平和なことか!
「うわっ。」
「うぷっ!」
突然正面から襲ってきた突風に、咄嗟に顔を腕で覆う。
すぐに通り過ぎたそれに雷蔵がため息を吐いた。
「すごい風だったね三郎。…三郎?」
雷蔵のすぐ隣にいた三郎は、顔を覆うのが間に合わなかったのだろうか。しきりに顔を擦って「う〜〜。」と唸っている。
「三郎?大丈夫?」
「…目にゴミが入った。…………ん。取れたみたいだ。」
「そう…良かった。」
三郎が懸命に目のゴミと戦っている間、実は雷蔵は口元を引き締めるのに必死だった。
今の突風で、三郎が雷蔵に似せようと努力してる髪はボサボサだし、他にも普段なら見られない汚れやほつれが所どころ露わになってしまっている。
加えて、目を擦るその仕草が本当に幼い子供のようで。
ようやく目の痛みから解放された三郎は赤くなった目で雷蔵を見上げた。
その潤んだ目に雷蔵は常にするように笑いかける。
「三郎。まずは部屋に戻ろうか?」
「へ?」
きょとんとする三郎に、己の顔を指差してみせると、三郎ははっとして自分の姿を確認しだした。
「あーー!!!」
「ね。だから、部屋に戻ろう?」
「もう!あーもう!!」
「はいはい。」
やり場のない怒りに暴れる三郎を宥めつつ、二人は部屋に戻ることにした。
(かわいいなぁ、もう。)
「雷蔵。」
「な、なに?」
三郎がいきなり背中を押す雷蔵へ振り返った。心の声を思わず呟いてしまったかと思ったが、そんな訳はないのでとっさにいつもの笑みを浮かべた。
「愛してるって言って。」
「………。」
また唐突な。
からかっているのかと思ったが、雷蔵を見上げる目は真剣そのものだ。
「…愛してる。」
「………。」
その目を見つめながら三郎の希望通りに言ったのに、なぜか三郎はむっとした顔で今度は体ごと振り向いてきた。
「もっと気持ちこめて!もう一回!」
「愛してる。」
「駄目!もう一回!」
「愛してる。」
乞われるままに愛の言葉を繰り返し、もうそろそろ口内が乾いてきたというころ、三郎はようやく満面の笑みで「良し!」と浮足立って部屋に戻った。
「………。」
これは、馬鹿ップルと言われてもしょうがないかもしれない。
残された雷蔵はしまりのない顔でニヤける自分を自覚しながら、それを止められず。立ち止まったまま(さて、この顔どうしよう。)と軽い気持ちで悩んでいた。
また別の日。
ざあざあと振り続ける雨をぼんやりと眺めながら三郎がため息を吐く。
「せっかく雷蔵と出かけようと思ったのに…。」
「しょうがないよ。今日は大人しくしていよう?」
空を見上げたまま動かない三郎の背中に雷蔵が優しく慰めの声をかける。
それでもため息を吐く三郎に(なんだか僕まで切なくなるなぁ。)と雷蔵まで目尻を下げてしまう。そろりと三郎の隣に行きそっとその体を抱きしめた。
「ね。三郎。元気を出してよ。その代わり今日はずっと一緒にいるから。」
「…………うん。」
抱きしめる雷蔵の胸に頭をすり寄せ甘える三郎を、雷蔵は愛し気な表情で見下ろす。雷蔵の変装をし続け傍に居ることを望む恋人は、雷蔵にだけこうして甘える。それはとても嬉しいのだが、逆を言えばこうして甘えられるとどうにも逆らうことができないのだ。
(だめだなぁ…。甘やかし過ぎてはいけないと分かってはいるんだけど…。)
三郎に素直に甘えられて、それが自分だけだと思うと拒絶なんてできない。
(勝てないんだよなぁ…どうにも。)
自分に苦笑する。このままでは一生三郎に勝てないままだ。
しかし、心では思っても現実は厳しい。
(これって尻に敷かれるっていうのかなぁ…。あ、そうだ。)
「三郎。」
「ん?なに?」
「愛してるって言って。」
ちょっとした悪戯心。少し困った顔をする三郎が見たいだけだ。もしくは赤くなるか口ごもるか。雷蔵はにこにこ笑いながら、驚いた顔をする三郎を見下ろした。
しかし。
「愛してる。」
あっさりと。しかも満面の笑顔と甘い声音で。当たり前のように三郎は。
そのなんの気負いもない様子に雷蔵の方が顔を赤くなった。
その顔を見た三郎がしたり顔で雷蔵の唇にキスを落とす。そして固まったまま動けないでいる雷蔵にかまわず、再び雷蔵の胸へ顔を埋めた。
「〜〜〜〜っ。」
(駄目だ!本当に駄目だ!)
もう勝てないままでいい!負け通しでかまわない!
「僕も、愛してる。」
自らの腕の中にいる愛おしい存在に、心から雷蔵も囁いた。
あとがき
勝手にやってろな馬鹿ップル。でも雷鉢はそれがいい。
タイトルと内容ははsurface(←十年来ファン)の同タイトルの曲より。
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