二人の休日


ゆっくりと透明なお湯が赤く染まるのを見つめる。
本来は陶器が良いのはわかっているが、この様子を見るのが好きでガラス製のものを買ったのだから。
じわじわと、浸食するように赤がガラスの底へ落ちていく。
竹谷がさっきこうしてじっとポットを見つめている三郎を見ているが、ただ首を傾げて去って行った。
こうしてただポットを見るという行為が理解できないらしい。
竹谷が孵る卵を見つめるときのように集中しているわけではない。
むしろ、今三郎の瞼は落ちてしまいそうだ。
その瞼がぱしぱしと瞬きをして、突然はっきりと開かれる。
そして首を向けた先から、勘右衛門が大皿を持って現れた。
「また見てたの?」
「うん。」
「好きだねぇ。」
「うん。」
四人用のテーブルには無理矢理と行っていい形で五脚の椅子が並べられている。
そのうちの自分の椅子に座りながら、勘右衛門は大皿をテーブルの上に置いた。
その上に山盛りになった焼きたてのクッキーが乗っかっていた。
それを小さな子供のように目をきらきらさせて待つ三郎に微笑みながら、勘右衛門が「どうぞ。」と声をかける。
ぱっと顔をほころばせた三郎がまだ湯気を立てているそれを一つ摘む。
「あつっ。」
「焼きたてだもん。」
指の熱さから逃れるようにパクンっとそれを口の中に入れると、またハフハフと熱そうにそれを咀嚼する。
サクサクと音をさせてほおばる姿に小動物を連想させながら勘右衛門は三郎が食べ終わるのを待った。
やがてこっくんと喉を鳴らして飲み込むと、「はちみつ?」と三郎が首を傾げる。
「惜しい。メープル。」
「ああ。」
「初挑戦だけど。どう?」
「おいしい。」
「そっか。」
ほっとして横を見れば、もう紅茶がずいぶん濃い色に鳴っている。
「三郎。紅茶渋くなっちゃうよ?」
「ああ…。このくらいでいいんだ。アイスティーにするから。」
そう言いながら三郎はもう一つクッキーを摘んで口の中に放り込むと、赤というよりは褐色になったポットをキッチンへ持って行った。
ガラガラと製氷機を漁る音がしたあと大して待たずに綺麗な赤色になったアイスティーを持ってくる。
「どうぞ。」
「どうも。」
渡されたそれを一口飲んだあと、勘右衛門が小さくため息を吐いた。
「おいしい。今日はなに?」
「今日は甘いの作るって言ってからダージリン。」
「そっか。三郎は紅茶を入れるのがうまいね。」
「勘右衛門はお菓子を作るのがうまい。」
そして三郎はクッキーを、勘右衛門が紅茶をもう一口含む。
それをしっかり味わってから飲み込んで、今度は二人同時に微笑んだ。
「おいしいね。」
「おいしいな。…今度はアーモンド使ったやつが食べたい。」
「俺は中国茶も飲んでみたいなぁ。」
「じゃあ次な。」
「うんまたのときに。」
次の約束に互いに頷いて。それから静かに紅茶を飲みつつクッキーを摘む。


穏やかな、なんでもないそんな休日の一幕。


あとがき
○印でメープルクッキー買ったあとオープンテラスでアイスティ飲みながらポメラちゃんで書いた品です。
まったりと、のんびりと、にこにこ笑いながら。こんな休日って一番幸せ。

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