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自覚する感情
自分の顔が自分の意志と違う表情をするというのは、やはり妙な感覚だった。
「…どうした?」
それが女の姿をしたものであればなおさら。
思わず真顔になって問いかけても、ひらりと綺麗な着物が目の前を横切るだけで。
「んー?気分。」
そしてニヤリと笑う顔は三郎のもので。どうやらご機嫌なようだ。
今にも声に出して笑いだしそうな表情は酷く悪戯めいていて、それが目の前の人間が自分と同じではないのだと理解させる。
なんにしろ。恋人がご機嫌なのは良いことだ。
…多少悪趣味な感は否めないが。
「俺の顔になりたい気分だったのか?」
鼻歌を歌いながら(本当にご機嫌だ)俺の隣に座った三郎はわざと下から上目使いに「そう。」と笑う。
「私は今、非常に愉快な気分だよ。兵助。」
「………そうか。」
すぐ目の前で笑う三郎の目に映った自分は、半ば呆然としていてなんだか間抜けだ。
だがそれにすら笑顔を浮かべて、三郎がますます遊女のように擦り寄ってくる。
「兵助は?面白くない?」
その問いに、少し迷う。
妙な気分ではある。だが、これは愉快というものでもないだろう。
俺の顔で三郎の表情をする様に、感じる違和感は。
「………俺も末期だよな。」
「なんだよ。」
読む気も無くなった本を机に放って目の前の体に腕を回す。
もともと擦り寄っていた体は素直に俺の腕の中に入り、それにまたなんだか妙な感じがした。
「今日は素直だな三郎。」
「言っただろう。私は今、とてもご機嫌なんだ。」
なんなら口吸いもしてやろうか。と笑う顔はやはり俺のものだったが。
なんだか紅を引いた唇は妙に濡れて見えて目が吸い寄せられる気がしたので、その頭を抱きしめることで目を逸らす。
「へーすけ。」
だが
耳元でくすくすと笑う息がかかる。
三郎の手がそろりと俺の項の産毛を擽る。なんだか、いつもと違う良い匂いもする。
はっきり言って、先ほど以上に俺の背筋をぞわりとした感覚が襲った。
「へーすけ。」
そして、とろけるような、甘えた声。
衝動的に抱きしめた体をそのまま押し倒しても、俺を見上げる顔は嬉しそうに緩んでいて。
くすくすと笑いながら俺の耳の横に髪をかきあげる。
「ほんとうに、ご機嫌だな。」
「そうだよ。さっきからそう言ってるだろう?」
俺の首の後ろに手を回して、俺の顔をした三郎が、少女のようにことりと首を傾ける。
「兵助は?」
二度目の問いに俺はまたまた行動で示した。
今度こそ、この唇に食らいついて。
「ふっ、ん、ふふっぁっ!ひゃんっ」
唇を存分に味わった後首筋に顔を埋めると、笑い声を零しながらも震える声が耳に響く。
赤い痕を残してから顔を上げると、三郎は笑みを浮かべながら「へーすけ?」と舌足らずな口調で俺の名前を呼んだ。
「三郎…、」
いつもと違う様子の三郎に怖気付いている自分がいる。しかし、三郎はそれすらも笑い飛ばすようにそのまま俺の体を引き寄せる。
「なぁ、へいすけ、私に欲情しない?」
三郎の表情が歪む。笑みとは違う形で。
そしてその目に映る俺は、やはり間抜けな表情をしていた。
「………まさかそう聞かれるとはな。」
「そりゃね。……自分の顔だろ?」
「いやそうじゃなくて。」
さっきから、三郎にたまらなく欲情しているというのに。
「…やっぱり末期だ。」
驚いた俺の顔はやはり三郎のそれで。
それから、とても嬉しそうに笑うものだから。
俺はまたその唇に食らいつくことになったのだった。
「んっんぅ、ふはっ…、へ、すけ。へーすけ。」
「三郎。好き。」
「んっ。」
綺麗な歯列を舌でなぞり口内を蹂躙して、口を離す度に愛を囁く。
やがて三郎がそれに蕩けたような表情になるころ、綺麗な色の着物に手を差し込んだ。
「ふぅっ、ん!」
胸の飾りに触れた途端に震える体に口づけを落とす。
きめ細かい肌を舌で味わうようになぞると、その度にピクリピクリと跳ねる体が愛おしい。
筋肉が無い訳ではないが、薄い体はやはり自分と比べると細い。
その事実がこれが三郎であることをますます知らしめていて。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
大切な、俺の好きな人の肌が目の前にある。
その事実はどうしようもなく俺を奮い立たせた。
ぐっと装束を剥ぐように三郎の体から離す。
三郎は急に行動的になった俺に「ふぁっ?」と驚いた声を上げながらも抵抗せずそれに身を任せる。
あっという間に三郎を一糸まとわぬ姿に変えた俺は、見下ろした先の体を手でなぞった。
「ひっ、んっ、あ、あっへぃすけっ!!」
「三郎…、濡れてる。」
なぞったその下の部分を握れば、グチリと濡れた音が部屋に響いた。
途端に体を大きく跳ねさせる三郎を俺は自分の体で押さえつけながらその自分そっくりの顔を間近で見つめる。
「アッ、ああああっ、やぅ、あ!!アンッ!!」
女の姿をした自分が喘ぐ姿というのは、倒錯的でやはり妙な気持ちだ。
だが。
「へ、すけぇっ」
伸ばされる手にも、声にもやはり三郎の物だと言うだけで気持ちが高ぶる。
「三郎…。」
背に掛けられた手に導かれるままに再び口づけを落とす。
下ではグチグチと水音が立てられ三郎が恥ずかしそうに身を捩り、三郎の体が一際大きく震え、絶頂が近いことを知ると俺は濡れた手をそこから離した。
「ふゃ、ぁ、あ…へぇすけぇ………。」
快楽に濡れた涙で俺を見上げる三郎へ、安心させるように微笑みを向ける。
三郎の顔が、ピクリと羞恥に赤く染まるのを見ながら。
「あ!!あっ、ア、んっ!!ああああ!!」
ズッ、と音をさせながら侵入を果たした俺の指に三郎が声を漏らす。
そして俺の思うように動かす度に三郎の肢体が艶めかしく跳ね、ますます俺を誘った。
「んっ、んんっ、っあああン!!!ひぅっやっあ!だめ、アッ!!!へいすけ!!」
「ん……。」
もう駄目だと首を振る三郎に、俺も増やして中を広げた指を引き抜く。
くちゅん、と音をさせて俺の指を離したそこは、再び埋められる期待にかまたヒクヒクと震えていた。
「三郎。」
はぁ、はぁ、と荒い息を吐きながら見上げる三郎は、俺の顔をしたままだ。
自分の顔が、そんな表情をしているというのに欲情する俺は変態なのかもしれない。でもそれは違うと否定する。
「三郎、かわいい。」
「ふゃっあ!!」
ぐ、と俺自身を宛がい押し進めた途端に震える体。そして俺の言葉に照れるように顔を赤く染めるのも。
「好きだっ。三郎、……三郎っ、」
「あああああ!!あっアッ!!んゃっああああん!!ひぁあっ、あああ!!」
腰を打ち付ける度に啼く三郎の体を抱きしめる。
肌の触れる感触にも快楽を覚えるのか、ますます三郎の声は高まった。
だが背に回された腕は離れないようにしっかりと巻きつけられている。
互いの息が、体が触れあいそれがますます快感を高める。
最後に欲を放つ瞬間まで、ずっとそれが外れる様子は無かった。
「で、なんでまたあんなご機嫌だったんだ?」
布団の上に横たわる三郎はいまだ女装した俺の姿を解かずにご機嫌な様子で、俺の髪の先を弄って遊んでいる。
俺の問いに一瞬視線を向けるがすぐに元に戻した。
答えるつもりがない訳ではないらしく、その口は笑みを浮かべながらも言葉を紡ぐ。
「私はな、お前の顔が好きなんだ。」
「……………そうだったな。」
なんだか顔だけと言われているようであまりそれは愉快な気分でもないのだが。
だが十分間を置いた相槌にも三郎が気にした様子はなくそのまま頷いた。
「だからさっき、お前の顔を思い出しながら顔を作ってみた。」
髪を弄る手を離し、伸ばされたそれがそっと俺の顔に触れる。
「目も、髪も、眉も、鼻も口も。全部お前の好きなところ思い出しながら。そしたらさ……。」
「ん?」
少し躊躇うように顔を赤く染める三郎へ、続きを促す。
照れたような笑みで、三郎は「思った以上によく出来たから。」と言い、また少し間を置いた後、「欲情した。」と笑った。
そんなことを言われた俺としては。
しばしその照れた表情に見惚れつつ、三郎の言葉に絶句し、そしてその愛おしい体が目の前で横たわる事実に衝動を抑えることしかできず。
固まった俺に、三郎はその内情を知ってか知らずかとびきりの笑顔を向け。
「私の、愛の証ってやつだな。」
その言葉の威力は俺の理性の箍をあっさりと外したのだった。
あとがき
リクエスト「兵助の顔をした女装三郎で久々鉢」でした。
吟さん…ええとあの。すみません。えrしょぼくて…(当社比)
でもその分甘くしてみました!!!!(当社比)
自分で思ってたより三郎のことが好きな兵助でした!!!
吟様のみのお持ち帰りになります。よろしくお願いいたします。