貴方に愛を
雷鉢ver2










実は、私は雷蔵が酔ったところを見たことがない。
二人で飲む時もみんなで飲む時も、私が一番弱くて、雷蔵が一番強い、らしい。最後まで起きていたことが無いから分からない。朝起きて二日酔いになっているのも見たことがないし、ましてや酔っている時の話すら聞いたことがないのだ。
うわばみ、というやつなのだろう。わくのように酒が素通りしてしまうのだから酒の弱い私からしてみれば羨ましい話だ。
しかしそれで話が終わることはもちろんない。
私は変装名人鉢屋三郎!!
雷蔵が酔ったときの事を知らなくてどうする!それでは完璧な変装とは言えないだろう!
と、いうわけで。


「ら、い、ぞ、う。」
「ん?どうしたの三郎?もう寝るんだろう?」
二人並べて布団を敷いてあとはもう寝るだけ、となった時間。私は隠し持っていたびろうどの瓶を取りだした。
しんべヱくんを通じて、彼のお父上に依頼した酒だ。もちろん変装して注文したから父君は忍術学園の生徒が買ったなどとは露とも知らない。
知る限り一番強い酒を。と注文したのでそれがどれほどの物かは分からない。うぉっか、と言ったか?寒い土地の人間が体を温めるために飲むらしい。
そこまで言うと雷蔵も興味を持ったらしい。瓶を手に取ってマジマジとそれを見つめた。
「雷蔵はお酒強いだろう?試してみてくれないか?」
上目づかいにそっと見上げる。お願い、と視線で訴えれば、雷蔵は笑って頷いてくれた。
「そう可愛い顔されちゃあね。いいよ。飲んでみようか。」
「そうこなくちゃ!」
よし!これで作戦第一弾は完了!
あとは雷蔵が酔うまでこの酒を勧めなければ…。
私は棚から猪口を一つ取り出し、雷蔵に手渡した。
「ささ、どうぞどうぞ。」
「はは、どうも。」
ふざけて遊女のように酒を注げば、雷蔵も満更でもない様子でそれを受ける。そしてぐっと一気にそれを飲み込むと、空になった猪口をじっと見つめた。
「雷蔵…?」
「…なんでも無い。もう一杯貰えるかい?」
「はいな。どうぞ何度でも。…おいしい?」
「うん。」
そして再び注いだ酒をぐいと飲み干す。いい飲みっぷりだなぁ。惚れ直しそうだ。
私は注ぎ役に徹し、空になった杯に次々酒を足していく。
「………………。」
まだだろうか?
雷蔵が常識外に酒に強いのか、それとも思ったよりこの酒が弱いのか。
どちらにせよこのままでは作戦は失敗だ。
幸いまだ瓶には半分ほど残っている。これを何とか飲ませてみよう。
「雷蔵?」
「何?」
「私、何かツマミを作ってこようか?雷蔵も酒だけじゃあ辛いだろう?」
なんて良識的な事をいいながら、ツマミで誤魔化しながらまだ飲ませるつもりだ。しかし雷蔵はニッコリ笑って膝立ちになる私の腕を取った。
「…三郎はいい奥さんになりそうだね。」
「…はぁ?雷蔵、私は男だぞ。」
「やだなぁ。例えだよ三郎。」
雷蔵はご機嫌な様子でにこにこ笑っている。
…なんか、いつもと笑顔が違うような?
「雷蔵、酔っているのか?」
「うん?うーん、いや、平気だよ。そんなことより、三郎はほら、こっち来て。」
「うわっ。」
掴まれた腕を引かれて胡坐をかいた雷蔵の膝の上に倒れてしまった。慌てて体を起こそうとしたら、そのままクルリと体を反転させられて、膝の上に横抱きで座らされてしまう。
ふわり、と雷蔵から酒の香りがする。
私はもうその匂いだけで酔ってしまいそうになって体を離そうとするのに、体を支える腕がそれを許さない。
「ら、らいぞっ。」
「ツマミはいいからほら。三郎はここに居て?」
「い、いる!居るから!下ろせよ!」
「僕の膝の上は…嫌?」
そっと私の顔を覗きこんでそういう雷蔵は、少し寂しそうに微笑んでいて。ああもう!
「い、いやじゃ、ない…けど。」
「ならいいよね。」
そしてぱっと体を戻す雷蔵に脱力してしまう。
私がさっきの顔に弱いと知っていてわざとああやったのだろう。それを分かっていながら拒否できない私の負けだ。
雷蔵はすでに手酌で酒を注いでいる。
私が居心地悪気に身じろぎすると、雷蔵が「三郎?どうしたの?」と頭を撫でてきた。
それが気持ちよくて思わず目を細めてしまうが、上からふっと笑われた声がして慌てて首を振る。
「ら、らいぞう!重いだろう!?私退くよ!」
「駄目。退いたらだめだよ。重くないから。」
「で、でも!」
「本当に、三郎はこんなに軽くて…。こんなに細い。首も。」
「ひっ!?」
首筋に顔を埋められて、吸い上げられる。その感触にぞわりとして体を震わせるが雷蔵は止まらない。
「体も。」
つぅ、と杯を持っていない方の手が私の薄い体を撫ぜる。
「腕も。」
体を撫ぜた手が私の腕をそっと掬いあげる。
「指先も。」
ちゅ、と軽い音をさせて私の指に唇が触れる。
その拍子に熱い吐息を感じて、私ははっと我に返って自分の手を奪い返した。
「ら、雷蔵酔ってるだろう!?」
「酔ってないってば。」
嘘だ!それは酔っ払いの常套句だ!
雷蔵の顔を見上げれば、表情がいつもと変わらないため気付くのが遅くなったが心なしか顔が赤い。
「三郎は綺麗だね。」
「は、はぁ!?」
今度は何を言い出すんだこの酔っ払い!!
先ほどから私を赤面させるためだとしか思えない言動はなんだんだ!?何酔いというだこれは!?
「今触れた処も、僕しか知らない処も。全部全部、綺麗だよ。」
「そ、そんな雷蔵と変わらないよ!」
「そんなことないさ!」
雷蔵は乱暴に瓶を床に置くと、私の後頭部をがっしりと固定して目を合わせてきた。
「ほら、君の目も。耳や、首筋、この細い体も。手や、足。君を形造るもの全てかずっと見ていたい程綺麗だ。ねぇ知ってる?」
「な、なにが?」
目が。
目が離せない。
酒のせいか少し潤んだ瞳はとても扇情的で。飲まれてしまわないようにするので精いっぱいの私はただ疑問に型通りの返事しかできない。
「いつだって、僕は君に見惚れているんだよ。授業中も、任務中も、遊んでいる時も、ちょっと君を見かけた瞬間だって。いつでも。綺麗な君から目が離せないんだ。」
そしてうっとりと私の頬を撫ぜるものだから、私もたちまち顔を赤くしてしまって動けなくなる。
「ふふ…。顔が赤いね三郎。…君も酒を飲んだのかな?」
「あ、いや。ちが…。」
「かわいい。照れてるんだよね。すごく、かわいい。」
「ら、らいぞう…。」
も、もう無理!もうやだ!!
酔った雷蔵がこんなに性質が悪いなんて思わなかった!!
私は泣きそうになりながらなんとか雷蔵から離れようとするが、後頭部と体に回された腕がそれを許さない。
「三郎…。」
雷蔵の、唇がわたしに、触れる。
「んっ、ぅ」
雷蔵の舌がずるりと私の口内に侵入してきた。酒の味と匂いに、頭がくらくらする。
くらくら、して…
あれ…?


気がつけば私は布団に寝かされ、そして目が覚めた時はすでに日が昇っていた。
「…え?」
「あ。起きた?」
すぐ横の慣れた気配に目をやれば、いつもとまったく変わらない雷蔵がそこに居た。
「ら、らいぞう?」
「おはよう。」
「お、おはよう。」
爽やかな笑顔に先ほどまでの記憶が混乱する。
え、あれは、夢?
「三郎ってば僕の口に残った酒だけで酔っちゃうんだもん。驚いたよ。」
まぁ僕が酔っちゃうくらいだからすごく強い酒だったんだね。
からりと笑う雷蔵が今は憎い。
つまり、昨日のあれは夢ではなく。
「僕って酔うと素直になるんだね。初めて知ったよ。」
あれだけの事をしたのに照れる様子もない。
「…記憶があるんだな。」
「うん。僕お酒で記憶無くすことってないんだよね。」
「そうか…。」
私は消してしまい気でいっぱいだがな。
もったいない気もするが恥ずかしすぎる!!!
「三郎も覚えてるの?」
「当たり前だ。」
「なんだ。」
忘れてたら、同じ事を言ってあげようと思ったのに。
そう笑う雷蔵に、私は今度こそ脱力した。
もう絶対!雷蔵を酔っぱらわせることなんてしないからな!!

あとがき
326の日記念フリーss。
テーマ「指定された小道具で三郎に愛を伝えてください。」これは友達めゐのから出された課題「酒」
いや最初はあのギャグ脳が「鈍器」とか言って来て「無理!」と叩き返した結果こうなりました(笑)
正式な課題名は「酔ってテラ男前になった雷蔵が三郎を口説く」です。どうかな?

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