あいすること




かしゃん、と軽い音が下方からした。
「?」
手が何かにぶつかったかと、なんとはなしに三郎が音のした方を見下ろすと、きらりと銀色に輝くものが。
普通に高校生活を送る分には決して見ることはない銀色のそれが手首に嵌められていた。
「はぁああ!?」
思わずそれから逃れようと鎖から腕を引くが、三郎の手首にしっかりと大きさが調整されている手錠は外れる様子がない。
ぐっと三郎の腕を固定している先を見て、諦めたようなため息を吐く。
「…雷蔵。今度は何?」
「うん?」
じゃら、と鎖を鳴らしながら雷蔵が微笑む。
三郎の手錠から延びる鎖は一メートルそこそこあり、反対側は当然、雷蔵の右腕に繋がれていた。
「今日はもう出かける予定無いんだし、良いでしょ?」
「いや。そういう問題じゃないよな。」
「結構長いの用意したから、そこまで不自由じゃないし。」
「いやそれも、…大事だけどそういう話じゃなくて…。雷蔵分かって言ってるだろ。」
「うん。」
頷く雷蔵はいつもと同じ笑顔だが、あきらかに、ご機嫌である。
それもこれ以上はない位にご機嫌だ。
(これは…逆らったら一転するパターンだ………。)
「どうしたの三郎?疲れたような顔して。」
「………雷蔵こそ。何がしたいの?」
「僕は三郎と一緒にいたいだけだよ。」
また、手錠の鎖が音を立てる。
「本当は首輪に紐付けようかと思ったんだから。」
「そうか………。」
たしかにそれよりはいいのかもしれない色々と。
だがどちらにせよ、雷蔵の言うことに否を言うという選択肢は、三郎の中にはない。
「…雷蔵の好きなようにして。」
「ありがとう三郎。」
君は優しいね。
じゃらり、と手錠の嵌まっている右手が三郎の髪を撫でる。
その手の感触が心地よくて、でも耳元でチャラチャラと鳴る音が耳触りで。
その手に擦り寄るように三郎は静かに目を閉じた。



それから、今二人は居間のソファで寛いでいた。
雷蔵が何かあるとすぐに三郎の頭を撫でようとするので、三郎の体はソファの下だ。雷蔵の膝に頭を預けて眠そうに目を瞬かせている。
雷蔵はそれに心から愛おしそうな目を向けただずっと三郎の髪を撫で続ける。
自分を模したというフワフワした髪が指を通る感触が愛おしい。
頭をことんと膝に預ける様子も。
そしてなにより、耳触りな音を立てる鎖の繋がれた先が。
優しい子だ、と雷蔵は微笑む。
唐突に自由を拘束され、何も事情も聞かずに受け入れてくれる。
その事実に胸が苦しくなるほど愛おしさが募る。
「離したくないんだ。」
「…………んん?」
小さく呟かれた言葉に三郎が眠そうな顔を上げる。
身動きしたとたんに鳴った鎖は、もう三郎の中で意識されるほどのものではないらしい。
それは、自惚れていいことなのだろうか。
「らいぞ?」
雷蔵の願い通りに、雷蔵の為になるように。そればかり考えている三郎を。
改めて拘束することは。
「僕のね、エゴなんだよ。」
さらりと、三郎の髪が指の間を心地よく滑る。
三郎は驚いたように雷蔵を見上げていて、その目に映る自分はなんだかとても歪んで見えた。
「らいぞ…?」
じゃらり、と繋がれた鎖が鳴る。
繋がれた三郎の左手が雷蔵へと伸ばされ、三郎の憧れて止まない髪に触れた。
「泣かないで…?」
「…泣いてないよ。」
「…………ね。雷蔵。」
ぎゅぅってしていい?と微笑む三郎に、今度は雷蔵が目を見開く。
返事を聞く前に三郎はよじ登るようにソファへ座る雷蔵の膝の上に乗り上げ、その体を抱きしめた。
「らいぞう。だいすき。」
じゃらじゃらと音をたてながら、頭を撫でられる。
「さ、ぶろ…。」
「だいすき。雷蔵。大好き。」
ああ。君ってやつは。
「ばかだなぁ。」
僕を好きになるなんて。
「そうかい?」
「そうだよ。」
独占欲に埋もれて真っ黒な僕を。
「わたしは、とても素晴らしいと思うよ。」
そして微笑む三郎に、雷蔵はそれ以上何も言わず。何も言えず。
三郎を抱きしめた後静かに涙を流した。


それはきっと素晴らしいこと。



あとがき
なんとなくシリアス調。
どんな形であれ、本人たちが幸せならそれが素晴らしい愛の形。

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