大好きな先輩






たとえば僕と彼のような関係はそこらにありふれているというのに。
そのどれとも当てはまらない。違和感がある。何かが変だ。どうしてだろう。


どうしてだろう?


「今日ねぇ、久々知先輩が宿題を見てくれたんだよ。」
「久々知先輩が?」
「うん。」
ゆらゆらと蝋燭の灯が揺れている。
伊助はもう布団にもぐりこんで、本を読んでいた僕を見上げながら嬉しそうに話を続けた。
「委員会が早く終わってね。それなら宿題が出来ますねって言ったら先輩が見てくれるって。」
「優しいね。」
「うん!」
いつもは大人しい伊助がはしゃいでいる。
「久々知先輩、頭良いんだよ。とっても教え方が上手でね。面白い話もたくさん知ってるんだ。」
僕も久々知先輩みたいな先輩になりたいなぁ。
その言葉に、僕は少し首を傾げるがすぐにそれを正して頷く。
「なれるよ。伊助なら。」
「えへへ。」
おやすみ、と布団を被る。
僕は体を本へ戻すが、意識はぼうっと宙に浮いたままだった。
あんな先輩になりたい。
僕はそう考えたことはなかった。


「おい庄左ヱ門。どうした?」
「うん…。」
彦四朗が呆れたように声を掛けてくるが、僕はやはり上の空だ。
秋も深まり、掃いても掃いても落ちてくる落ち葉を集めている最中だ。先輩たちは他の場所に行っている。
「彦四朗はさ。」
「うん?」
「鉢屋先輩みたいな先輩になりたいって考えたことある?」
きょとん、と彦四朗が手を止めてこっちを向いた。
「当たり前じゃないか。」
当たり前か。
「そう。」
「ふざけた人だけど、成績も優秀で僕たちにも優しいだろう?庄左ヱ門は、そう思ったこと無いのか?」
それに僕は曖昧に笑う。
まっすぐな彦四朗には、その意味がよく分からなかったらしい。追求しようとする口を塞ぐように僕は「ちりとり持ってくる。」とその場を離れた。
ゆっくりと歩きながら、僕は自分の心の中を良く考えてみた。
嫌いな訳はもちろん無い。ある訳がない。
優しくて、強くて、温かい先輩だ。僕たちをすぐに甘やかそうとする悪い癖も、本当は嬉しくて堪らない。
その忍としての技も六年生を凌駕すると言うし、もちろん憧れるには十分な人なのに。
「守りたい、って、思ってしまうんだよなぁ。」
あの先輩の、嬉しそうな笑顔を知っている。本当に、幸せそうに緩んだ笑顔だ。
あの先輩の、寂しがりなところを知っている。庄左ヱ門たちが傍を離れると、いつも眉を下げるのだ
あの先輩の、子供っぽいところを知っている。本当は嬉しくて堪らないのに、それを懸命に隠す様を知っている。
かわいい人だと、思うのは自分だけではないのだけれど。
「庄。」
「鉢屋先輩。」
「そっちは終わったか?勘と芋焼こうって話ししてたんだ。」
「いいですね。大分掃き終わりましたよ。」
「ん。じゃあカゴも持っていこうか。纏めてしまおう。」
「はい。」
ご機嫌らしく、鉢屋先輩はニコニコと用具入れの中から大きめのカゴを取り出している。焼き芋が嬉しいのだろうな。
「うん?どうした庄。嬉しそうだな?」
「はい。」
「焼き芋は美味いよな!」
「はい。」
かわいいなぁ。
口には出さなくても、顔には出ているらしい。鉢屋先輩は勘違いをしているみたいだけど。
それからちりとりとカゴを持って戻った僕たちを彦四朗が迎えた。鉢屋先輩と一緒なのを見て戸惑った顔をしている。
「彦。焼き芋するぞ焼き芋!!」
「あ!はい!!…おい庄左ヱ門!」
呆然とした顔から意識を取り戻し、彦四朗は僕の腕を掴んで小声で囁いた。
「お前鉢屋先輩嫌いなんじゃなかったのかよ!!」
「そんなこと言ってないよ。」
どうやら彦四朗は誤解しているようだ。
僕は鉢屋先輩の方を振り向き、「鉢屋先輩、大好きですよ。」とはっきり言った。
先輩は何度か瞬きし、それから嬉しそうに、僕の大好きな笑顔で「私も庄左ヱ門が大好きだ。」と答えてくれた。
うん。
僕は鉢屋先輩が大好きだ。



あとがき
ばかのんさんに捧ぐ!!!
オフ会ではお世話になりましたお待たせしましたスケブありがとうございましたーー!!!
庄ちゃんかわいいちっちゃく男前ですえへへ////よろしければお受け取りください。素敵な雷鉢ありがとうございました!!

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