抱き枕
ヒヤリと背中が冷える感覚に目が覚める。
振り向こうとした途端、回された腕がそれを拒んだ。
「………三郎?」
「うん。」
なんでこんな夜中に。
そう問う前に、はたと他の言葉が口を突く。
「…夜這い?」
割と真剣に聞いたのに、回された手がギュウと腹を抓りあげた。地味に痛い。
「三郎。痛い。」
「痛くしたんだ。この阿呆。」
三郎は俺の体に腕を回したまま顔を上げようとしない。振り向こうとしてもその度にその手が俺を抓るものだから、俺は諦めて三郎に背を向けたままため息を吐いた。
「…俺は抱き枕?」
「その通りだ。」
即答かよ。
「…寝てるときの兵助は体温高い…。」
「お前は冷たいよ。」
「うん…。」
一応文句のつもりだったが、力無く肯定する声に何も言えなくなった。
その代わり、回された手にそっと手を重ねる。
今度は、抓られることは無かった。
「寒いのか?」
「少し。でも平気だ。」
その言葉とは裏腹に、腕が放される気配はない。
ぽんぽんとリズムを付けて腕を叩いてやると、眠くなってきたのかだんだん腕の力が緩んでいく。
「へ…すけ、それ、やめろ。ねむくなる………。」
「いいよ。寝とけ。」
それから三郎はまだ「うー。」だの「むー。」だの言いながら頭をぐりぐりと俺の背中に押し付けて抵抗していたが、ついには穏やかな寝息を立て始める。
それでもしばらく子供をあやすように腕を叩いて、その気配が完全に眠ったものになるのを確認できるまで待つ。
そこまでの用心をして、ようやく兵助はため息を吐いた。
「…まったく。」
くるりと体の向きを変えて三郎の体を抱きしめ返す。
深く眠っている三郎は気付いていない。多分。
気配に敏い三郎のことだから気がついているかもしれないが、ここは俺の布団だ。好きにさせてもらおう。
「…こうして来るようになっただけましか。」
そっとその雷蔵を模した髪に顔を埋めると、微かに鉄と、火薬の匂い。
それに、少し湿った髪は今まで水を浴びて来たのだろう。この冬の寒空だというのに。
以前ならそのまま一人で堪えていたのだ。それに比べれば進歩である。
「今度は、正面に回って来いよ。叩き起こしたって、いいんだから。」
その体を、起こさない程度に強く抱きしめる。
冷たい体が、早く温まるように。ただそれだけを願う。
「お前が来るなら、いつだって、抱き枕になってやるから。」
あとがき
アソビ「膝枕も御姫様だっこもして次なんだと思う?」
めゐの「…………………抱き枕?」
アソビ「それだ!!!!」
という会話をしたのが1年前(笑)
ネタ発掘。たまにはメモも漁って見るもんだ^^