ガンバレワカゾー!
昼休み。
高等部2年である三郎たちは大体いつも教室の一角で昼ごはんを食べている。
普段は三郎たち2組の教室に1組の兵助が来るのだが、今日は授業が遅れていて兵助は廊下で終わるのを待つことになったのだった。
「以上。ここまで!」
教師の声と共に「だぁぁぁぁ〜」というようなため息が一斉に漏れる。おざなりな号令のあと食堂で食事をする生徒たちが一斉に走っていった。
「随分遅くまでやってたんだな。」
「あ。兵助。ごめんね待たせちゃって。もう先生ってば好きな作品の話だからって説明が長くてさ。」
廊下側の席にいた雷蔵が苦笑いしながら弁当片手に席を立つ。二人で向かうのは三郎の席だ。
「ん。よう兵助。」
「よう。さぶ、ろ……。」
おそらく開いてもいない教科書を仕舞う三郎を見て、兵助は固まった。
固まるだけのアイテムがそこにはあった。
「…三郎、お前眼鏡、掛けてたっけ?」
「ああ。授業の間だけな。」
固まる兵助にかまわず三郎はさっさと眼鏡をはずしてケースにしまってしまう。その手を、兵助がガシッと止めた。
「なんだよ?」
「…もっかい掛けて。」
「はぁ?」
「眼鏡。もっかい掛けてくれ。」
「…まぁ、良いけど。」
そして付けた眼鏡はデザインは大人しいものの、どことなく細かい細工がしてあって三郎にとても似合っていた。
真剣な顔で眼鏡を掛けた三郎を見下ろしている兵助に、三郎は顔を顰めた。
「おいへいす」「いいな。それ。」
「は?」
「いい。すごくいい。三郎エロい。」
「「「は!?」」」
雷蔵、三郎、そして購買からパンをもぎ取ってきた竹谷の声が合わさった。
「お、お前!!教室で変なこと言うな!!」
「変じゃない。三郎眼鏡すごく似合うんだな。」
「そ、そんな風に似合うって言われても嬉しくねー!!!」
立ち上がり真っ赤な顔で怒鳴る三郎を我に帰った竹谷と雷蔵が慌てて抑える。
「さ、三郎。落ち着いて!」
「ここ教室!教室だから!!」
「だって雷蔵!この変態が!!」
「兵助が変態で豆腐なのはわかってただろ?後で兵助を思いっきり殴っても怒らないから、今は落ち着いて!」
「とりあえず三郎!その眼鏡外せ!な!」
必死な二人にようやく三郎は口をとがらせながらも怒りを納め、指先で眼鏡の蔓を摘んで外してしまう。その間もまじまじと見つめてくる兵助の視線を痛いほどに感じるが、すでに無視することは決定済みだ。
「あぁ…いいもん見た。」
ほぅと幸せなため息を吐いていることも、当然無視をする。
「俺、眼鏡属性無かったつもりなんだけどな。三郎の眼鏡にあんなに萌えるとは…。」
「さー。弁当食おーか。」
「そうだね。」
「おう。」
「しかも黒縁。王道にも程があるだろう。いや三郎はどんなおしゃれ眼鏡でも似合うと思ってるけど。」
「お。ハチ今日はヤキソバパンゲットしたのか。」
「まぁな!」
「しかも眼鏡を付け外しする仕草もまたイイ!!こう、少し目を伏せて眼鏡を取った後、ぱっと俺を見てくたりとか…。」
「お前ら相変わらずまったく同じ弁当なのなー。」
「だって両方私が作ってるんだからな。同じ内容なのは当たり前だろ?」
「ふふふ…。そう言いながら、三郎、失敗したのは自分の方に入れてるでしょう?だめだよ。ほら。」
「あ!!ら、雷蔵それは!」
「こう、指で眼鏡を直す仕草もいいよな!!こう、指先が色っぽい感じがするよな!」
「…ん。あはは。しょっぱい。」
「…塩の量を間違えたんだ。」
「眼鏡の上目づかいなんてもう犯罪的にかわいいんだろうな…。すこし服を肌蹴させて眼鏡越しに俺を見上げる三郎…。イイ!!」
「ごめんね。三郎のおかず取っちゃって。ほら、僕のをあげる。はい。」
「ん…。」
「おいしい?」
「…うん。」
「そっか。さすが三郎だね。」
「…おい三郎。雷蔵といちゃいちゃしてるとこ悪いがな。兵助の言動がだんだん変態じみて在ること無いこと言いだしたぞ。」
「ヘイスケッテダレデスカ?」
「お前の恋人だよ。現実から逃げるな。」
「さ、三郎…。そろそろ止めないとクラスで変な噂が立つかも…。」
雷蔵の言葉にうー、と唸って、三郎はしぶしぶ立ちあがった。
そして相変わらず一人で語っている兵助の肩を叩く。
ん?と振りむく兵助ににっこりと笑いかけ、その頭を思い切りぶん殴った。
「正気に戻ったか変態豆腐が。」
頭を抱えてうずくまる兵助を心配するものは誰もおらず、雷蔵と竹谷はただ拳を握りしめる三郎に苦笑していた。
がたり、と椅子に戻った三郎は弁当の続きを食べ始め、兵助は昼休みが終わるまで立ち上がることは無かった…。
「なーんて俺が諦めると思うか!!」
「いや諦めろよ。」
時間が変わり放課後。
再び現れた兵助を、事情を知るクラスメイトたちが苦笑しながら帰っていく。そのことになんだか三郎の方が恥ずかしくなってきて思わずぷいと兵助に背を向けた。
「三郎?」
刺さる視線に気が付いていないのか、兵助はただ三郎だけを見つめきょとんとしている。
なんだかんだいって相思相愛なのだ。三郎が愛想を尽かすことなど考えもしていないに違いない。
それがなんだか悔しくて、三郎はさっさと鞄を手に取り教室を出て行った。いつもは4人で帰るけれど、雷蔵と竹谷は今日は委員会で、そういう日は二人で帰れと言われている。
普段忍ぶ仲なのだから少しくらい、そうしたっていい。と、あの二人に言われてしまえば三郎に否など言えるはずもない。
だが。
兵助は隠す気など微塵もないようで、いつもこうして兵助が好きだなんだと騒ぎたてて三郎だけが赤くなるのだ。
「なぁなぁ三郎。また眼鏡掛けてくれよ。」
「うるさいな。そんなに眼鏡が好きなら自分が掛ければいいだろ。」
肩に置かれた手を叩き落とす。兵助は落とされた手を振りながら口を尖らせた。
「俺が掛けてどうするんだよ。俺は三郎が眼鏡掛けてるところが見たい。」
「もう見ただろ。」
「また見たい!!」
なぜこんなに目が輝いているんだ兵助。
豆腐以外にこんな目を輝かせることがあるんだなお前。
などと三郎は遠い目をする。
「…大体なんでお前そんなに眼鏡にこだわるんだ。今までそんなこと言わなかったくせに。」
「もちろん今のままの三郎も愛してる!」
「大声で言うなそんなこと!」
「だが可愛い三郎に萌えアイテムが追加されてみろ!そんなの、ものすごく可愛いに決まってるじゃないか!!」
「眼鏡は萌えアイテムじゃない!!勉強の道具だ!!」
「それがまたいい!!」
「意味わかんねぇよこの馬鹿豆腐!!」
ぎゃいぎゃいとわめく二人を、他の生徒たちが「またかよ…」と笑いながら通り過ぎていることに、三郎は気付かない。
とっくに、二人の仲が全校公認になっていることも。
もちろん兵助は気付いていて大声で愛を主張しているのだが。恥ずかしがる三郎が愛らしいから兵助はまだそのことを話すつもりはないし、雷蔵と竹谷も、知ったとき三郎が憤死することが分かりきっているため言いだせずにいる。
だから。
「三郎だったら猫耳もメイドもナースも巫女さんもなんでもいけるけどまずは眼鏡をゴフッ!!」
「死ねよ馬鹿―――!!!!」
…真っ赤になった三郎が兵助を見事なアッパーで沈めるのも仕方がないのだ。
あとがき
それでも兵助を「嫌い」とは言わない三郎萌え。
そして三郎が眼鏡をかけたらエロいと思う。しかし敢えてギャグで。
gdgdですみません…。
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