ボクラトモダチ
ぴ、と。
音でもしそうな雰囲気で、三郎は竹谷に向かって人差し指を伸ばす。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「………人を指さしちゃいけませんって雷蔵に怒られなかったか?」
「だああああ!!ハチのあほ!!!!」
「なんだよ!!」
たっぷり考えた結果の竹谷の言葉に三郎は頭を抱えて思い切り横に振った。
それと共に投げられた暴言に竹谷も反射的に返すものの、三郎の行動はまったく意味が分からない。
「何がしたいわけ?お前。」
「…ハチに言っても駄目だ。次行こう。」
「おい。」
疑問をいっぱいに顔に浮かべた竹谷をよそに、三郎はさっさと背を向け教室を出て行く。それに慌てて竹谷も後を追いかける。このまま意味が分からないのは気持ちが悪い。
三郎は教室を出て、すぐ隣の教室に入った。
「へーすけー。」
「ん?三郎どした?」
三郎は応えずまっすぐに席で本を読む兵助の目の前まで行く。
そして再び、ぴ、と兵助の目の前に人差し指を伸ばした。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
兵助は何か言うでもなく、じっとその指を見つめている。
さてどういう反応をするのかと竹谷が見つめるなか、ようやく兵助が動く。
おもむろに、口を開け―――。
ガチンッと鋭い音をさせその指に喰いついた。
三郎は間一髪で指を引っ込めたものの、自分の指の突然の危機に目を見開いている。竹谷も呆れと驚きで言葉が出ない。
「へ…すけ……。」
「なんだ?」
空振りしたというのに兵助は平然と元の姿勢に戻っている。今の一瞬が嘘のようだ。
「いきなり噛みついてくんな馬鹿!!!!あーびっくりした!!!」
「違ったのか?」
「違う!!」
「でもほら、こう、なんか目の前に出されると噛みつきたくならないか?」
「ならん!!」
叫んで、三郎はハタと胸元から鉛筆を出した。
「…?」
それを、ぴ、と兵助の目の前に差し出す。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………なんでやんないんだよ!!!」
「は?」
「目の前になんか出されたら噛みつくって言ったじゃん!!」
「鉛筆なんか噛んだって不味いだろ。」
何言ってんだ三郎?と首を傾げる兵助に、三郎が怒りに体を震わせる。
その背後で、コントを見つめていた竹谷も笑いを堪えながら体を震わせていた。
そんな二人を、兵助はきょとんと見上げて首を傾げている。
何も分かっていないその顔に、三郎は大きくため息を吐く。
「も…いい。次行くぞ次。」
「なぁ、ほんとに何したいわけお前?」
「うるさい馬鹿ハチ。爆発しろ。」
「なんでお前俺にはそういう扱いなんだ!?兵助と雷蔵には甘いくせに!」
「当たり前だろ。」
「当たり前だってハチ。」
「兵助まで!」
「それに私が甘いのは雷蔵と兵助だけじゃない。」
「は?」
「あ。なんだ三人揃って、どうしたのー?」
ぽややん、と花の咲くような笑顔と共にもう一人の隣のクラスメイトがやってきた。
その笑顔の元に竹谷が駆け寄る。
「勘!三郎が酷いんだ!!爆発しろとか言うんだ!」
「え。いつものことじゃん。何言ってんのハチ。」
「!!」
「絶好調だな勘。」
「三郎もねー。」
にこにこと笑顔の二人は大層可愛らしい。可愛いのに可愛くない。
竹谷は黒いオーラの見える二人に背を向けて丸まった。
「みんなハチが大好きなんだよ。」
「勘ちゃん。そんなうっとりした目で言っても説得力無い。」
「えへ。」
兵助の突っ込みに微笑んでから、勘右衛門は三郎の方へ向き直った。
「で?みんな何してんの?」
「ん。」
首を傾げる勘右衛門の目の前に、三郎が再びぴ、と人差し指を伸ばす。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………勘。寄り目になってる。」
「あ?違う?」
「違う!」
そっかぁ、とにこにこ笑う勘右衛門に、三郎は脱力する。
「なんでみんな分かんないんだ…。」
「いや。お前のが訳分からんから。ほんとに何がしたいんだ?」
「ムー……。」
唸りながら、三郎は眉間に皴を寄せて呆れ顔の面々を睨む。
しかしまたすぐに新たな獲物を探すかのように周囲を見渡し、途端破顔する。
「雷蔵!!」
「あ。みんなこっちにいたのか。教室に居ないから驚いたよ。」
柔和な笑顔を浮かべる相方の登場に三郎は喜色満面に飛びついた。
「雷蔵!待ってたんだよ!!」
「うん?どうしたの?」
「いや三郎がさっきからおかしくて。」
抱きついてくる三郎を当然のように抱き返しながら竹谷に尋ねるが、尋ねられた竹谷もなんて答えたらいいのか全く分からない。
そもそもの、三郎の行動の意味が分からないのだからしょうがない。
「雷蔵。」
「ん?」
雷蔵から体を離し、再び三郎が真剣な表情で雷蔵にぴ、と人差し指を向ける。
「…………………。」
「…………………。」
「…………………。」
「…………………ああ。」
その指を見て何度か瞬いた後、なぜか頷き、雷蔵が微笑む。
そして、三郎と同じように人差し指を伸ばし、
三郎の人差し指の先にちょん、と触れた。
「…っらいぞー大好きーーー!!!!!」
「ええええええ!?」
思い切りハートを飛ばして雷蔵に抱きつく三郎に竹谷が思い切り叫び声を上げた。
「なんなんだよ三郎!!お前結局なにがしたかったんだ!?」
「うるさい馬鹿ハチ。まだ分かんないのか。」
「んなっ!?」
「まぁまぁ。昨日の映画見たんだろう?三郎。」
「…映画?」
「ああ!宇宙人の!!」
首を傾げる兵助に、勘右衛門はぽんと手を打つ。
雷蔵は勘右衛門に頷くと、今度は抱きついて離れない三郎の頭を撫で出した。
猫でも可愛がるかのような雷蔵の行動を止める者は無く、ただ呆れた目で三人は目の前の二人を見つめる。
「真似っこしたくなったんだよねー。」
「らいぞーがわかってくれてうれしいよ…。」
三郎はといえばうっとりした顔で撫でる手を享受している。
残された三人は、ため息一つ吐いてそれぞれの場所に戻って行った。
あとがき
何が書きたかったって、ぴ、って指突きだす三郎と、○.T.ごっこやってる双忍が書きたかった。
ただそれだけ。