あなたの居場所





考え事や書き物をするとき、自室より図書室より教室よりはかどる場所が三郎にはあった。

今日は委員会でその場所は開いているはずだ。別にいつも無断で借りている訳ではないが、三郎が許可を取らずに入ってもそこの主は許してくれた。
「…あれ?」
「よう。来たのか。」
目的の部屋の戸を開けると、居ないはずのそこの主が鎮座している。
「兵助。お前委員会じゃなかったの?」
「雨が降りそうだから中止になった。」
「ああ…。」
火薬に湿気は厳禁だ。曇り空は確かに今にも降り出しそうな色をしていた。
「ま。いいや。場所貸して。」
「………俺は今読書中なんだが。」
「いいじゃん。本は机じゃなくても読めるだろ。」
文机に置かれた本を無造作に兵助の体に押し付け、三郎は委員会の書類やら宿題やらをそこに広げる。
それに迷惑そうな顔をしながらも兵助は逆らわない。
ただため息を吐いて壁際へ移動し、そこに背を預けて読書を再開する。
「悪いな。」
「早く終わらせろよ。」
「分かってる。」
それを最後に、沈黙が部屋を支配する。
しかしそれは決して気まずい空間ではなく、むしろ集中力を高めるのに快適な静けさであった。
兵助の部屋は、なぜかいつも落ち着くほどに静かだ。
音が耳に入らない訳じゃない。時折兵助が紙を捲る音、外で一年生たちが遊ぶ声、時折部屋の前を誰かが通る音。それらも全て三郎の意識には入ってくる。
しかし、それは気を乱すものではない。
竹谷の部屋だとこうはいかない。いつも何かがガタガタ騒いでいるし、汚い。
雷蔵と三郎の部屋は、一人でいるには寂しすぎる。
勘右衛門の部屋はまだどこか緊張する。
この兵助の部屋が、三郎にとって一番落ち着く場所となっていた。
そして集中し出した三郎を、兵助は本から顔を上げてじっと見つめた。
サラサラと何かを書いている手は淀みなく、紙の端まで行くと次の紙を手に取る。
そしてそれも同じ速さで書き上げ、次の紙にかかる。
それを繰り返し、今度は兵助も見覚えのある宿題を手に取った。
先ほどの驚異的な早さで委員会の仕事は終わらせたらしい。同じく宿題もあっという間に片づけて行くことだろう。
ちなみに、その宿題で兵助は休みを一日潰したが。
三郎は今、少し考えているようだった。
一度兵助が本に視線を戻し、何枚か読み進んだ処で再び筆の走る音がする。
やはり先ほどと同じように筆は淀みなく動き、瞬く間に紙を埋めてしまった。
カタンと置かれた筆が作業の終了を示している。
嫉妬は無い。そんなものはもっととうに幼いころに別れた感情だ。
今、兵助は単純に三郎の技量に感心していた。
「終わったか。」
「ああ。ありがとな兵助。」
トントンと紙を纏めると、三郎は振り返って兵助に微笑んだ。
「早いな相変わらず。何か魔法でも使ってんのか?」
冗談めかして言えば、三郎はきょとんと目を瞬かせたあと少し照れくさそうに笑う。
「兵助の部屋だと集中できるんだ。だからいっつも邪魔してる。」
「そうなのか?」
「うん。落ち着くんだ。ここ。」
そう言って部屋を見渡す顔がとても優しいものだったから、兵助はさらに「何故?」と追及した。
そんな理由など考えたことなど無かったのだろう。三郎はまた目を瞬かせ兵助を見つめる。
「なぜ………って。」
「うん。」
「……………兵助の部屋だから?」
「うん?」
しばらく考えてから出された答えに、今度は兵助が首を傾げる。
「どういうことだ?」
「えーっと、たとえばハチの部屋はな。汚いんだ。」
「うん。そうだな。」
「それにすぐに虫が逃げただのなんだので煩いし。」
「うん。」
「私の部屋は、駄目なんだ。雷蔵が居ると私が集中出来ないし、雷蔵の居ない部屋は寂しくて居られない。」
それは三郎が雷蔵に注いでいる愛情の証のように感じたが、兵助は深く考えずまた「うん。」と頷いた。
「勘の部屋は、な。…なんか緊張してしまうんだ。」
「そうなのか。」
「兵助の部屋は、」
言葉を切って、三郎が部屋を見渡した。
床に積んである本。棚は種類ごとに分けて収納されてはいるが、整頓されてはいない。部屋の隅に置いてある箱には同じように武具が入れられて、少しはみ出しているのが見える。
兵助の、気配が残っている。
「なんか安心する。兵助が、ずっといてくれている気がする。」
それは。
兵助がいると安心していると、そう言っているのだろう。
兵助は本を横に置き、三郎の隣へ移動した。
「兵助?ってうわ!!こら!!」
そしていきなり強く抱きしめた兵助に三郎が慌ててその背を叩く。だが兵助が腕を離す気配は無い。
それどころか、やけに熱っぽい声で「三郎…。」と耳元に囁かれては抵抗も出来なくなってしまうのに。
「こ、こら!!兵助!!なにいきなり盛ってるんだ!!」
「三郎が可愛いのが悪い。」
「はぁ!?」
突然襲われた三郎には意味が分からない。今の会話のどこに可愛い要素などあったのか。
泡を食って目を白黒させている三郎に、兵助が目の前で微笑む。
不覚にも、三郎はその大好きな綺麗な顔に、見惚れてしまった。
その隙をついて兵助が唇に食いつく。
「んんっ!!んーー!!」
腕を伸ばし兵助の体を押し返そうと突っぱねるがそれも押し倒されてしまってはほとんど無駄な抵抗だ。
兵助の舌がぬるりと三郎の唇を割って入る。柔らかいそれで上顎を擽られると、手から力が抜けるのがわかった。
ぞわりと背筋が泡立つ。三郎は息苦しさとその感覚に涙を浮かべ、好き勝手に口内を蹂躙している目の前の男を精いっぱい睨みつけた。
三郎をじっと見ていた兵助も、その目をすっと細める。
「んっ、ふ、ぁ!」

「…煽るなよ。」
「や、あ!!んぁ、っあ!」
ぴちゃ、と兵助の舌が耳を犯す音に体が震える。同時に胸を服越しに弄られ、声も上がってしまう。
兵助は震える三郎の体を自身の体で押さえつけその白い首筋に顔を埋めた。
吐息がそこにかかる度に、三郎の体がまた震える。
「なぁ、三郎。」
溢れる愛しさでどうにかなりそうだ。
兵助は熱の籠もった瞳で、三郎を見下ろす。三郎も、涙目になりながら兵助をぼんやりと見上げている。
「三郎、いいだろ?」
視線を絡ませて、兵助は三郎に問うた。
主語の無い言葉でも意味は十分に通じて、三郎の顔が赤く染まる。
「…まだ昼間だぞ。」
「うん。」
「…他の奴らが来るかも。」
「大丈夫だよ。」
「…なんの根拠だよ……。」
「勘かな?」
笑顔を重ねれば、三郎に陥落以外の道は無い。
悔しそうな顔をしながらも伸ばされた腕に兵助が体を預ける。
背に回された腕がきつく抱きしめてきて、少し苦しかった。意趣返しのつもりだろう。
しかし了承は了承。兵助は笑みを深くして「好き。三郎。」と囁く。
少し力の抜けた腕から体をずらして、いまだ悔しそうな顔をしている恋人に触れるだけの口づけを落とした。
その目が少し和らいだのを確認しつつ兵助の手はすでに三郎の制服を脱がしている。
あっという間に露わにされた体に、三郎が恥ずかしそうに顔を逸らす。
「この変態…。」
「なんだって?」
「そりゃおまえっ!あああ!!!やっ、ちょ、ンぁ、あっああ!!」
いきなり掴まれたそこに悲鳴を上げ、ぐりぐりと三郎自身の先端を兵助の指が弄るたびにそれが断続的に起きる。
「やっ、ん!ぁっあ!ア…だめ、やっ、へ、すけ!!」
「先っぽ、気持ちいいんだろ?ほらもうぐちゃぐちゃだ。」
兵助の言葉通り、大した時間も立たないうちに三郎の先端からは先走りが溢れていて、部屋中に濡れた音が響いていた。
それを改めて言葉に出されてしまうのは、とても恥ずかしかった。
ぎゅう、と目を閉じた三郎の瞼に、柔らかい感触が触れる。
「ほら、足広げて三郎。」
「あ…………。」
内腿に、濡れた感触がする。兵助の手と、その濡れた感触の原因に思い至って三郎はまた恥ずかしそうに顔を逸らした。
「三郎。ほら。」
「うぅ……。」
しかし達せないままの今の状態は苦しい。
三郎は恥ずかしさで泣きそうになりながら兵助の言うとおりに足を大きく広げた。
兵助の目の前に、いきり立った三郎自身と、その奥まった場所が丸見えになる。
恥ずかしそうに顔を逸らし、全身を赤く染めながらも快楽を待つ三郎に兵助は自分の体が熱くなっていくのを感じていた。
つぅ、と蕾を濡れた指でなぞれば三郎の体が震え、そして兵助もその姿にまた胸が泡立つ。
「三郎…。」
「あ……、へ、すけ。」
名前を呼ぶと、三郎の濡れた目が兵助のそれと合う。
期待に満ちたその色に微笑んで、兵助は指を固く閉じたそこに押しいれた。
「あっ、ああ!!んン!ハ、ぁあ!ひぁああ!!」
探るように指を動かし、アタリを付けてそこを弄ると前を弄っていた時とは比べ程にならない程艶やかな声が上がる。
そこを集中的になぞり、広げるように指を動かせば続けて入れた新たな指もたやすくそこは受け入れた。
今度は二本の指で、そこを嬲る。
「あああ!!んゃあンっ、はっああ!!やぁ、ああああああ!!!」
そして指が三本になり、四本になり、三郎はようやく理性を飛ばしたようだ。
「や、ああ!!へいす、けっ、へーすけぇ!!」
「ん?なに三郎?」
必死に兵助の名前を呼ぶ三郎に、優しく兵助が体を寄せる。
「あぁ、は、も、らめ、やっ、へいすけ!!も、いれてぇ!!」
「さぶろ……。」
ドクリ、と自分の中が脈打つのが分かる。
快楽に煙った目でへぃすけ、へいすけ、と名前を呼ぶ三郎は力の入らない腕で兵助にしがみついている。
その行動ひとつにさえ胸が高鳴って、兵助は堪らずに素早く自身を取り出し、指を抜きとった後に据える。
「ふぁ…、あっあああああ!あっあン!ああ!!」
心得た三郎が息を吐くと同時、兵助はゆっくりと三郎の中へ腰を穿つ。
断続的に突き上げられ、三郎はその度背を逸らして喉を晒した。
それでもしがみ付く手は離れず、兵助は三郎の腰を抱えていた腕を一本外し、三郎の背に添えて抱きしめる。
「んっ、んぅっああ!!はぁあっ、あ、へ、すけぇ!!」
「三郎っ、はっ、すごいな、ナカ、すごい動いてる。」
「やあ!!あああっ、アん!あっらめ、ああっあああああああ!!」
「くっ、」
耳元で囁かれた声に、強く中を抉られる快楽に三郎がついに達した。
だが兵助は息を詰めてキツク締まるそれをやり過ごす。
目の前でハァハァと荒い息を吐く三郎に口づけた。
「ふぅ、ん、は……。」
舌を絡めて、うっとりと目を閉じる三郎はまだ理性が戻っていないようだ。
兵助はまだ固いままの自身を再び強く突き入れる。
「ンあ!?ああア!?やぁ、へ、すけ!!やらっだめぇ!あっ、ひぁあああ!」
目を見開いて三郎はまだ襲ってくる快楽に背を逸らす。絡まっていた舌が外れ、二人の間を銀の糸が通った。
ふつりと切れたそれに、兵助が笑う。
「あっあ…。」
「三郎。」
その笑顔と、名を呼ばれて。
「へ、すけぇ!!あっ、あああ!」
「っつ!!」
「ああああああああ!!!」
三郎の二度目の射精と、同時に兵助も三郎の中に達した。


荒い息のままに兵助が三郎の上に被さる。
二つの重なった息が治まるころ、「兵助…。」と不機嫌な声が部屋に響いた。
だが兵助は気にした様子もなく「んー?」と気の抜けた返事を返す。
「重い。」
「あぁ、悪い。」
ずるり、と精液に濡れた自身を三郎の中から抜き取る。その時三郎が小さく喘いだが、さすがにこれ以上は嫌われると兵助は心の中で念仏を唱えながらやり過ごした。
「うー…。」
「どうした?」
「………動けない。」
顔を顰めながら三郎は己の惨状を見下ろす。
「…やり過ぎだ馬鹿。」
「や。だって。」
「うるさい。どうすんだ。風呂にもいけないし部屋にも帰れないだろ、これじゃあ。」
ため息を吐きながらのその言葉に、兵助は起き上がり再び三郎に覆いかぶさってその目を合わせる。
「じゃあさ。ここに住めよ。」
「………は?」
「落ち着くんだろ?ここ。なら良いじゃん。ずっといなよ。」
「…………………。」
絶句している三郎に、兵助は笑って「な?」と再度言い募った。
「…ばーか。無理に決まってるだろ。別の組同士で部屋変えなんて。」
「出来たらしてくれるのか?」
「…………無理だろ。」
「なんとかなる。」
「………そんなんしなくても。」
ふい、と三郎が顔を逸らす。その耳は、赤い。
「……卒業したら住まわせてくれるんだろ。」
「………っ!!………っ!!三郎!!!!」
「うわ!なんだよ!!」
「愛してる!!!三郎かわいい!!大好き!!!!」
「馬鹿おもっ!こら首を舐めるなぁぁ!!!」


もちろんその部屋の前をだれも通らない訳が無く。
後日雷蔵たちから「結婚おめでとー。」とやる気の無い声で祝福され三郎が家出し兵助が慌てて追いかけ今度は兵助からプロポーズしたのであった。


あとがき
はいおそまつでした(^p^)
何気に久々鉢エロって久しぶり。なので久々知がちょっと鬼畜ちっく。
最後はやっぱヘタレだけど。たまにはいいんじゃないかな!!

忍たまTOP