる。
鍛えられて固いそこは冷たくて、僕は無機質な物を触っているようなその感触に再び眉を顰めた。
「…まだ、冷たいよ。」
「そうか。」
三郎が頷いて、僕の肩口に顔を埋める。
猫のように甘える仕草はいつもより幼く、僕は不謹慎にも胸を高鳴らせてしまった。
「ねぇ、雷蔵。」
「…なんだい?」
「ずっと、私の体が冷たければいいのに。」
その言葉に背中をさすっていた手が止まる。
顔を見たくても、三郎の腕が僕の体を離さない。だから、僕はただ困惑した声で「三郎?」と名前を呼ぶしか出来なかった。
「私の体が冷たかったら、雷蔵は私を見てくれる。抱きしめてくれる。でも、温まったら離れてしまうんだろう?」
その声の、なんて寂し気なことか。
僕は胸がつぶれそうな苦しさを覚えながら、三郎の体を再び強く抱きしめる。
「…離れたくないんだ。片時も。雷蔵にずっとついていたい。」
僕だって。とは口に出せなかった。
それは三郎の求める言葉じゃないとわかったから。
否、三郎は僕の答えなんて求めていなかった。
ただの、呟きだ。
「雷蔵の、傍に居たいよ。」
ただの、本音なんだ。
ならば。
「ねぇ、三郎。」
「…なんだい?」
「早く、君の体が温まればいいのに。」
「…雷蔵?」
困惑している三郎の声。
「君の体が温まったら、離れるのは寂しいけれど、だけど、それを忘れるくらいの口づけを、君に出来るのに。君の顔を、笑っている顔が見たい。それ以外の顔も。そして、温めるためなんて口実を付けずに、愛しさから、本音から君を抱きしめたいよ。」
ぎゅう、としがみ付く腕の力が増す。
それは恋人同士の抱擁というより、子供が母親にしがみついているようだ。
僕は三郎からは見えないところで苦笑して、あやすようにその背を撫でる。
その背中は、さっきよりずっと温かかった。
ようやく触れることの出来た温もりに、僕もほっと息を吐く。
「…………雷蔵。」
「ん?」
「…体、あったまった。」
「……そうだね。」
三郎の腕から、力が抜ける。
するりと僕から離れた体に寒風が吹くけれど、僕は期待に満ちた目をする三郎を見つめるのに夢中で。
僕は再び頬へ手を伸ばして、その温もりに目を細める。
「本当だ。あったかいね。」
「雷蔵……。」
「うん。」
触れる僕の手を、三郎が握る。それが、合図。
僕は出来るだけそっと、三郎の柔らかい唇を己のそれで覆う。
「んっ…、ふ、…ふぁ。」
「三郎。」
「んん…、は……。」
唇を食んで、舌で三郎のそれを遊んで、ちゅ、と小さな音をさせて離れる。
三郎の目はとろりと蕩けたまま、ぼんやりと僕を見上げていた。
そこに微笑む僕の顔が映っているのが見えて、今度はその瞼に小さな口づけを落とす。
「…三郎。かわいい。大好きだよ。」
「…私も、好きだ。雷蔵。」
そうしてふわりと微笑む三郎が、僕は本当に愛しくて。
再びその寂しがりの体を強く強く抱きしめた。
あとがき
唐突に書きたくなった雷鉢。甘い。短い。
定期的に書きたくなりますね。こういう話。
そして「花食み」のときもそうだったけど!季節感!!!!どうなってるのアソビさん!!
半そでのパジャマ着ながら書く話じゃないよね!!!