あなたという人は






穏やかな空気の流れる長屋の部屋の中。
同じ顔をした二人が、一人はごろりと床に転がりもう一人は優しい手つきで道具の手入れを行っている。
寝転がっているのが雷蔵で、床に道具を広げて丁寧に手入れをしているのが三郎だ。
勤勉な雷蔵にしては珍しく、だらしなく床に寝転がったままぼんやりと虚空を見つめていた。
否。虚空ではなく、三郎を見つめている。
その視線に気づいているのかいないのか、三郎は鼻歌でも歌いそうな雰囲気で、ただ慣れた手つきで簪やら櫛やらの道具を手の内で玩ぶ。
雷蔵はその横顔に何を思ったのかゆっくりと体を起して膝立ちになり、ずりずりと三郎の横へと移動した。
そして両手をそっと三郎の両頬へ伸ばし、柔らかな頬を親指で優しく撫でる。
「なんだ雷蔵?」
さすがに三郎もそちらに意識を持ってきてきょとんとした顔で雷蔵を見上げる。
だがその目の中に写る雷蔵は真顔のまま三郎の頬から手を離さない。
「らいぞ…………!!!」
訝しんだ三郎が名前を呼んだ途端。
両頬が思い切り引っ張られた。
ぎぅぅぅぅっと音がしそうな程に三郎の頬を抓っても、特別頑丈に作られた面はびくともしない。
だがもちろん三郎とて頬が抓られれば痛いものは痛い。
何か理由があるのか悪戯がばれたかまさかでもこのところは悪戯はしていないしと痛みを堪えながらひたすら頭を働かせ、しかし雷蔵がこんな行動に出る原因に心当たりはない。
三郎は雷蔵の好きにさせるべく自分の膝の上で手を握りじっと痛みを堪えるが、その両手はぶるぶると震えそこから伝染したかのようにだんだん全身が震えてきた。
「らいおー………いひゃいぃぃ…。」
「…………………。」
「うぅぅ……………。いひゃいよぉぉぉ…………。」
じわり、とついに堪え切れず涙が三郎の目に浮かぶ。
それがぽろりと零れた瞬間、ようやく頬が解放された。
「ふぇぇぇぇ………。」
痛かった。と流れる涙をそのままに三郎がいまだに痛む頬を手で擦る。
「やっぱり。三郎はかわいいね。」
俯いていた三郎の上からそれはもう満足気な声が投げかけられた。
「ぅえ?」
「痛かった?ごめんね。」
再び三郎の頬へ伸ばされた手に一瞬三郎の体が怯えに震えるが、逃げずにじっと雷蔵の手を目で追う。
伸ばされた手に今度は抓られることはなく、赤くなった頬を優しく撫でられた。
口づけをするときのように近づいた雷蔵の顔を胸を高鳴らせながら見つると、愛おしそうに細められた目と目が合った。
「泣いた君は、どんなにかわいいだろうと思って。つい。」
つい、でそんなことしないでほしい。
三郎は心底そう思ったが、雷蔵は嬉しそうに三郎の涙をそっと指で拭い、また微笑む。
「かわいい。三郎。」
その声があんまりにも愛おし気で、それに嬉しそうなので、こんな声を出されたらもう三郎には為す術はないのだ。
雷蔵はずるい。そんなことを思いながらも、三郎は「それはよかった。」と答えるしかできない。
「うん。」と楽しい事を発見したかのように笑う雷蔵がそれはそれは嬉しそうなので。
諦めて涙目になる三郎に向かって「ああでも、いつも泣かれるのは嫌だな。」と弾んだ声がかけられる。
「三郎が誰かに泣かされてるなんて絶対嫌。三郎は、僕以外に泣かされちゃ駄目だよ。」
そんな理不尽な。
なんてそんなこと思う訳がない。
頬を撫でる優しい手を振りほどき、勢いよく雷蔵の胸に飛びつく。
雷蔵は難なくその体を受け止め、その頭を撫でながら「わかった?」と耳元に囁く。
こくこくと頷くその頭に「よし。」とまた笑って、大事にその体を抱きしめた。
本当に。
まったく。本当に性質が悪い。
三郎は真っ赤になっている顔を雷蔵の胸に埋めながら胸中で悲鳴を上げる。
その一言。その一動作。その一つの愛情がどうしようもなく私を幸せにするのだから!!
ああ本当に性質が悪い!!




あとがき
テンション高いままに雷鉢書きたくなって2時間くらいで書き上げた雷鉢。
いちゃいちゃが!!書きたかったんです!!!
あと三郎のほっぺ抓る雷蔵と「いひゃい…」っていう三郎と「泣いてる三郎はかわいいね(にこっ)」っていう雷蔵が書きたくて!!
まだちょっとテンション高いな!楽しかった!!

忍たまTOP