ただ祈る。心に平安と平穏を。
静かに、戸が開かれる。
空気の動きに気が付いてそちらに目を向けると、俯いたままの級友がそこに佇んでいた。
「…どうした?」
「……………。」
俯いているから、はっきりとどちらかとは言えないが、おそらくこれは三郎だ。
できるだけ優しく問いかけるが、三郎は答えないままゆっくりと兵助の後ろに腰を下ろした。
「………………。」
こういうとき、兵助はいつもどういう言葉をかけたら良いかわからない。
何か言うべきなのか。
ただ抱きしめるべきなのか。
雷蔵の迷い癖が移ってしまったかのように、考えにはまって動けなくなる。
そして、そのうちに三郎はいつのまにか自己完結して晴れやかな顔になり、出て行ってしまうのだ。
自分がふがいない、とは思う。
しかし。
兵助は背中の温もりを感じながら目を閉じた。
三郎はこれを求めに来ているのだろうか。
この、背中の温もりと、人の沈黙。
静かな呼吸と、穏やかな空間。
心が安らぐ。
「……………。」
「……………。」
兵助は再び目を開き、そっと後ろの三郎を確認したあと元のように読書に戻った。
雷蔵へするように甘えるのではなく。
竹谷へするように騒ぐのではなく。
こうしてただ静かに目を閉じたいのなら。
いつでもここに来るといい。
三郎。
兵助の内心の言葉が届いたわけではないだろうが。そのとき確かに三郎は頷いた。
あとがき
三郎は何かあると雷蔵には甘えに行く。竹谷には騒ぎに行く。
兵助にはただ傍に居てほしいイメージ。
何にも出来ないけど、何にもしなくて正解なんです兵助くん。