「ああ、世界はなんて、」


幼いころと同じように家を出たというのに、大人に近づいているこの体はずいぶん容易く学園へ着いてしまった。一人で寄り道をするのは好きではなくて、脇目もふらずまっすぐ来てしまったのもいけなかったのかもしれない。
気がつけば、授業が始まる三日も前に、私は学園に辿りついてしまった。


家を出たときに雷蔵の顔になってきたので、早速事務員に名前を間違われながら人の少ない学園へ足を踏み入れる。
「………………。」
夏の終わり、秋の始めだというのに色が無い。そんなはずは無いのにそう見える、その理由に眉を顰め、その自分に溜め息を吐いた。
溜め息を出した際に俯いた拍子、泣きそうになる。
そんな自分を叱咤して首を振ると、まっすぐ長屋へ足を向けた。今は誰も居なくても、私と彼の部屋に行けば少しは気分も浮上するだろう。

しかし、私は部屋の前で躊躇してしまった。
今この戸を開ければ、あるのは整頓された部屋。いつも散らかす彼はまだ来ないから、きっとあと三日は整頓されたままに違いない。
「嫌だなぁ……。」
生活感の無い部屋。人気の無い部屋。そんなの大嫌いだ。
また溜め息を吐いた。ここで立っていてもしょうがない。
意を決して戸を開けた。
「………あれ?」
そこにあるのは、予想と違う散らかった荷物。そして
「あれ?三郎?ずいぶん早いね?」
「……雷蔵?」
こちらに背を向けて座っていた彼は振り返り微笑んで私を見上げている。
対して私はどれほどの間動けずにいただろう?
気が付けば、無我夢中で私は雷蔵にしがみついていた。
「うわ!!ちょっ三郎!?」
彼の柔和な笑顔、安心するその空気、抱きしめてくれる腕、暖かい体!!私が求めていた雷蔵の存在が其処にあった。
「ああ…雷蔵だ…っ。会いたかった…!!」
「なんだいそれ?」
私が感嘆の声を上げると君は笑う。背中に回された手があやすように優しく撫でた。
うっとりと目を細めて見えたその先の景色は、とても美しい世界だった。



あとがき
日記からサルベージ。
うちの三郎は一人でいるのが嫌い。
年齢が上がっていくにつれて我慢はできるけど、会った時の反動も強くなって、しばらく離れなくなる。雷蔵も竹谷も久々知もそれを知ってるから笑いながら許容する。それでますます三郎が離れられなくなるといいよ!


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