明日が欲しけりゃ相手を選べ
漆黒の布に金ボタン。
靴は革靴を履き、学生鞄は適度な膨らみをもっている。
大川学園の制服を、すこし喉元をゆるめただけの形で纏っている。
夕方になり赤く染まった町中を、三郎はゆっくりと歩いていた。
「三郎。」
この男は、いつもためらうように三郎の名前を呼ぶ。
振り向くと予想通りの綺麗な顔が少し緊張した面もちでそこにいた。
「兵助。竜高のくせになんでここにいるんだ?」
竜王丸高校はここから二つ先の駅だ。
その学校の特徴である灰色のブレザーをきっちりと着る兵助が苦笑する。
「三郎に用事があったんだよ。待ってた。」
「私に?」
ああ。と言って鞄を開いた兵助がはっと顔を上げた。
冬の冷たい地面に、鞄が落とされる。
「あれ?三郎は?」
「先に帰ったよ。タイムサービスがあるって。」
「主婦か。」
「そうじゃない?」
竹谷はカウンター越しに貸し出しカードの仕分けをする雷蔵へと身を乗り出した。
「…雷蔵。」
「駄目。」
「まだなにも言ってないぞ。」
「うちにご飯食べにくるっていうんだろ。駄目。僕の分が減る。」
視線もよこさずすげなく断る雷蔵へ竹谷が苦笑し体を元に戻した。
「お前等、ボスへの敬いってもんが足りねぇよ。」
「ボス。叩きのめしましょうか?」
「こわっ!」
口でそういいながら竹谷は高く笑った。
学ランの前ボタンがすべてはずされ、中に白いシャツとその下の派手なTシャツが見えている。
一方の雷蔵は三郎と寸分違わない姿だ。
ただの普通の高校生に見えるが、竹谷はこの大川学園で時代錯誤な番長を担っているし、雷蔵はその傘下の戦闘員だ。
「参謀が勝手に帰るとか。」
「だって主婦だもの。夕飯の支度以上に大切なものなんて無いだろう?」
しかしそういいながらも雷蔵も苦笑を殺せていなかった。
「心配しなくても。この界隈にはもう僕たちに手を出す奴らはいないよ。」
「いやまぁ……そうじゃなくて。」
照れたように顔を反らしては肯定しても同然だ。
雷蔵は上がりそうになる笑い声をかみ殺し、手元のカードを揃えながら立ち上がる。
「終わったのか。」
「うん。支度してくるから少し待って。」
柔和な笑みは好青年のそれで、誰が見ても武器を持った男20人を叩きのめした鬼人だとは思わない。
竹谷はそのギャップに呆れつつ頷いた。
先ほどまで雷蔵が座っていた椅子に腰を下ろし、手持無沙汰にぼんやりしていると、胸ポケットに入れている携帯が震えた。
「三郎?」
メールは「三郎」と表示されていて、さてはまた買いすぎてその手助けかと思いながらメールを開く。
束の間、竹谷の周囲から音が消えた。
「竹谷?」
「行くぞ。」
数分前とは別人のような雰囲気に、雷蔵が首を傾げつつ頷く。
今ここにいるのは情けなくも優しい高校生ではない。
大川学園を統べる長だ。
「どうしたの?」
足早に昇降口へ向かう足を緩めることなく、竹谷はその疑問に無言で携帯を差し出す。
「………………。」
背後を歩く男の気配が変わったことを感じて、竹谷は再びその携帯を受け取った。
画面には、縛られ、地面へ転がされた三郎の姿。
二人のもっとも大切な人間の、姿だった。
そしてその端についでのように転がっていた人間もまた。
「まずは勘右衛門のところに行く。」
短く伝えられた言葉に頷き、雷蔵逸る体を押さえつけた。
「急ごう。」
ただその言葉だけに、自分の思いを込める。
私立竜王高校は大川学園創設者の友人が立てたらしい。だが校風は自由な大川学園と一転して固い雰囲気を持つ。
いわゆる進学校というものだが、ここでも裏方の頭を張る人物がいるものだ。
「勘右衛門!!」
その主の居所へ、他校の長が殺気を纏ってやってきては他の生徒の間で緊張が走るのも頷ける。
竹谷は勝手知ったる様子で足早にそこへ向かい、勢いよくその戸を開いた。
勘右衛門はすでにソファから立ち上がり、困ったかのように竹谷と、その背後の雷蔵を見つめた。
「はっちゃん。雷蔵。そんな殺気立ってどうしたのさ。うちの後輩が怯えてるだろ。」
にやにやと笑う顔は、竹谷にとっては馴染み深いものだ。
だが、今はその余裕すらも腹立たしい。
「……………兵助はどこだ。」
「うん?先に帰ったよ。まったく参謀に置いてけぼりくらう番長なんてね。」
肩を竦める勘右衛門に、竹谷が「お前携帯はどうした?」と短く問う。
「忘れた。使わないんでね。」
「これからは持つようにしろ。」
そして竹谷が自分の携帯を勘右衛門に投げる。受け取った勘右衛門はその携帯を開き、そして。
「………どういうこと?」
ガラリと、雰囲気を変えた。
竹谷はようやく幼馴染が意識を切り替えたことを確認して状況を伝えた。
「さっき三郎の携帯からそれがきた。端っこに写ってるのは兵助だろ?」
「ああ。間違いない。」
制服は竜高の物だし、あの猫っ毛の真っ黒な髪は間違えようがない。
「さて。なんで大川とうちの学校の参謀たちが二人とも掴まってるのかな?」
「俺が知りたい。だが、お互い身に覚えが無いわけでもないからな。」
その通りと頷いた勘右衛門は、危うい程の殺気を纏って竹谷の背後に立つ雷蔵へ目を向けた。
「はやく…見つけないとっ!!」
「わかってる。橋の横の倉庫だ。」
竹谷へ携帯を投げ返しながら、勘右衛門が二人の間をすり抜ける。
期待していたとは言え、あまりにあっさりと返された答えに二人が目を瞬かせた。
だが先を歩く勘右衛門へと慌てて付いていく。
「さすが、持つべきものは頭のいい幼馴染だよ。」
「それを言うなら、持つべきものは信頼できる友人だよ。」
「気持ち悪いこと言ってないで行くよ。」
互いに普段は言わないような軽口を叩く。だが、その顔を他の人間たちが見れば会話など聞こえなかっただろう。
恐ろしい程の気配を纏って、三人は走る。
そこに、情けなどかける余地などもう残されてはいなかった。
「へいすけ…大丈夫か?」
「ん…………。」
縛られた体を不自由に捻って、三郎は兵助の方へ顔を向けた。
同じように縛られた兵助が眉をしかめて薄く微笑むのが見え、三郎は目尻を下げる。
「ごめん…巻き添え食わせた……。」
あの時。
囲まれ、三郎を無理やり連れ去ろうとした男たちに兵助が一瞬早く気がついたのだった。
喧嘩の手段など全く分からない三郎よりは、兵助は手慣れている。だが相手の数が優位だったのもあり兵助は今、ボロボロで三郎の目の前に転がされていた。
「ごめん…。」
「三郎は悪くない。俺が弱いから…。せめて不破か勘右衛門くらい、腕っ節があれば、よかったんだがな。」
守れなかった。と笑う兵助に涙を堪えながら首を振る。
兵助がひたすら庇ったおかげで三郎は怪我ひとつ無い。
携帯だけは奪われたが、いまはこうして床に転がされているだけだ。
「これからどうする?」
囁くように兵助が呟く。
三郎も同じように小さな声で「まずは待つ。」と答えた。
「あの制服はあまり見ないやつらだった。私がただのハチと雷蔵を呼び出す囮だったら大人しくしてるが………。」
「囮?」
「時々いるんだよ。名前を上げようって雷蔵に喧嘩売るために面倒臭いことする奴らがな。」
苦笑して、しかし三郎はすぐにその顔を引き締めた。
「だけど…遅いなハチたち…………。」
兵助は真剣な表情で思案する三郎を静かに見つめている。
大川学園の天才。鉢屋三郎。
いつも全国模試で自分の上位に居る彼が、大川学園の参謀をしているとは知らなかった。ついこの間までは。
初めて出会ったときは、勘右衛門に連れられて挨拶に向かったときだ。
竜高と大川は長い間ライバル校同士で、制服のまま挨拶に行くなど自殺行為に近かったのに。その番長は見事にそれを沈めて見せた。
自分のボスの幼馴染だという長、そして、その背後に控えめに控える彼はつまらなそうな顔でその場にいた。
長同士が話している最中、兵助はただの好奇心で三郎へと近づき。
そして。衝撃を受ける。
「全国一位の頭脳を喧嘩で使うか………。」
「二位が何を言ってる。大体私は頭を使わないと価値ないだろうが。」
「その言い方よせ。」
自分を卑下する言葉に兵助が目を吊り上げ、三郎がからかうような笑みを浮かべ視線を逸らす。
「さっきの写真をハチたちにメールしたなら、もうそろそろのはずだ。」
「……………おい。」
話を逸らされたことに不満気な顔をしながら兵助が睨む。
三郎はそれにニヤリと笑って答えた。
男は、先輩から命じられて表の警戒に当たっていた。
このあたりを統べるリーダーは、とても強いらしい。その名前は二つ隣の地区まで噂され、そこで男の欲深なリーダーが立ちあがったのだ。
聞いた噂では温厚なこの地区の長は自分からは決して喧嘩を仕掛けないらしい。
仕方なく、一番弱そうな奴を攫ってきたのだが、おまけは誤算だった。
そのまま放っておくよりはと一緒に連れて来たのだが、その必要があるのかは男には判断がつかなかった。持て余した故の、と言ってもいい。
まさかそれが、自分たちの命運を分けると思わなかっただろうに。
男が視界の端に見覚えのある茶色を見つけた。
「誰だ!」
声高くそれに手を伸ばすと、その手を逆に掴まれる。
そして現れた顔に目を瞬かせた。
「お、お前奥に居たはずじゃ………!!!」
「ん。勘右衛門大当たり。」
「どうも。」
茶髪の男の背後で、灰色のブレザーを着た男が肩を竦める。
「そしてお前ははずれだ。」
僕の片割れを返してもらうよ。
その声を最後に、男は腹部に強烈な痛みを覚え、意識を沈めた。
「なんだぁ!!!てめぇら!!!!!!」
「うるせぇ。お前らが待ってる奴らだよ。」
倉庫にはずらりと強面の男たちが揃っていた。だが、竹谷は不敵に笑い一歩その中へと進む。
滲み出る殺気は背後の二人のそれと交わり、赤く昇り立つようだ。
「うちの参謀。返してもらうぜ。」
それに、男たちのリーダーなのだろう。自信と傲慢さと欲望を絵に書いたような人間が、竹谷の視線の先に貫かれる。
男はぐるりと自分の周囲を囲む部下たちを見、それから三人のみの敵を見、怯みそうになる自分を押さえつけた。
「やれ。」
そう短く命じただけで飛び出す部下たちを、満足気に見つめた。
竹谷がバッと黒い学ランを翻し、その波を迎え撃つ。
目の前に迫る拳に怯むことなく、全身を使って戦う姿は雄々しくまさにリーダーの名にふさわしい。
雷蔵も上着を脱ぎ捨て、怒りの鉄槌を男たちに喰らわせ始めた。
ひたすら拳を振るうわけではない。むしろ手数は少ない。だが、雷蔵の喧嘩の恐ろしいところは、その圧倒的な力だ。
ただ一撃拳を振るうだけで、あり得ないような音があちこちから響き渡る。そしてその背後には腕や足を抑える男たちが死屍累々と横たわっていた。
「あーあ…俺の仕事無くなっちゃうよ。」
そう言いながらも、勘右衛門は恐ろしい笑顔を浮かべながら上着を脱ぎ捨てる。
続いてネクタイもしゅるり、と音を立てて外し白いシャツの袖を捲る。
「俺も、お気に入りを二人も持っていかれて怒ってるんだからさ。」
そして乱闘の中へ悠然と入って行った。
にわかに騒がしくなった戸の外に、三郎と兵助が顔を合わせる。
「来たかな?」
「来たな。遅いぞ全く。」
二人ともほっと息を吐いて、緊張状態だった体を緩ませる。
あとはあの三人がこの戸を開けるのを待つのみだった。
さほど待つことなく、勢いよく扉が開かれた。
だが、そこに立っているのは黒を纏う友人たちではなく。
「ま。予想の範囲内かな。」
「冷静だな三郎。」
「兵助こそ。」
「ごちゃごちゃうるせぇぞ!!!!」
「うるさい単細胞。単純なことにしか脳みそ使わない奴が私に口答えするな。」
縛られたまま、上半身だけ起こした状態で三郎が元凶の男を睨む。
その視線に一瞬たじろいたものの、三郎が縛られている状態を見て笑みを浮かべた。
「ふん。大川の参謀は役立たずだと聞いたが、その通りのようだな。」
「……………人にはな。向き不向きってことがあるんだよ。お前が頭使うの苦手なようにな。」
気にしていることを言われ三郎の視線がますます冷えたものになる。
男は細い三郎を縛る縄を持ち、引き摺りながら部屋を出た。
「おい!!!」
兵助が声を荒げて止めようとするが、男は兵助を一瞥し、その顔を蹴り上げる。
「兵助!!!!」
いままで大人しくされるがままになっていた三郎がようやく暴れ出し兵助の元へ行こうとする。
だがそれを嘲うかのように、為す術も無くその体は戸の外へと連れ出されていった。
「だっらぁぁぁぁ!!!!」
ゴカッと嫌な音と共に竹谷の拳の犠牲者がまた増える。
「まったく…数だけは揃えてるね。」
「鬱陶しい。」
ダンッ、がっとその背後で雷蔵と勘右衛門がやはり向かってくる敵を叩きのめしていた。
雷蔵は三郎が見つからないことに大分苛立ちを覚えているようだ。
だんだん、倒し方がえげつなくなってきている。
地面で呻く男たちは一人残らず気を失っていた。
「三郎は?どこ?」
「ああ。捜すぞ。」
「…いや。その必要はないよ。」
勘右衛門の言葉に、竹谷と雷蔵が訝し気に振り返る。
自分の背後で殺気が膨れ上がるのを感じつつ、勘右衛門は今や残る一人となった敵をじっと睨みつけた。
「勘右衛門っ、」
そして、その敵に捕らわれている三郎が勘右衛門を見て目を見開き、そしてその目をすぐに逸らす。
竹谷と雷蔵は、三郎が怪我をしていない様子にほっとしているようだが、勘右衛門はその三郎の行動に眉を顰めた。
「……鉢屋。兵助は?」
「こいつの連れならあっちだ。」
人質をとっているからか、男は不遜な態度を崩さない。
にやにやと、醜い笑みを浮かべながら自分の部下を伸してしまった男たちと対峙する。
「なに。死んじゃいねぇよ。ちょっと動けなくしただけだ。」
「………すまない。勘右衛門…すまない。」
「それで。お前は何がしたいの。」
勘右衛門は三郎を無視する形で男を睨む。
竹谷と雷蔵は、三郎が捕えられている限りは動けない。
だが勘右衛門は、三郎など見えていないかのように一歩踏み出した。
「こんな足手まとい、ハチと雷蔵には効いても俺には何でもない。」
ざっ、と足元の埃が音を立てる。
それは、破滅の音楽のように、ゆっくり、正確に刻まれる。
「ねぇ。俺のお気に入りになにしたの?」
男は勘右衛門が一歩近づくごとに血の気を失っていく。
そして、立ち止まった勘右衛門は
「消えろ。雑魚。」
いつの間にか取り出した警棒で、三郎を抱えている方の男の肩をまっすぐに付いた。
ゴキンッ、と肩の外れた音は、その後すぐ上げられた絶叫により三郎以外には聞こえなかっただろう。
うるさそうに顔を顰めた勘右衛門の足が鳩尾を蹴り上げ、男は「グゲッ」とやはり醜い声を最後に倒れた。
肩が外れた衝撃で放された三郎は地面へ転がり、一連の流れをじっと見つめていた。
そこへ竹谷と雷蔵が駆け寄る。
「三郎!」
「大丈夫?」
「ああ………。」
二人に上の空で答え、三郎は顔を青ざめさせて勘右衛門を見上げている。
その視線に気がついた勘右衛門が、今までのにっこりとほほ笑んだ。
「三郎怪我無い?」
「…………悪かった。」
「うん?何が?」
パシンッと持っていた警棒をまた仕舞いながら勘右衛門が首を傾げる。
それは三郎の知るいつもの勘右衛門の姿だが、先ほどの姿もまた、三郎の知る勘右衛門のものだ。
この男は油断ならない。知っていたのに。
「兵助を、巻き込んでしまった。」
「ああ…。三郎が無事ならいいよ。」
兵助もそう言うだろうしね。
そして笑う姿を、どうしても三郎は信じることが出来ない。
首を振って、もう一度「すまない。」と言って、解放された体を起こす。
「雷蔵、竹谷も。ありがとな。手間かけさせて済まない。」
「手間じゃねぇよ。お前は俺の友達!んで大事な参謀!!助けんのは当たり前だろ?」
「僕こそ、委員会を優先してしまって…。お前に付いて行くべきだったよ。ごめん。」
「雷蔵!そんな、私が自分の用事を優先したのがいけないんだ!」
「三郎………。」
「おい。俺の立場は?」
「もっと自分のシマに目ぇ光らせとけ。」
雷蔵に抱きつきながらの辛辣な言葉に竹谷が苦笑し肩をすくめた。
その様子はもう、先ほどまでの険呑な雰囲気は無い。
勘右衛門はそんな友人たちに目を細めながら倒れている男が指した室内へ足を向けた。
「へーすけ。生きてるー?」
「生きてる。勘ちゃん縄外して。」
「はいよ。」
取り出したナイフで縛る縄を切り、兵助を助け起こす。
「あーあ。男前が台無しだぜ兵ちゃん。」
勘右衛門の軽い言葉に笑うでもなく、兵助は俯いたままぽつりとつぶやいた。
「勘ちゃん…俺、守り切れなかった。」
「三郎は怪我無いんだろ?上出来。」
ぽんっ、と叩かれた背中が痛み顔を顰めるが、兵助はようやく笑みを浮かべた。
友人の無事な姿に勘右衛門は肩の力を抜いて、幼馴染たちの下へ戻る。
三郎の無事を確認した竹谷と雷蔵はそれでも心配そうに三郎の傍を離れずにそこにいた。
「兵助!」
二人が現れた途端、三郎が兵助に向かって駆け出し傷だらけの顔へ手を伸ばす。
驚いた兵助はそれを避けられず、温かい手が兵助の頬へと触れた。
「兵助、兵助、ごめん。私が……、」
「三郎は悪くないよ。俺がしたくてしたんだ。」
「でも……。」
「これくらいすぐ治るから。大丈夫。」
安心させるように微笑んでも、三郎はまだ心配そうに兵助の顔を覗きこんでいる。
困ったようにその背後にいる雷蔵と竹谷を見て、視線を受けた二人が頷いた。
「三郎。」
「え…?」
「兵助の怪我ならな。お前の飯食えばすぐに治るよ。」
「っ!!!!!!?」
にっと笑って発せられた竹谷の言葉に兵助の目が見開かれる。
大きな目がそれこそ零れそうなほどに開かれたが、三郎が「そうか…?」と再び見つめてきて、慌てて表情を作る。
「もちろん。」
「あ。いいなぁ兵助。鉢屋。俺も俺もー。」
勘右衛門がその隣で明るく挙手するのに三郎は嫌そうな目で睨んだ。
「無理して来なくていいぞ。」
「え?無理じゃないよ?」
俺、鉢屋大好きだもん。
そしてにっこりと笑っても、三郎には胡散臭さしか感じられないらしい。
それが掛け値なしの本音であることを知っている竹谷は苦笑して、「じゃあ帰るか!」と友人たちに声をかけた。
大川学園番長、竹谷八左ヱ門。
「なぁ三郎。なに作んの?俺腹減った!」
同学園参謀、鉢屋三郎。
「は?お前まで来るのかよ。」
同学園戦闘員、不破雷蔵。
「僕もお腹空いたなぁ。」
竜王高校番長、尾浜勘右衛門。
「鉢屋鉢屋!俺肉食べたい!」
同高校参謀、久々知兵助。
「豆腐があれば…俺は………。」
そんな肩書を持つ五人が、ただの高校生の顔で星空の見え始めた帰り道を歩く。
だが倉庫へ転がされた男たちはもう理解していた。
あれは、手を出してはいけないものだ。
心に刻んで、そしてまた五人には平和な日々が訪れる。
それを阻む物は、もうなかった。
あとがき
流渓 様のコスプレリク「学ラン」でした!
すみません普通に着てるか応援合戦ということでしたが、こんなんなりました///
番長が書きたい!!!!と燃えたはいいものの、なんか、長くなりました(笑)
い組がブレザーなのは趣味です。かっこよく上着を脱いでネクタイとって腕まくりする勘ちゃんが書きたかったのです。
そして一番の見どころはもちろん。学ランで縛られた三郎にハァハァすることかとwww
タイトルはアソビの尊敬するもろこち大先生が付けてくれたのです!!//////
あざます!!!!もろこち先生大好き!!
流渓 様のみお持ち帰り可となります。